罰ゲーム
3
夜中に目が覚めた。こんな薄い布団じゃ体が痛い……。
暗闇の中で声が聞こえた。
「っ……っうう……」
誰かが……うなされてる?……違う。泣いてる………?
「……キヨ?……起きたの?」
「お……おっかぁ?」
キヨのお母さんが泣いていた?
じゃあ……ここはまだ家じゃない。
「キヨ……今夜産まれそうじゃ。隣のおばさんを呼んで来ておくれ。」
「それ………どこ?」
「何言っとる?この……竹やぶを抜けた所………」
そう言ったってこんなに暗くて、初めての家なんか………
「この前……サトと行っとったじゃろ?」
「サト?妹?」
確か、さっき一緒に山から降りて来た女の子が、サトって言っていた。
「サトちゃん、サトちゃん」
私はサトちゃんを起こして、一緒に行って欲しいとお願いした。その声に他の家族も起き出す。
私はサトちゃんと外に出た。なんて暗い…………雲間から月が出れば、月明かりでなんとか見えるけど……さっきから、月が見え隠れしてる。東京でこの暗さは絶対にあり得ない。ここを走るの?あり得ない。
そう思って走っていたら、道を間違えた。
「ねぇや、こっち!」
私達は暗闇を走った。幼児さんくらいなのに、サトちゃんの方がしっかり走っていた。なんだか情けない。
暗闇に怯えながら、思い出した。初めて、星野君に会った時の事。
星野君は有名だった。成績優秀なくせに、星の事しか頭にない。変わり者だってみんな言ってる。
その星野君が、たまたま私が持っていた手作りクッキーを、じっと見ていたから……私は社交辞令で、おひとつどうぞって言った。
すると星野君は、クッキーを本当に食べて、こう言った。
「これ、普通に美味しいよ。吉沢さん、勉強が不得意なら、自分の得意な事をやればいいのに。」
「……。」
私はその時絶句した。
えーと……勉強が不得意だから塾に通ってるんだけど……私は勉強しても無駄だと?でも、ずっと暗闇の中にいた私には、一筋の光に思えた。得意な事をやればいい。その一言で、やる気がでた。何だか、生きる意欲みたいなのが沸いた。
ねぇ、星野君、今夜も前みたいに、道を照らしてよ。この暗い道を………
「ここを真っ直ぐだよ。」
疲れた様子のサトちゃんを見かねて、私はサトちゃんをおんぶした。重い……。幼児さんって、こんなに重いんだ……。この重さを担いで、走って帰れるだろうか?
私は、やっと家らしき建物を見つけた。そして、力いっぱい戸を叩いて言った。
「おばさん!起きて!おばさん!お母さんが!!」
中からガタガタ音がして、おばあさんに近いおばさんが出て来た。私はそのおばさんと、サトちゃんを背負ったまま元来た道を走って戻った。途中、何度も転びそうになった。
足はあちこち痛いし、背中は重い。最低……最悪……。だって、目が慣れても暗いのは全然怖いし、道も悪くて転びそうで怖い。他人事なのに、お産も怖い。人が死ぬのは………怖い。怖い……怖いよ……。
家に着くと、子供達が外で、寒さと不安に震えていた。中でおばあちゃんとお父さんが火を炊いて、お湯を沸かしていた。お母さんは……すごく苦しそうにしてる。この光景が………リアルだなんて信じられない。
ああ…………リアルじゃないのか……。夢みたいなもんか。
夢なら早く覚めてよ!!早く!!
『ララ?大丈夫?』
「キキ、もう帰りたい!………帰りたいよ!!」
異世界転生ってもっと、魔法バーン!敵をズバッ!経験値ドーン!みたいじゃないの?これじゃ、全然、つまんない……つまらな過ぎるよ……!!これじゃ、ただの罰ゲームだよ!!