3話
一人壁を向き佇む若い男がそこにはいた。
この肩の広さ、身長、坊主頭。
僕の悪友にそっくりだな。まさかな。
「あのー、すみません。」
僕は坊主頭に声をかけた。
振り返ったその姿は悪友の山本蓮だった。
僕はつまらない言葉で話しかけた。
「なんだ、おまえか。」
「それはこっちのセリフだ。」
「で、おまえ何でここにいる?」
「さあ。家でTV見ながら寝てたら、ここにいたんだよ。どこだよここ?」
「こっちが聞きたいくらいだよ。」
「で、おまえいつから彼女ができたんだ?」
「おまえなあ、彼女をよくみて見ろよ。」
そう言って蓮は沙紀を見た。
「あー、クラスメイトの佐藤か。」
こいつ、クラスメイトの女の子の名前は全て暗記している。勉強しない脳筋な癖に。
「蓮くんもこの場所にいたんだね。なんか安心したわ。」
と彼女は言った。
「ああ、俺がいたら何の心配もない。任せろよ。」
彼女に偉そうにする蓮に、呆れた声で話した。
「おまえがいたら、心配だらけだよ。」
「あー?」
「火がなければ自分で火を起こし、周りに巻き散らすのがおまえだろ?」
「おまえはその火にいつも油を注ぐだろ?」
クスクスっと彼女が笑っていた。
「二人とも本当に面白い。まるで兄弟みたい。」
「んなわけないだろ。」
と同時に僕と蓮が叫んだ。
「ほら、息もぴったし。」
僕と蓮は火花が出るくらい睨み合った。
僕は蓮に勝ちを譲ってやり、一度冷静になって話した。
「さて、どうするかな。救助がくればいいが、来ないような気がするな。」
「そういえば、壁になんか書いてあるぜ。」
『壁ヲ越エレバ道ハアル』
『壁ハイツモソコニアル』
ん?さっき見た言葉より多い。
そうか、壁が破損してたせいか。
「なんだろうな。確かに壁はここにあるけど。」
と僕は言った。
「よくわからんなあ。登るか。」
と蓮が上を見た。
「やめとけ、落ちたら死ぬぞ。さっき、誰か落ちて目の前で死んだぞ。ほら、これがその血だ。」
僕は蓮に手を見せた。
「うわ。真っ赤じゃねーか。」
「ああ、だけどその死体は消えたんだよ。」
「そんなことありえるのか?」
「普通はありえないだろ。だけど消えたんだよ。でも、この手の血は消えなかった。だから俺たちは大人から距離を置いたんだよ。」
「どうして?」
「食糧も水もないだろ。可能性があるんだよ。」
少し蓮は考えた。
「・・・まさか、そんな事ありえないだろ。」
「絶対ないと言えるか?」
「…………………………。勘か?」
「ああ、いつもの嫌な予感だよ。」
「そうか。なら、そうなるかもな。」
沙紀だけは理解できずにいた。
蓮は僕の事をよく知っている。昔から、僕の悪い予感が当たる事を。
この悪い予感は、苦い物を食べた後にくる気持ち悪さとよく似ている。
なかなか、頭から離れない。
「でも、これからどうするの?」
沙紀が心配そうな声で話した。
「予定通りまた、一人の人を探そう。あと、壁も見てみたい。何か手掛かりがあるかもしれないし。」
僕たちはこの異様な光景の中を再び歩きだした。