10話
誤字脱字がございましたら大変申し訳ございません。
後藤先生に会いに職員室に行って以来、由利に避けられているのか、学校で姿を見ていない。
後藤先生も学校を休んでいた。夢が実体化して暴れ出すのは時間の問題かもしれない。五楼に相談して今晩にでも後藤先生の家にお邪魔して悪夢を晴らす必要があるかもしれない。
帰り道、歩道橋の上でもめている人たちがいた。よく見ると、由利が二人組の男の子と、何か言い争いをしている。なぜか、由利と昔遊んでくれた女の子の面影が重なった。
雨が降っていたので傘で顔がよく見えないが、ばさりとその傘が落ちる。
「ちょっと、お前生意気なんだよ」
傘が落ちたことを由利は気にしている様子もなく、男の子をにらみ返す。普段学校で皆に見せる笑顔とは違い、嫌悪感を隠さずに男の子達と話していた。
「知らない。私はただ付き合えないって伝えただけです」
よく見ると男の子の制服も同じ学校の物。
「お前のせいでフラれたんだから、知らないじゃ済まさないから」
ぐらりと揺れる由紀の体。そのまま階段から転げ落ちる。
一瞬私の方を視たような気がした。
何か言っている、でも聞こえないその声。
私の意識も急にプツリと途切れてしまった。
安心する香りと、暖かなぬくもりに包まれている。私は下校途中じゃなかったかな。歩道橋で口論をしていた由利を見つけて、彼女が階段から転げ落ちそうになっていて、目が合って、私は一体・・・。
目を開けると見慣れた天井があり、心配そうに五楼が私の顔を覗き込んでいた。
「結萌、大丈夫か」
起き上がろうとする私を止め、布団の中で私は記憶を手繰る。
「五楼、由利は?」
私の問いかけに朱千も姿を現し二人は顔を見合わせる。
「朱千が呼びに来た。由利とは誰の事だ」
五楼が朱千に問いかけると朱千もはて、と首を振る。
「結萌、常に傍にいたが、由利とは誰の事だ」
学校で一緒にご飯を食べたりしていただけの関係。傍にいたのなら、朱千が覚えていないわけがない。嘘をつく理由も見当たらない。
「朱千、私が学校で仲良くしくれていた人が歩道橋から落ちそうになっていたじゃない」
「歩道橋には女子は居なかったぞ」
朱千の返答に五楼の雰囲気が変わる。
「結萌、その子の顔は思い出せるかい」
「顔は」
思い出せない。名前ももう、口に出せない。
「子供の頃に、屋敷に閉じ込められてた時に遊んでいた、子。名前は、顔、五楼どうしよう分からない」
獏として数名の怪異と敵対したことがある。人ならざる者の血が混ざった者の中で、私は相手よりも強く、惑わされることは無かった。
同じクラスに居て、時々一緒にご飯を食べて。
なのに、どうして何も思い出せなくなるの。
「やられた」
五楼がドン、と床を殴りつける。朱千が五楼と私の間に入る。
「結萌を怒らないでください。全て私の力が及ばなかったから」
「結萌、子供のころ、それは屋敷にいた時なんだな」
「屋敷に居た時に、遊んで、いた」
記憶に段々霞がかかっていく。私に記憶操作をしていたということになる。学校の話を五楼にしたことが無かった。私が友人がいるという話をしていたら変わっていたのかもしれない。
「俺のミスだ。俺と出会う前に縁が結ばれていたなんて。本家にも結界は張ってある。その中を潜り抜けたということは、相手も先祖返りかもしれないな」
相手という単語に先日初めて聞いた一族の名前思い出す。
「ナイトメアの一族が関わっているの?」
ふわりと五楼の横に巻物が浮かぶ。五楼の一族が受けた依頼がまとめられたもの。
「数年前に一族に依頼された物。友人が何かあれば助けて欲しいというもの。この子も視る力があったようなんだ。対象人物の名前が変わっていて最初気が付かなかったんだが、調べてみたら、今は後藤と名乗っている」
「後藤先生」
私の呟きに五楼が大きなため息をつく。
「どうしていつも、俺には絡み合った依頼が舞い込むんだよ」
「主、日頃の行いが恐らく影響しているのでは」
「朱千、よし。油揚げ一年抜き」
「言葉のあやではありませんか」
朱千が五楼にすり寄る。私は布団から起き上がり、意識を集中する。一度渡った夢には見つけやすい。
先日よりも匂いが強くなっている。段々と大きくなる先生の不安。不安が悪夢に変わり先生をむしばんでいる。
力のある者の円は偶然だけでは片づけられない。ナイトメアの一族がどうして私と接触をしてきたのか、先生の悪夢が選ばれた理由が分からない。
「後藤先生は何も悪くない」
「ああ」
五楼の低い声。いつの間にか五楼の雰囲気が陰陽師へと変わる。
「悪夢に変わったのは、先生が弱いからじゃない、優しいから。誰も先生を恨んでいない。打ち所が悪かった」
知っているのは、教えてくれたから。繋がっている夢を操る者が、私。
救えなかった自分がいたのを先生は悔いている。何年たっても夢に見てしまうくらいに大切だった。助けられなかった自分、逃げ出したのを悔いている。逃げ出さなければ、少しでも処理が早ければ助かっていたのかもしれない。そういう後悔。
「でも先生はずっとその業を背負って生きて行くべきじゃない。先生のちゃんとした人生を歩んでほしい」
誰かのためにと先生は先生になった。又救えなかったらと弱気になってちゃんと生徒に注意もできない先生。
「五楼、明日先生が来たら話してみるね」
「もし学校に来なかったら、夜会いに行こう」
人ならざる者の本質は夜。昼間は夢が暴れることは滅多にない。
翌日学校に行くにつれて、段々と悪夢の匂いが濃くなっている。
放課後、先生の元を訪れると、目の下のクマが酷い。どこかやつれた様子に触れないように先生達が接していた。
学校ではナイトメアの存在を覚えている子が居なかった。私も既に何も思い出せなくなっていた。痕跡を辿ろうと五楼がしたが、何もできなかった。
「先生、顔色悪いですよ」
本題を切り出す前に、先生がどの状況なのか確認したい。
「数日急遽休んで皆に迷惑かけたから」
「先生、嫌な夢は話すと良いって言われていますよね」
話して離す。悪夢の内容が恥ずかしいものだと誰かに言うのをためらう。先生は私の顔をまじまじと見た。
「どうしたんですか急に」
信じていない気がする。私は五楼が書いた小説を一つ先生に渡す。彼が書いた夢に関する事件の小説は、過去にあった依頼をアレンジしたもの。
「話すは離すに繋がるから、言うといいってこの本に書いてありました」
「この本は読んだことがあります。誰にでも悪夢は言えるとは限らないでしょう」
先生は渡された本に一瞬目を向けるが、そのまま突き返してきた。五楼だったら言霊の力を上手に使って先生を納得させられたかもしれない。
私は突き返された本を手にしその場から離れた。
ここまで読んでいただきまして誠にありがとうございます。
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