1話
僕が目が覚めると白い十階建てのビルのような壁があった。
壁の下側は赤黒く疎らに染まった模様の形を成しており、壁は白い部分が剥げて剥き出しのレンガが見える。
剥き出しになったレンガは壁の上に続いていた。
そのレンガとレンガの隙に足をかけて登る人々が見える。
「ここは。」
手の感触を確かめるように、手を広げたり閉じたりした。
動く。
感触も伝わる。僅かに手の温もりを感じる。
自分の体を見ると黒色の半袖と長ズボン。動きやすい素材で、見た目はまるで海外の囚人の服のようだ。
ようやく、自分を確かめた僕は周辺を見渡した。
他にも人がいる。数十人は人間がいる。
地面は緑の芝生で覆われ、壁は畝りながら無限に思える平地に延びていた。反対側にも小さい壁は見えるが、行くまでに時間がかかる事が容易に想像できた。
近くの壁に目を凝らすと薄い黄色い文字で
『壁ヲ越エレバ道ハアル』
と記してあった。
何を意味するのか。
壁をよじ登って行けという事か?
ドサッ
目の前に何か黒いものが落ちてきて
数回転がった。
一瞬何が起きたか理解できなかった。
僕の顔についた何か生暖かい液体。
手で拭き取った手は赤く染まり
その指の隙間から見えたのは、
あらぬ方向に曲がっている首
雑巾を絞るように捻れた胴体
逆向きについた血塗られた腕
言葉にならない声で僕は叫んでいた。
そこにあるのは既に息のない者が存在するだけだった。
葬式以外にみたことない死体に僕は腰を抜かしていた。
その肉は徐々に赤から透明になり
やがて芝生が見えるだけの地面になっていた。
僕は目を擦った。
二回、三回。
擦ってもその現実は
変わらなかった。
「な、なんだよ、これ。」
震える手を抑えつけて、その異様な様を理解しようとした。だが、全くわからない。
僕はしばらく立つことができなかった。
これは夢じゃないのか?
そう思い、自分の手を地面に叩きつけた。
地面の痛みが僕に伝わった。夢じゃなさそうだ。
そんな僕を呼ぶ声が後ろから聞こえた。
聞き覚えのあるその声の方向に振り向いた。