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夢喰い獏と陰陽師の末裔  作者: 真綾


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14/16

14話

少し長めかもしれません。

視点が変わる場面があるので読みにくいかもしれません。申し訳ありません。

 学校に向かうにつれて、異様な妖気が漂っている。今までと対象にならない。


 校門をくぐろうとしたときに、五楼は何か壁に阻まれるように、その場で足を止める。


「結萌、後から必ず追いつく」


「無理しないで」


 夢の怪異が張った結界は、学校に関わる者以外は入り込めないのかもしれない。


「大丈夫だ、何かあったら、名を呼べ」






 校門にたどり着いたとき、異様に静かな校舎。一番妖気の強い場所、体育館に向かう。

 体育館に集められた生徒が全員倒れていく。先生も例外なしに。

 ただ一人立っているのは、後藤先生だけ。

 私の名前を呼ぶと同時に朱千が姿を現す。


「結萌」


 咄嗟に私の周りに結界が張られ、後藤先生の影が止まる。

 虚ろな目の先生がゆらり、ゆらりと私の方に歩いてくる。

 倒れている生徒を踏みつけながら。


「どうして眠らないの。貴女も独りは怖いんでしょ」


「独りが好きな人なんていませんよ」


 暗い部屋に一人閉じ込められ外の光すら入って来ない部屋。微かに聞こえる笑い声が楽しそうで私もその場に入れて欲しくて。


 暖かな手を差し伸べてくれたあの人にもう一度会いたくて。

 夢を食べていればきっと会えると知っている。私の役目を果たしていればきっと会いに来てくれるって信じている。


「先生は勘違いしています」


 親友についても。私の本質を伝えたとしても、きっと本家が調べ出し記憶を消してしまう。陰ひなたに生きる。それが闇の世界の住人。


 怪異と半分くらい同化しているから、今を逃せば離せなくなってしまう。


「先生が間違えるはずないじゃない。先生に教えて」


「贖罪が目的なら間違いです」


 誰も望んでいないことを、信じて突き進んでも誰も楽しくない。死者の願いとして勝手に解釈していいの。


「違ってない。先生になったのに」


 先生は一メートルくらいの距離から近づけないのは朱千の結界のお陰。


「先生は一つ勘違いしています○○ちゃんは耳が聞こえていなかった。高校が別々になって知らなかったのかもしれないですけど、病気になって聞こえなくなったんです」


 学校が離れてすぐに病気になって聞こえなくなってしまった。会話が聞こえなくて相手を不快にさせるのが怖くて一人で居るようになった。


 生きることに自信がなくなり始めて、それでも、もう一度希望を持ち歩き出そうとしていた。


「交通事故にあったのも周囲の声が聞こえなかったから。自殺じゃない。事故だったんです」


 夢の中の少女が教えてくれた。


「嘘、嘘、嘘」


 先生は両耳を塞ぐ。聞こえないフリ。聞きたくない。


「本当です。先生」


「じゃあ私が呼んだのに無視したのは」


 涙でいっぱいの瞳。クマが酷く疲れ切っているように見えるけど、幼さの残る表情に変わる。


「聞こえていなかったからです」


 先生が自分を責める必要がない。居合わせてしまっただけ。


「言ってくれなきゃ分からないよ」


 その場に座り込む先生。声を抑えないで泣き始める先生。完全に悪夢が無くなったわけじゃない。先生の心残りが無くなったらそれを消し去ればいいだけ。


「先生。誰かのために無理して生きなくていいんです。夢を夢で終わらせていいんです」


 後藤先生が先生になった。誰かのためにが始まりだったのかもしれないけど、先生に巣くわれた生徒もいるはず。生徒の心に寄り添おうとしてくれる先生。


「どうすればよかったのよ」


 助けを求める声が子供の様で。私は先生に向けて手を伸ばす。


「忘れてしまいましょう」


 努力が報われなかったわけじゃない。報われるためにやることでもない。

 伸ばした手を見た先生は驚きの顔で私から後ずさりし始める。


「だめ私から取らないで」


 成り行きを見守っていた朱千が姿を現す。


「結萌逃げて」



 パクリと音だけが残った。









 暗い部屋の奥で泣いている女の子がいる。


 肩まで切りそろえられた髪の毛、丸まるその後ろ姿。


「部屋から出してここはもう嫌だ」


 醜い夢ばかり食べさせられた部屋に、私はずっといることになるの。大切だった家族がいなくなって本家に来たけど怖いおじい様しかいない。


「独りは怖いでしょう。一緒に居てあげる」


 誰かの声がする。聞きたくない。来たくて来たわけじゃない。おじい様と一緒に居たかった。母様と父様と過ごしたかった。


「私は居場所を見つけたわ」


 見つけられた人は幸せかもしれない。見つけられない人は不幸なのかもしれない。これから先に見つかるかもしれない。


「偽りの居場所でしょう。ずっと一緒に居られないことくらい分かってるでしょう」


 本当も嘘も何もない。


 陽だまりの中に居られると信じていた。終わりがくると、信じたくなかった。


「貴女は所詮独りなの、私がいてあげる」


 私は誰ですか。本当に独りにならないのですか。時間が止まる瞬間まで一緒に居られるはずないでしょう。


 他人の夢を食べる度に自分の中には何もないと実感させられる。陰陽師である五楼は基本、人間である。私は基本が化物だ。力を使いこなせるようになった時に隣に居られるとは思わない。


『いつでも会える。泣くな、伊兎』


 別れに泣いた時に優しくしてくれたおじい様。結局あの後会いたくても私の夢には出てきてくれなかった。


 朱千も私を娘の様に大切にしてくれているけど、本当の娘じゃない。


 主従関係で五楼と契約をしているから守ってくれているだけ。


「人のふりしてるけど貴女人じゃないでしょ」


 振り返る。私に先ほどから話かけている声。


「どうしてそれを」


 見上げたそこには十歳くらいの女の子。


「一度私の夢に潜り込んで来たでしょう」


 不機嫌そうに倒れ込んでいる先生に近づく。


「先生から離れて」


 自分の手足が小さくなっている。夢の中は時間さえも不安定で、実体化した女の子は倒れている先生に頬ずりする。


「生み出してくれたのに、離れなきゃいけないのよ」


「前を見ていきたい先生の邪魔をしている」


 怪異の中に飲み込まれてしまった。護りに特化した朱千の結界をも飲み込む力は、それだけ先生の心の中に巣くってしまっていた証拠かもしれない。


 私と先生との間に入るようにして可愛く首を傾げる女の子は不思議そうだ。


「そうかしら」


 先生が未来を望んでいないかのような口ぶり。


「先生は過去に囚われてしまう」


 囚われたままだと、同じことの繰り返しになってしまう。


「大切な人を失って夢にまで見ていたら中々忘れられないわよ」


 獏は悪夢を食らうもの。人に紛れ生きて行くうちに悪夢以外の夢と呼ばれるものを知っていった。夢と名の付くモノを食することが、獏にとっての栄養源。


「貴方は悪夢で間違いないわね」


 先生を唆し、実体を維持しようとしている。先生が元気になれば消えてしまう。


「悪夢かもしれないけど、悪夢じゃないかもしれないわ」


「誰か一人を苦しめるなら悪夢よ」


 深呼吸をし、立ち上がろうとするが、私の目線は女の子よりも低くなる。


 音が研ぎ澄まされ、相手の匂いが先ほどよりもハッキリとする。

 四つん這いになり、先ほど見えていた肌色の手から、黒い毛むくじゃらの手へと変わる。

 私の姿を見て女の子は先生を盾にするように私から距離を取る。


「獏の一族。まだ生きていたなんて」


 怪異同士の情報伝達で伝わっていたと思っていた先祖返りの私の事は新参者の怪異は知らなかったのかもしれない。


「知っていただいて光栄ですわ」


 強がる私は口調を変える。


「悪夢の中では有名よ。貴女に食べられたら一環の終わりだもの」


「自分を悪夢と認めるのね」


 知性が付いている。言葉遊びをして逃げられる前に、捕まえなければ。


「じゃなきゃあなたは私の前に現れないでしょう」


「苦しめて楽しい」


 吉夢の前には私は基本的に表れない。人が嫌がるものを私が消し去る役目を担っている。


「勝手に育てておいて落ち込んで」


 悩み苦しんでいた先生。何年もの間友人の死を受け入れられないでいた。


 悪夢になる前に摘み取れればよかったのに、それが叶わず、心を壊しかけている。


 自分で作り出した悪夢に苦しめられている。


「大切な人を想って泣くことが悪いことなの」


 先生はただ助けたかった友達がいた。誰が悪いとかではなく、起きてしまった現実。


「弱いから悪いのよ」


「優しさでしょう」


 悪夢は先生から生まれたのに、その優しさに嫌悪感を抱いているように見えた。


「立ち向かう勇気のない人間なんて弱っちいわよ」


 生みの親に向かって辛辣な悪夢。喰らった事のある悪夢の中でも異質だ。ここまで自由に意思を持ち、出現しているのを見たことが無かった。


「貴方ね」


 思わず悪夢に説教しそうになると、悪夢はにやりと笑った。


「貴方の心にも似たような濁りがあるわね」


 獏姿の私を指さす。


「私悪夢は見ないわよ」


 見られないと言ったほうが正しいかもしれない。夢に呑まれてしまうことはあるが。

 クスクス楽しそうに笑う悪夢。気が付いたように、悪夢の化身の女の子が私の事を指さした。


「貴方、苦しんでいた。望み、助け出した人には、会えたのかしら」


「黙りなさい」


 悪夢が私の中に入り混んで来ようとしている。

 唆して弱らせて、取り込む。悪夢の常套手段。


「自分に力が無ければ良かったって考えたことない」


 奥底に隠していた感情。私が力のない獏なら、幸せが掴めたかもしれない。


「あるわ」


 否定はしない。嘘を付けば弱点になりうることがある。

 力が無ければ、隠れるように生活をせずに済んだのかもしれない。家族が皆いなくなった後に暗い部屋に閉じ込められることは無かった。


 私が私として、結萌と呼ばれることが無かったのかもしれない。


 運命があるのならば、それはきっと、太陽のようなあの人。


「そのお陰で出会えた人もいる」


 力があったからもう一度会いたい人がいる。夢を喰らう存在の私が唯一、夢を見ている。逢えないからこそ、消えない想い。逢ってしまえば私は何を指針にして生きて行けばいい。悪夢を消し去ることを念頭にすればいい。


「つまらないわ、貴女」


 影がまた私の周りを包み込む。


 影から伝わる感情は、女の子から感じる雰囲気とは違う。

 寂しい、悲しい、辛い。

 死にたくなかった。

 どうして、私が死ななければならなかったの。


ここまで読んでいただきまして誠にありがとうございます。

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