15日の8時
6
その後、また私は牢屋に戻された。
「あーあ。せっかくなら江戸見物したかったなぁ~!」
『そんな事言ってる場合?』
「だって、リアル江戸村だよ?気になるじゃん。それにしても……寒っ~!」
『そりゃ1月だからね。』
1月か……1月にこの格好って…………いやいや、マジないわ。
「寒いよ~!寒い~!死んじゃうよ~!」
私が騒いでいると、役人のおじさんがやって来て言った。
「うるさい!そう簡単に死んだりせん!出ろ。」
え?出ていいの?
牢屋を出て、屋敷の門の所まで来ると、1人の男の人が待っていた。初対面なのに、何故かホッとした。きっとこの人は私の事を知ってる。そんな気がした。
「お清……。」
「……………。」
この人も、お清って呼ぶ。
ここでも、私はキヨって名前なんだ……男の人は先に歩いて行った。私はその後ろ姿を見ながら、なんとなく、その後をついて行った。
「お清、おめ、なんじょん心中なんしよ思った?」
ぶーーーっ!!え?は?何語?い、いけない……。笑う所だった。ここ、笑っちゃ……いけない所…………。
「ぶあはははは!!」
無理だった。
「笑いごっちゃねえ!!」
急に大声で怒鳴られた。……そうだよね……心中って……自殺なんだもんね。
「あ……ごめんなさい。私……忘れちゃったの。全部、忘れた。」
「忘れた……?まぁ、そん方がいがっぺ。………じゃあ、かえっか。」
帰る?どこに?…………て、さっきから何でこの人の言ってる意味がわかるんだろう?
「帰るって……どこに?」
「どごっておめ、伊勢屋の散茶だっぺ?」
伊勢屋の散茶?って……何?
「なんだ?おめ、ほんとにお清か?喋っ方、さっきっから変だ。」
喋り方が変って……いやいや、そっちのが変だから!
「名前、あなた名前は?」
「……ほんに覚えてねぇか?左次衛門だ。」
左次衛門……。全然思い出せない。思い出せねぇっぺ!あ、ごめん、今のは少し馬鹿にした。
「左次さん、あなたが牢屋から出してくれたの?」
「あぁ。伊勢屋行ったら、おめ、いんくて、川で心中したって聞いて……」
左次さんは少し困った顔をした。
「ありがとう。左次さん。」
どうしてだろう。私、左次さんのそんな顔が見れて、なんだか嬉しい。ニヤニヤしちゃう。
伊勢屋に帰ると、私はきついお仕置きを受けた。こんなに叩かれるなら、帰って来るんじゃなかった。
私は木にくくりつけられてそのまま放置されていた。その様子を見て、通りかかった女の人達が言った。
「あれ、お清。えらく長い初詣だったね~。」
「あっちはてっきり七福神巡りにでも行ってるのかと思ってたよ。」
そう言って笑っていた。くっそ~!会話の内容が、悪意なのか善意なのか全然わからない。ただ、ここは死ぬほど寒い……。
「今、何日?」
「今日かい?とをかあまりみっつだよ?」
とをかあまり?みっつ?って?10日とあまり3日?13日って事?………どうして日にちなんて気にしてるんだろう。今まで、気にもした事なかったのに………
とをかあまりいつつ、辰の刻
ふと、その言葉が頭をよぎった。
「辰の刻って何時?!」
女の人達は顔を見合わせて、首をかしげた。そりゃそうだ!それはおかしい。だって、8時って何時ですか?って質問してるようなもの………8時?15日の8時……には何があるの?明後日の朝8時……私はどこに行けばいいの?
夜になると、ぐっと冷えて、さすがに家の中に入れてもらえた。普通なら、このまま凍死する所だったと思う。きっと、私の様子がおかしい事に免じて、今回はこれで許されたんじゃないか。そう、同じ部屋の女の子達が噂してるのを聞いた。私は疲れて……板みたいに薄い布団の上に乗ると、すぐに意識がなくなった。