文久2年
5
「タイムトラベルは、楽し♪メトロポリタンミュージアム♪大好きな、廊の中に、閉じ込められた♪」
『楽しそうだね。』
「楽しい事あるかーーー!!」
牢屋の前で、ちょんまげ頭の男の人が立っていた。男は肩の痣を見せた。蝶のマークだ。
「キキ!ここどこ?まだ全然異世界だよね?」
今度こそ魔法使える?使えるかな?
『ここは……幕末みたいだよ』
幕末……?うわぁ~私が歴女ならウハウハなんだろうけど………幕末って言われても全然わかんない。
「ペリー来航とか?」
『幕末は幕末だけど、ペリーは10年近く前に来てる』
キキは牢屋の外で、ずっと後ろを向いて立っていた。ここの牢屋番なのかな?
「じゃあ、ザ……ザ……あの、ほら、ハゲで有名な……ザがつく、ザ…ザンギエフ?ザンギエフは?」
『それ、あと120年後。』
全然幕末じゃないか……。
『そもそも、ザンギエフは歴史上の人物じゃないからね?ララが言いたいのは、ザビエルじゃないの?』
「え……そうだっけ?あ、うん!そう!そう!それ!」
ザビエルって……あの、ハゲに会えたとしても、全然嬉しくないな~。基本的に歴史上の人物どれ見ても、リアルにイケメンっていないと思う……。
結局、相変わらず、異世界ってほどの異世界でもなくて、当たり前に魔法は使えないし、ログインボーナスもないって訳ね。
「ねえ、キキ、早くここから出してよ。」
「そこのお前!何話してる!」
もう1人の牢屋番に気づかれた。
「だって………」
私、何もしてない。転生前はわからないけど……今の私は何もしてない。
「この男に何を言っても無駄だ。こいつには何も聞こえん。」
知ってるよ。でも、私の声は聞こえる。
『ねぇ、キキ、私、転生してこのまま裁かれて殺されちゃうの?』
『僕にもわからない。』
『そもそも、転生前の私って、何やらかしたの?』
気がつけば、髪も着物もぐちゃぐちゃだ……直しようにも、どうやって直せばいいのかわからない。
『心中だよ。今同心が調べてる。』
心中……?心中って……自殺だよね?
『それの何がいけないの?』
『江戸時代、男女の心中は重罪だよ。』
え……えーーーーーー!!!!
『彼氏いたんだ!!』
『あ、そっち?』
そんな事を話していると、黒い着物を着た男の人がやって来て、牢屋の前でしゃがんで言った。
「さて、おめぇさんの言い分を聞こうじゃあねぇか!」
え?ギャグですか?マジですか?
時代劇はあんまり見ないけど………何となくわかる。このおじさん、お役人さん?私の言い分って…………この状況で何を話せばいいの?
「あの~え~っと……覚えてません。」
「なぁ~にぃ~?覚えてねぇだとぉ~?シラぁ切る気か?」
いちいち濃いなぁ~この人……。江戸時代の人って、みんなこんな感じ?
もう1人男の人が来ると、私は牢屋から外に出された。
「出ろ。」
後ろで組んだ腕を、縄で縛られた。どこに連れて行かれるんだろう……。
『キキ、いる?』
『いるよ。』
後ろを振り返ると、ちゃんとキキもついて来ていた。お屋敷の庭?みたいな所に、同じく縄で縛られたボロボロの男の人が、藁の敷物に座っていた。あの人、大丈夫なのかな?怪我もしてるし……でも……
「誰?」
思わずそう口に出して言ってしまった。
「お清!」
「お清ぉ?!」
私は周りを見回した。あ、私以外あり得ないか。
「えーと、あの~……どちら様でしょうか?」
「俺の事……忘れちまったのか?!」
忘れたも何も……そもそも知らないし……。
「ひでぇ女だ……」
男の人が泣き始めると、周りが私の事を見る目が変わった。えぇえええ……私が悪者?
「あの、ご免なさい。本当に……覚えが無くて……」
「まぁ、そうゆう事だ。気を落とすな。すぐ放してやるから。」
放す……?
「ダメ!!」
全員の動きが一瞬止まった。どうして……?私今ダメって……私の何がそうさせる?
「駄目とは?どうゆう事だい?」
わからない。わからないけど……この人は離しちゃいけないような……ふと、縄で縛られた男の人は、こっちを凄い顔で睨んでいた。
「わからないけど……とにかく……とにかくこの人は放しちゃ駄目なの!!」
どうしてこうゆう時に記憶がないの!?もう!!