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2話

一話ごとの文字数に差がありまして、読みにくいかもしれません!!大変申し訳ありません。

 おじい様と別れて私は今代のお目付け役と同居することになった。


 能力者である人々が悪事を働いたときに一般の人では太刀打ちができない。そのため、遥か昔陰陽師と盟約を結んでいた。先祖返りの私を心配したおじい様が人里離れた場所で隠れて住んでいたとお目付け役の五楼に教えてもらった。人には大きすぎる力ゆえに、サポートが必要だと。


 実は気が付かなかっただけで、五楼は度々様子を見に人里離れた山に来ていたらしい。私に気が付かれないが条件だったと、五楼は笑っていた。かくれんぼをしているみたいで楽しかったと。 


 熊谷五楼は十歳年上なのでそろそろ三十路。少し長い黒髪は後ろで一つに束ねられ、白い肌は不健康そのもの。声は低めの声。陰陽師の術で五楼は顔や声を相手に覚えられないように工夫している。


 古の約束の一つに夢に関する事件が起きたときに力を貸すことを獏の一族は承諾した。

また、力の制御が出来ない者も歴代にいたため、“危険”と陰陽師に見なされた獏は共に過ごすことを強制される。私は隠れるように暮らしていたため、そんなこと知らなかった。街には人があふれ、ビルが多く、すれ違う人達は他人のことを気にしない。


 誰がどんな夢を抱えていたとしても他人のことだから気にしないのかもしれない。


 人ならざる者の血を継いでいるため、外見年齢が十五歳で止まってしまった私。高校二年生になっても、中学生程に見間違われてしまい、必要以上に子ども扱いをされる。五楼の話だと、夢喰い獏の血が流れているため、『曖昧』なのかもしれないと言っていた。夢は掴めず、形が変化しやすい。実態にはなかなかなれない。


 五楼と出かけると、親子または、兄弟に間違われる。私が童顔、五楼はすっとした鼻と白い肌に映えるような黒髪イケメン。正直一緒に歩きたくない。ちんちくりんの私が目立ってしまう。

 目覚ましを使わずに起きていて、朝ごはんのいい香りがしたから漂ってくる。制服に着替え軽やかに階段を下りて行った。


「結萌、今日から新学期なのに爽やかな顔をしていない」


 居間に魚を中心とした和食が二人分並べられている。色が白く不健康そうに見える五楼は料理が上手だ。私を引き取るとなった時にお手伝いさんが入る予定だったが、私がそれを拒んだ。人里に降りてきてすぐ、本家と名乗る人たちに数年幽閉されていた。五楼が助け出してくれなければ私は今も牢屋にいることになった。


 先祖返りの私の力のお目付け役が中々見つからなかったのが原因。いつ暴れだすか分からない者を自由にできないというのが本家の言い分。おじい様と別れてすぐに本家に幽閉されていたのに腐らなかった。『夢渡』をしておじい様に会っていた。幽閉された事実を知ると心を痛め居ていた。


「五楼には童顔の気持ちが分からないのよ」


 五楼は陰陽師だ。顔と名前がバレない様にしている可能性もあるから、私が知っている名前も顔も本当は違うものかもしれない。料理の腕前だって、もしかしたら式神に作らせている可能性だってある。助けられたけれど、五楼について詳しいことは知らない。自分の体験を小説に書いてホラー小説が売れていることしか。


「学生を楽しめる時に楽しまないと後悔するぞ」


 五楼と暮らすようになって、“夢喰い獏”として夢を食べるようになった。毎日の食事で人としての栄養は取れるが、本質である、怪異の部分は格別である。


 文句を言いながらも食卓に座る私を満足そうにしながら、朝ごはんがスタートした。


「日中は側にいてやれない。結萌は危ない橋は渡らないって分かっているが、新学期がスタートした。学生時代、進路が動くと色々漂ってくるのは感じているだろう?食べたくても食べてはいけない夢もある」


「見境ない言い方やめて」


 過去に力に任せ人の夢を食べつくそうとした獏がいた。悪食だったに違いない。美味しい夢を一つ食べれば、怪異としての力はしばらく持つ。人間の食事のように元々毎日三食取らなくてもいい。


「人である面を忘れないためだ。結萌は数十年ぶりの先祖返り。」


 五楼が監視役になっても『本家』へ行くことがある。


五楼は夢喰い獏の一族に代々伝わる「結萌」の名で私を呼ぶ。獏一族の始まりの名であり、陰陽師と主従関係を結んだ獏が名乗る名。先祖返りで能力が一族随一のため、「結萌」の名を継ぐことを認められた。一族の定めを背負い、人々から悪夢を晴らすことを盟約としている。


「私は結萌の名を継ぐ獏。どんな形の夢だって守るべきものは大切にしているわ」


 物心ついたときには、おじい様に力の使い方を教えてもらっていた。母様は獏の血を継いでいたが、『力』を持たなかった。幼い私が修行としておじい様の後をついて歩いていたのを複雑そうに見つめていた姿を覚えている。


人里離れた家には多くの書物があり、中には結萌の日記も混じっていた。古の約束のしがらみに翻弄され心を壊してしまった結萌の日記。私が名を継ぐとは当時思わずに読んでいた。夢はどの時間とも繋がっており、過去も未来をも視ることもできる。


「五楼は私を止めるために居るのでしょう?」


 手綱を握られている感覚はぬぐえない。どちらの姿が本当かと聞かれればどちらも私。切り離してしまえば私は死ぬことになる。


 私にもう一つの名があることを五楼は知っている。知っていてなお、彼は私を結萌と呼ぶ。陰陽師の彼だからこそ、名前を大切にしていて、私に毎日呪を懸けている。


日本に古来から伝わる言霊。名前は個人を固定する一番短い呪い。


私が用意された食事を半分も食していないのを見ても五楼は何も言わない。少しでも口にすれば五楼の合格点。ダイエットをしているわけではなく、幽閉されていたこともあり、胃が小さくなってしまった。


「ちゃんとご飯を食べたことは偉いが、そろそろ学校に行かないと遅刻するんじゃないか」


 時計の針がいつも家を出る時間を指していた。学校まで歩いて十五分ほどの距離。この家を選んだのは五楼。学校に近い家をわざわざ選んでくれた。


「私に何かあれば分かるんでしょ」


 五楼がどこから出したのかテーブルの上にお弁当をに置く。


「日中側に居られない分だ。気づいていたか」


 五楼は私の後ろにそっと目を向けると私が感じとっていた気配がすうっと、無くなる。


「消えた」


「ちょっと霊力とか高いやつにも視られる可能性は極力避けないと。結萌はあくまでベースは人間で多少能力があるやつ程度に誤魔化せるけど、式神はそうはいかない」


 昔から人に紛れている輩は少なからずいる。文明が進歩し、光が夜も瞬くようになってからは徐々に減ってきている彼らに、私は近い存在。人と人ならざる者の血を継いでいるからこそ身を守る手段を使えるだけ使わなければならない時もある。


 知るべき時にはおのずと分かると言って詳しいことは教えてもらえていない。『子供のうちしか楽しめない時間を楽しめ』と言って、術を掛けたブレスレットを持たされている。小さなお守りのようなもの。力が暴走しないように。誰かを傷つけないように。


「夢を喰うことばかりに執着してしまうと、人を忘れちまう」


「私は悪食ではございませんのでご安心を」


 進路に揺れる時期に私をその場に放り込んでいる五楼に何を言われても嫌味にしか聞こえない。人として生きろと言いながらも獏としてのしがらみは身をもって体感させられてしまう。


 五楼は一瞬目を細めた。


「結萌、夕食は作っておくので勝手に食べてくれ」


「締め切りが近いの」


 何度か小説の締め切りで忙しい時は食事などの用意は自分で何とかすると言ったのに、五楼はうなずいてくれない。私が料理を出来ないのを知っている。


 山奥で暮らしていた時も、過保護なおじい様が怪我をすると危ないからと言って、包丁も握らせてもらえなかった。


「スムーズに進んでいたんだが、急に仕事が入りそうな予感がしてな。先に終わらしておこうと思って」


「本業の方」


 家業の陰陽師としての仕事は差が激しい。昔は政権争いなどで重宝されていたが、化学が進歩した今以前ほどの仕事は来ないらしい。怨霊などの、お祓いの仕事の方が多いと言っていたのを思い出す。


「あぁ」


 あまり本業の仕事が活発でないほうが嬉しい。人間がいる限り求められる所かもしれない。夢喰いももしかしたら求められるモノかもしれない。諦めきれない夢を抱え生きる辛さを考えれば悩み苦しんで生きることがないかもしれない。


「私に手伝えることがあったら言ってね。夢に関する事件は私の専売特許だから」


「分かっている」


 陰陽師である五楼の直感はよく当たる。


 近いうちに何か起こるのだとしたら、足手まといにならないように気を付けようと心に誓いながら私はお弁当を片手に学校へと向かった。


ここまで読んでいただきまして誠にありがとうございます。

感想などを頂けると励みになります。

誤字脱字がございましたら大変申し訳ございません。

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