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夢喰い獏と陰陽師の末裔  作者: 真綾


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12/16

12話

誤字脱字がございましたら大変申し訳ございません。

 将来なりたい夢が無かったの。親友だった子が『学校の先生』に憧れていたから私は先生になることを選んだのは不純な動機かしら。


 忘れられない友人との記憶を胸に抱き、私は教壇に立つ。

子どもたちと接していると、当時の感情がざわめきだす。裏切り者の罪滅ぼし。

許してもらおうだなんて考えていない。自己満足なのを知っている。


 進路に悩む時期の生徒と話をしていると、自分が言われてきたことと同じことを口にしてしまう。


「将来のためにちゃんと勉強しなさい」


「来年は受験が控えているのよ、今遊んでちゃ後で苦労するわよ」


「大学に行くにしても就職するにしてもちゃんとしてなさい」


 大人に言われて不愉快だったセリフを言う側になって心が乱れていく。

ちゃんとした大人って何。親友が自殺するまで追い込まれていたのに気が付かなかった私がちゃんとした大人と言えるの。一番近くに居ても何もできなかった私。


勉強をしたからって、将来が約束されているの?

友達を大切にしていたら、いじめが無くなるの?


 私はいじめられていた。


 『いじめをしてはいけない』と教わってもなくなることはない。逃げられない枠組みの中でどうやって生きて行くことが最善なのか教科書には載っていない。


「後藤先生どうかしましたか」


 席が隣の女性の数学の先生。私が体調不良で休んだ時に代わりに授業をしてくれた。


「いえ、ちょっと気になる子がいまして」


 あの子は下を向いて苦しそうにしている訳ではない。この間声を掛けてみたけど自ら選んで一人でいるみたいだった。


 後ろ姿がどうしてか親友に似ている気がしてしまう。裏切っているわたしがそう呼ぶことはためらわれるのに。


「先生のクラスの結萌さんでしたっけ。確かご家族というか親戚の方と一緒に暮らしているみたいですよね」


「親戚の人と」


 自分のクラスの事なのに把握しきれていなかった。最近寝つきが悪く目の下のクマも捕れない。夜中途中で起きてしまうことが多い。


「私も直接担任をしたことはないですけど。入学式の時騒がれている人いたでしょう。あの人が同居人みたいですよ」


 確かに小説家の盛田五楼が来ているとざわついていたのを覚えている。メディアにはあまり露出していないが、本格ミステリーの小説は人間じみた登場人物と妙にリアルに描かれている妖怪とのやり取りが人気だ。登場人物がバタバタ死んでいくような作品なんかもあった気がする。結萌がわたしに一冊の本を差し出してきたのは、どういう事だったのか、ちゃんと聞いていなかった。読んだことのある本だったのは覚えている。夢に関する妖怪との戦いの話。


「目立つ生徒ではありませんが、一人でいるんです彼女」


「あぁ、私も気になってますけど思春期の女の子は色々と大変なんでしょう」


 その大変さは他人には理解してもらえないということは重々分かっている。自分が考えていることが本当は小さなことで、他人からしてみればたいしたことが無い場合もある。


 わたしが考えすぎているだけなのかもしれないけど、学校であの子が笑っている姿を視たことが無い。


「生徒一人一人に目を光らせないといけないですけど、先生自身も疲れてるんじゃありません」


 笑う彼女の笑顔が眩しい。わたしより年上の先生だけど、男子生徒にも人気のある先生。


「そんなこと、ありませんよ」


 親友と重ね合わせているから気になるだけの、最低な人間。彼女に会うまでちゃんと鍵をかけられていた。親友の死を乗り越えられたはずだったから。


「だって、目の下のクマすごいですよ。ゆっくり休んだ方がいいですよ」


「えっ」


 誰も声をかけてこなかったから誤魔化せていたと思っていたのに。


「いつまでも若いころと同じように動けませんよ」


「そんなことは」


 勘違いをされている。仕事のことで一生懸命になっているわけではない。過去の自分に

とらわれているだけ。


「若気の至りで最初の頃は乗り切れましたけど、担任持つと一年があっという間に過ぎていきますからね」


 一人で何かを納得している先生は深くうなずいていた。


「せんせー」


 一人の生徒が職員室の入り口で叫ぶ。職員室で先生と叫ぶと対象事物が多すぎる。


「どの先生の事ですか」


 数学の先生のクラスの子だったので、対応するため、わたしの傍を離れる。


 先生なんて、なるんじゃなかったかな。








 家に帰るのも億劫になっていく。幸い部活動の顧問は副顧問という形で、尚且つほとんど活動をしていない文化部の担当だったので、わたしは早めに学校を出た。


 ぐっすり寝ていて見ていた夢すら覚えていない。目の下のクマが酷くなるばかり。

 心があれると部屋も汚れてくるが、いたって変わらない。


 大学の頃から一人暮らしをしているため、かれこれ十年くらいは一人で生活をしている。寂しい時は動物の動画をみる。両親以外で一番身近にいる先生という大人が不思議で仕方なかった。何でも知っているカッコいい存在。わたし自身があの子たちからそういう視線で見てもらえているかは謎。


「確かにクマ酷いわ」


 人並みに化粧はするように心掛けていたが、そこまで酷いとは。ファンデーションを落とした目元は年齢以上に疲れている。


心配なのは、懺悔がしたいから。身代わりになるはずないのに。


「わたしも独りが好きなわけじゃなかったもの」


 どこに行くのも誰かと一緒がいいということではない。何も言わなくても心が通じ合えれば一番うれしくて。そんな関係になれる子をわたしは裏切ったのよ。彼女が誰かを傷つけている訳ではない。ふとした横顔が忘れられない。


 暗闇に落ちていた私を救い上げてくれた彼女にしてあげられたことは、裏切り行為。自分がまたいじめられるのが怖かった。


 結萌が気になるのは○○に似ているから。


「思春期の悩みって大人が口出ししてほしくないのよね」


 私はいじめられていることを大人に相談できなかった。無意識にいじめられていることは恥ずかしいことだと思ってしまっていた。


「同じ過ちは繰り返したくないな」


 もう一度しっかりと話をしてみよう。


 助けを求められている訳ではない。


 自分の中の後悔を捨て去りたい、ただそれだけのため。





 多分、先生の限界は来ている。


 私は家に帰ると今夜悪夢退治に行きたいと話そうとしたのに、五楼が家に入ってすぐ、「結萌今日は絶対による出歩くな」と釘を刺されてしまった。


「今日が山だと思うんだけど」


「何があっても一歩も出るなよ」


 陰陽師として予言なのか、五楼は頑なに首を縦に振らない。


 朱千が私と五楼の間に姿を現す。


「アタシが側にいる」


「頼んだぞ。亞緒をこちらに置いていければいいのだが」


 悩んでいる様子の五楼。今回の夢は私に任せてくれるはずじゃなかったのかな。


「五楼、夢に関することは私が」


 近しい人の夢だけど、今回の夢は私が関わることを許してくれたはずなのに。


「今回の件、ナイトメアが関わっている可能性がでてきた。今日中に確認を取るから、それまでは家に居てくれ」


 五楼と一つの約束をした。ナイトメアの一族が関わっている場合は手を出さない。


「ナイトメアが、関わっているの」


 対峙したことがないから、私にはわからない。


「結萌が思い出せない子が居ると言ったな。先祖返り、現代で力がある部類の結萌に逆に術をかけた。ナイトメアの関係が高い」


「思い出せない子・・・」


「記憶から完全にかき消している」


 朱千も急に逆毛を立ててふわりと浮き上がる。


「家の護り、張りなおすわ」


「結萌、お願いだ、今日は我慢してくれ。何があっても」


 五楼は本気だ。私が抜け出したら二度と、家から出してもらえなくなるかもしれない。

 護りたい人、一人護れない力が、本当の力なの。



ここまで読んでいただきまして誠にありがとうございます。

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