夢なら覚めたくはない
エレーナの視点になります
Side エレーナ
ボヤっと視界が定まってきた。
背中が焼けるように痛い。
でも泣いたらダメだ、そう心に言い聞かせた。滲んできた涙。
しかしその涙はスッと、下の寝具に消えていた。
うつ伏せで寝かされているのは分かった。でも、いつも寝具より柔らかい。
「エレーナ様!!」
涙声が混ざった声で名前が呼ばれた。
チラッと見ればアリーが泣きながら私の顔を覗き込んだ。
彼女の顔を見た瞬間、泣きそうになった。ダメ、泣いちゃ、そう思うのに涙があふれ出す。
「ターシャお嬢様!!エレーナ様が目を覚ましました!!」
泣きながらアリーは振り返った。
だけどその言葉に青くなった。――ターシャお嬢様。
それは腹違いの姉で、三か月早く生まれた同じ年の姉。
その姉がコツ、コツと優雅に歩いて私を見下ろした。
不味い!!
そう思って起き上がろうとしたけれども、鞭で打たれた背中が痛すぎてそれができなかった。
「エレーナ。」
呼ばれた名前が酷く、優しかった。
呆然と眺めた姉の姿。
栗毛色の真っ直ぐな髪と、シルバーグレーの瞳。お父様にそっくりな色と、お義母様そっくりな顔。そんな綺麗な顔を歪めて彼女は泣きだした。
「ごめんなさい、エレーナ。」
ぽろぽろと落ちる涙はまるで真珠のようで、綺麗に見えた。
そうだ、お義母様やお義姉様に鞭で叩かれたり、酷いことをされているときにも、彼女は泣きそうだった。そうだ、彼女はずっと、心に痛みを感じていたのだろう。
「これからは守るから、安心して寝て。」
そう言いながら頭を撫でられる。まるで安心していいよと伝えたいようなその手がとても暖かくて、ゆっくりと瞼を閉じた。