9話
男は揺さぶるのを嫌がるように僕の手を払おうとした。
「おい、あんた起きろよ。」
「今日は休みだろ、、寝かせてくれ・・・。」
寝ぼけてるその姿を見て更に激しく揺さぶった。
「もぅ、なんだょ。」
呑気なもんだ。この男の日常はこんな日々なんだろう。僕も大して差はないか。
「ななんだょ。お前達は?!俺の家に勝手に入ってきたのか?!」
間の抜けた声で男は言った。
「周りを見てみろよ。」
僕は呆れたように言った。
「ここはどこなんだ?お前達が連れてきたのか?」
「俺達も知りたいくらいだよ。この場所に連れてこられたのはあんただけじゃないさ。」
「そうか、すまない。取り乱してしまったね。私の名前は瀧澤直樹。31歳プログラマーをやっている。」
「僕は鈴木雄馬、彼女は佐藤沙紀、あの坊主頭が山本蓮。みんな高校生さ。よろしく。」
そして、僕は直樹さんにこれまでの事を話した。
死んだ人が消えたこと。例の壁に書いてあった文字について。
『壁ヲ越エレバ道ハアル』
『壁ハイツモソコニアル』
『14番目の
虚数で
得るのは?』
「そうか、そんな事が。ここはなんだろうな。」
直樹さんは僕に言った。
「僕達もさっぱりわからないです。こんなに広い施設があるなんて聞いた事もないですからね。」
「それにしても、壁をよじ登れば帰れるんじゃないか?」
「壁を見ていたんですが、壁の半分地点から剥き出しのレンガがあまり見えないので、上に行くほど厳しくなるのかも知れません。失敗したら僕が見た人のようになるんじゃないかと。そう考えると登るのは最後の手段だと思ってしまうんです。」
「そうか。なら、文字の意味を解読していくのが良さそうだね。文字が書いてあるって事は何か意味があるんだろうな。その二つ目の文字、Figかもって言ってたけど、何かひっかかるね14が。」
「14?」
「単純に英語ならFなんだろうが、違う形に変換できるんじゃないかな。」
「例えば?」
「そうだね。情報関係の試験なんかで10進数を16進数に変える方法が。10はA、11はBだとすると12がC
なら14はEか。」
「EIG?そんな単語知らないわね。」
沙紀が首を傾げた。
「じゃあ、虚数にも意味があるんじゃないか?」
蓮が普段出すことのない言葉を発していた。
虚数か、虚数は√-1だったな。iの二乗で-1か。
思いついた言葉の意味を僕は沙紀に聞いた。
「沙紀さん、digはなんか意味ある?」
「えっとね。掘るって意味があるわ。どうして?」
「単純に14から1引いたのさ。13になるだろ。これを16進数変換するとD。だからDIGさ。これが正解とは限らないが、掘るっていうのは盲点だったね。」
「なら、掘るか?」
出番がきたとばかりに蓮が腕をまくった。
堀り始めそうな蓮の動きを止めるように僕は話した。
「他に考えが思いつかないなら壁の下を掘るしかないか。直樹さんはどう思います?」
「こういう謎解きは苦手だからね。他に思いつかない以上掘るしかないかもね。」
みんな何かにすがる様に頷いた。
間違いでもやるしかない。今は。