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罰ゲーム


夜中に目が覚めた。こんな薄い布団じゃ体が痛い……。


暗闇の中で声が聞こえた。

「っ……っうう……」

誰かが……うなされてる?……違う。泣いてる………?

「……キヨ?……起きたの?」

「お……おっかぁ?」


キヨのお母さんが泣いていた?


じゃあ……ここはまだ家じゃない。


「キヨ……今夜産まれそうじゃ。隣のおばさんを呼んで来ておくれ。」

「それ………どこ?」

「何言っとる?この……竹やぶを抜けた所………」

そう言ったってこんなに暗くて、初めての家なんか………

「この前……サトと行っとったじゃろ?」

「サト?妹?」


確か、さっき一緒に山から降りて来た女の子が、サトって言っていた。

「サトちゃん、サトちゃん」

私はサトちゃんを起こして、一緒に行って欲しいとお願いした。その声に他の家族も起き出す。


私はサトちゃんと外に出た。なんて暗い…………雲間から月が出れば、月明かりでなんとか見えるけど……さっきから、月が見え隠れしてる。東京でこの暗さは絶対にあり得ない。ここを走るの?あり得ない。


そう思って走っていたら、道を間違えた。

「ねぇや、こっち!」

私達は暗闇を走った。幼児さんくらいなのに、サトちゃんの方がしっかり走っていた。なんだか情けない。


暗闇に怯えながら、思い出した。初めて、星野君に会った時の事。


星野君は有名だった。成績優秀なくせに、星の事しか頭にない。変わり者だってみんな言ってる。


その星野君が、たまたま私が持っていた手作りクッキーを、じっと見ていたから……私は社交辞令で、おひとつどうぞって言った。


すると星野君は、クッキーを本当に食べて、こう言った。

「これ、普通に美味しいよ。吉沢さん、勉強が不得意なら、自分の得意な事をやればいいのに。」

「……。」

私はその時絶句した。


えーと……勉強が不得意だから塾に通ってるんだけど……私は勉強しても無駄だと?でも、ずっと暗闇の中にいた私には、一筋の光に思えた。得意な事をやればいい。その一言で、やる気がでた。何だか、生きる意欲みたいなのが沸いた。


ねぇ、星野君、今夜も前みたいに、道を照らしてよ。この暗い道を………


「ここを真っ直ぐだよ。」

疲れた様子のサトちゃんを見かねて、私はサトちゃんをおんぶした。重い……。幼児さんって、こんなに重いんだ……。この重さを担いで、走って帰れるだろうか?


私は、やっと家らしき建物を見つけた。そして、力いっぱい戸を叩いて言った。

「おばさん!起きて!おばさん!お母さんが!!」


中からガタガタ音がして、おばあさんに近いおばさんが出て来た。私はそのおばさんと、サトちゃんを背負ったまま元来た道を走って戻った。途中、何度も転びそうになった。


足はあちこち痛いし、背中は重い。最低……最悪……。だって、目が慣れても暗いのは全然怖いし、道も悪くて転びそうで怖い。他人事なのに、お産も怖い。人が死ぬのは………怖い。怖い……怖いよ……。


家に着くと、子供達が外で、寒さと不安に震えていた。中でおばあちゃんとお父さんが火を炊いて、お湯を沸かしていた。お母さんは……すごく苦しそうにしてる。この光景が………リアルだなんて信じられない。


ああ…………リアルじゃないのか……。夢みたいなもんか。


夢なら早く覚めてよ!!早く!!


『ララ?大丈夫?』

「キキ、もう帰りたい!………帰りたいよ!!」


異世界転生ってもっと、魔法バーン!敵をズバッ!経験値ドーン!みたいじゃないの?これじゃ、全然、つまんない……つまらな過ぎるよ……!!これじゃ、ただの罰ゲームだよ!!


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