11話
今回登場 華依・かい は獏一族の長が受け継ぐ名前です。
彼も色々背負っています。
ナイトメアの一族が結萌に関わっているとすれば、家の場所も突き止められているかもしれない。俺が選んだ、結萌にとって居心地がよく、結界の強度が上がる土地。手を出される前に新しい場所を見つけなければ。
結萌の記憶によれば、本家に居た時に縁が結ばれているとすれば、本家も近いうちに襲撃されてもおかしくないかもしれない。
結萌が学校に行っている間に、夢喰い獏の一族の本家に来ていた。引っ越しなど結萌に関わるお金はこちらの家が出している。
前触れを出してすぐに訪れたが、直ぐに客間に通され、お茶をしていると二十代前半くらいの結萌とどこか雰囲気の似た男が息を切らしてやってきた。
「いきなり転校手続きと家を探しておいてくれとかないだろう」
「当主自らお出ましか」
「お前だって当主だ」
俺は陰陽師の当主になるつもりはなかった。結萌の後見人になるために力が必要だったために、地位に就いただけ。
結萌を幽閉していたのは一部の過激派で、夢喰い獏が子孫を残すために人と交わったことを忘れている。自分たちの力を誇示したい面々は結萌の様に力の強い者を自分たちで操り人形に仕立て上げようとしている。穏健派がそれを阻止しているため大事には至っていないが、内部はかすかな亀裂が入っている。
「僕は飾りだけだと何度言ったら分かるんだ。獏の力なんてない」
一番先祖の血が濃いはずの当主には力が一ミリも無かった。分家筋で遠縁の結萌が先祖返りしてしまったため、結萌を当主の嫁にと考えている輩もいる。力のない当主の傍には可愛らしい少女が常に寄り添っているが、今日は姿を現さなかった。
息を整えていた獏家当主が俺の前に座る。
「一番血が濃いお前が一番胡散臭い」
陰陽師にも居つくかの家元がある。俺の血を辿ると狐と交わった陰陽師の名前があるらしく、子供のころから胡散臭いと評価されている。自分の心が上手く隠せているのならば、術者として成功なはず。
お茶を一口飲んだ獏家当主は俺の願いを叶えるつもりが無いのか、違う話を始める。
「一族のことを考えているのはお互い様だろう。時代が変わり僕らのような者たちは肩身が狭くなってきている。うまく隠れないと魔女裁判のようなことになりうるからね」
「科学が進歩したからな。目に見えないものは信じてもらえない。見える者だけが全てじゃないが見える目を持って生まれた人は少ないからな」
オカルトはいつの時代も人々の心を支配する。人外の出来事は流れ流れて、俺たちのような人たちに連絡が来る。
「そういう訳だ。僕たちは僕たちの役目がある。見えないものも守らなきゃいけない」
「守る側ばかり辛いのも嫌なものよ」
「五楼、その名を名乗ると言った時びっくりしたよ」
「嘘は言っていない。生まれたときに五つもの狂い咲きの桜が咲いていたんだ」
気味悪いと言われていたが、俺は名の漢字に遣わさせてもらっている。
「開祖の名の一部をもらい受けたのに」
「真名は術者にとって命と同等に秘匿にしなければならない。知られてしまえば自分が壊される」
「そうはいっても」
「とりあえず先の用意だけしておいてくれ」
「何をする」
「結萌が助けたい人がいるんだ。それを手助けする。前に依頼を受けていた件と少し被るから責任は俺にある」
「悪夢を飼いならして成長する人もいるのに」
「お前も食べてもらえばいいだろう」
「生憎俺には夢見ることもできないんだ」
願うのは彼女の幸せだけ。知られたくない想いはこっそりと胸の奥底にしまっている。もしかすると聡い結萌は気が付いているのかもしれないが、お互いに触れずにいる。夢渡りを意識的に制御している。力の制御は学校に行くくようになってから精度を上げてきている。本人は認めていないが「人として生きる」ことには獏としての力の制御が必要不可欠である。
「ひねくれているな。可愛げのない」
「誰かに可愛いだなんて思われたいと考えたこと無いですから」
一応こいつも俺からしてみれば守るべき一つなのだが、相性がどうも合わない。力が弱いせいなのかまたは別の何かが影響しているのか。
「お前の所に来ると言わないと外出すらままならないのだ」
亜緒が俺の監視に余念がない。事件が絡むと付随して危険が伴う可能性もある。巻き込まれないために、依頼を受けるとなると、途端警備が厳しくなる。
「日頃仕事から逃げてるお前が悪い」
「一生懸命やっているよ。なのに皆それ以上に働けって言うんだ」
俺は本業だけでなく、文章も綴っているというのに、怠け者と言われてしまう。二つも仕事をこなしているのに、納得がいかない。
「一族をまとめる立場から逃げてるからだ」
お互いに一族を守らなければならない。
「一緒の立場の割に厳しいよね」
「一緒だからだ。獏の一族の力は年々下がってきている。先祖返りしたのも数百年ぶりだろう。血を濃くする必要はない」
先祖が願ったのはその血が繋がれること。力の強い者を生み出したいわけではない。
「人の姿をして他人の夢を食らいつくのを望まない者もいるし、最近世知辛い世の中だからね。夢に拘ってるのはごく一部。犠牲にしちゃったのは僕の力が及ばなかったから」
「分かっていてその態度、腹が立つ」
「直ぐに見つけられなかった人の言うセリフかな」
結萌の祖父が無くなるとき運悪く本業の妖退治がてこずっていた。直ぐに駆けつけられなかった。守護を先に送り出せない程に強い相手。
「背負い過ぎると倒れちゃうよ」
力がないとは言いながらも人よりは敏感な華依。
「偉大な陰陽師様である五楼には余計なお世話かもしれないけどな」
「肝に銘じておくよ」
願うのは一人の少女の幸せ。一族の事など本当はどうでもいい。
彼女の幸せが俺の幸せだから。
誤字脱字がございましたら大変申し訳ございません。
ここまで読んでいただきまして誠にありがとうございます。
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