15話
途中視点が変わったりしますので、読みにくいかもしれません。申し訳ありません。
知らない、記憶。
知っている、声。
優しい温もりに包まれているのに、私を囲む二人の存在は寂しそうな雰囲気だった。
私を抱く男の子。抱きなれていないのか、どこかもぞもぞしている。
「私の力が及ばなかったから」
「無理もない。生まれてすぐの赤子の力の暴走なんて誰も予想していない」
懐かしいおじい様の声。労わるように女性に話かけられている。
「ごめんなさい、ごめんなさい」
泣き崩れる女性。儚げに笑い私の頭をなでる時ためらう母様だった。
「少なからず血を受け継いできた。覚悟はできていた」
「ただ人だった彼を出産に立ち会わせたのが悪かった」
「守り切れず申し訳ありません」
渋い、男性の声。陰陽師の男性がどこからか姿を現す。躊躇いがちに、女性に頭を下げる。母様は大粒の涙を拭うこともせずただ、泣き崩れるだけ。
「わたしに血が流れていたから」
「よさないか。これは事故だ。誰が悪いわけでもない」
おじい様が母様の肩を優しく抱きしめる。母様がおじい様の肩に顔をうずめる。
「お父様」
「儂が立ち合いを許可したから悪かったんだ。恨むなら儂を恨め。その子は悪くない」
スヤスヤと男の子の腕の中で眠る私。寝ているはずなのに、見えているのは、夢の中。
私は誰の夢に潜り込んでいる。
愛おしそうに男の子は抱いていた。生まれたての獏の血を継ぐ赤子。
小さな命を抱く男の子は、神妙な雰囲気を打開するかのように、赤子を抱く手に力を籠める。
「父上、将来僕がこの子の後見人になれるでしょうか」
「明月、決めるのは当主様だ」
陰陽師の男性に父上と呼びかけた。当主と、男の子は小さく呟く。
男の子は必死に父親の陰陽師に食い下がる。
「でもこの子はきっと苦労する」
「先祖返りだからな。妊娠したことすらひた隠しにしていたのがなんとなく分かる」
陰陽師の男性がおじい様の肩でなく娘の事を複雑そうな顔をしてみている。獏の力は年々無くなってきていた矢先。怪異・妖怪・妖・異形の物と呼ばれる畏怖される存在の力を持つ人が生まれた。
男の子は赤子の私に語り掛ける。
「この子が結萌の名を継ぐのかな」
願いを込めるような言霊。温かく包み込み、私を護る呪のように、優しく、護りをつけてくれる。
「本家に連れていかれればな。過激派に見つかれば幽閉される可能性が高い」
陰陽師の男性が顎に手を当てている。妊娠を隠して、私を産んだ。人里はなれた山の中で私は暮らしていたのは、本家から私の存在を隠すためだったの。
「ならなおさら僕が守らなきゃ」
陰陽師の男性の言葉を聞いて男の子は嬉しそうに声を上げる。
「明月、お前人の話聞いているか」
「父親を殺してしまって、母親にはちゃんと愛してもらえるのかな」
泣き止まない母様。父様は、産まれた時に交通事故で亡くなったんじゃなかったの。最初力の暴走と言っていた。
私が父様を殺した?
「私の落ち度だ」
陰陽師の男性は悔しそうに視線を落とす。
「母親は納得するの」
男の子は私の寝顔と母様とを見比べている。
陰陽師の男性は視線を男の子に戻す。
「獏にとって人の夢は食事。生まれてすぐ腹を空かせていた」
「父親も一族の血を継いでいたのでしょう」
「生まれて間もない本能だけの状態で誰が父親か分かるのか」
問いかけに男の子は数秒の間ののちに口を開いた。
「分からない」
「罪を背負わせてしまったな」
陰陽師の男性は泣き止まない母様を複雑そうに見つめていた。
私の産まれた時。
母親が時々辛そうにしていたのを知っていた。おじい様は私が父様に似ているから見るのが辛いって言っていた。似ているのが誇らしかったのに。
「私が殺したの」
殺した、という言葉を反芻する。
父様の温もりを知らない。聞きたくても母様が悲しそうな顔をしていた。
おじい様も進んで話そうとはしてくれなかった。
私が殺したから。
「知らなかったの」
悪夢はステップを踏みながら私の周りをクルクル回る。
「どうして、言ってくれなかったの」
母様は力のない獏だった。知っていたら私が手助けをして父様が夢に出てくるようにしたのに。おじい様に相手が望まない夢を見せると、苦しめることがあるからやってはいけないよと言われていた。母様は私に頼めなかった。
愛する人との子なのに、子が親を殺した。
「悪夢の中では有名な話よ。先祖返りが産まれた瞬間なんて自分たちの存在が危うくなるからね。一瞬にして駆け巡った。父親殺しの先祖返りさん」
「違う」
覚えていない。でもさっきの記憶は、誰かの夢に繋がっていた。
「やだ」
認めてしまえば、私は罪に裁かれなければならない。
陰陽師の男性が罪を背負わせてしまったと。私の力が強く、父様を護り切れなかった。
「そう、貴女も私たちと同じ、罪作り」
悪夢が私の傍で足を止め、囁く。優しく、絡み就く。
「い・・・い」
微かに私を呼ぶ声がする。
耳を塞ぎたい。
殺したくて、殺したんじゃない。覚えていなければ罪にならないとは思わない。
「助けて、明月様」
カチリと音がする。
名を呼べと言った。困った時は必ず助けに来ると。
旋風が巻き起こる。暖かな風が私の事を包んだと同時に、五楼が私の事を抱きかかえる。校門で別れた時とは違い、髪の色が銀髪に変わり、目の色は金だ。
「やっと名を呼んでくれたな」
嬉しそうに口元を綻ばせる。
私を本家から連れ出してくれた太陽のような人。逢いたくて、ずっと望んでいた人は常に私の傍に居てくれた。
真名を隠すのは術者の性。私が名を隠しているのと同じように、五楼改め明月も術者として隠していた。
明月の登場に悪夢は一歩後ずさりする。
「お前どうしてここに」
「さてと、悪夢退治と行きますか」
明月が印を結ぶと、体が軽くなる。
「結萌大丈夫か」
明月は心配そうに私の顔を見た。私は彼の腕の中から降りる。
「大丈夫です」
夢を食べてしまえば先生は全てを忘れる。苦しむのならば全部忘れてしまえばいい。
私が全部覚えておいて上げるから。
私の足元から影が伸び、悪夢の化身の女の子に絡みつく。
大丈夫、もう私の心に入り込まれることは無い。
「親殺し、お前の罪は消えない」
「消えないわ。だから生きるのよ」
先祖は自らの血を残すために人と交わった。護り続けなければならない。
先祖返りの私の血も父様と母様が望んだから産まれてきた。
「結萌」
明月名を呼ぶ。私の名ではなく受け継がれているもの。
大丈夫。過去をしたからこそ私は命を無駄に散らすことはできない。
己の影を大きく広げ、悪夢に食らいつく。
むしゃむしゃ。
先生が悪夢から解放されますように。
ここまで読んでいただきまして誠にありがとうございます。




