どうか私と
21
やっと……やっと戻って来た。
「キキ、行こう!」
キキを連れて行きたい場所が沢山ある!
なんだか、やたらと混んでる駅のホームさえ懐かしい……!渋谷の街も、スカイツリーも、上野のパンダも、秋葉原のゲーセンも久しぶり!!こんなに愛しく思えるなんて!!私はキキとネズミーランドにも行った。同じ異世界でも、こっちの方が楽しい!!
帰りの電車で、キキは話始めた。
『あ~楽しかった。今日は付き合ってくれてありがとう。ララ。』
『こちらこそ。今までずっとありがとう。やっぱりキキといると楽しいな!』
『だって、僕達、双子の兄妹だもん。』
私はなんだか納得した。
『あー!だから、キキとララ?』
全然、驚きはしなかった。なんとなく、きっとキキは私の守護霊様とか、御先祖様とかご親戚様かなと思ってた。
『そう。僕の本当の名前は……吉沢佳祐。』
『佳祐?あー!リトル本田じゃん!小さい時に言われなかった?』
こうゆう時にテレパシーって便利だ~!
『いや、子供の時はまだリトル本田流行ってないでしょ。絶対言われると思った。だから、本当の名前は言いたくなかったんだよ。』
『あ、そっか~!』
『どっちかと言うと、桑田佳祐からかな~?父さんエリー歌ってたし………って寝てる……。』
遊び疲れて、私は帰りの電車の中で、キキの肩にもたれて寝てしまった。なんて安心するんだろう。まるで、お母さんのお腹の中みたい。
私は夢を見た。満点の星空の夢。
私は夢の中で、星空に浮かびあがって、自由に飛び回った。キキララみたいに、二人は飛び回る。少し飛び回ると、キキは、荷物の整理を始めた。キキ、どこか、遠くへ行こうとしてる?
「キキ……どこ行くの?」
「どこに………?」
キキは少し困った顔をした。
「天国だよ……。」
わかってた。時の旅人は現代には帰れないって……。でも、私はしれっと言った。そうすれば、一緒に帰れるんじゃないかと思った。
「は?何言ってるの?私と帰ろうよ。私達の、家族の所に。」
キキはアメ横で買ったダサいTシャツに、ネズミの耳のカチューシャを頭につけていた。
「ララ、僕はね…………僕は、この世に産まれなかったんだ。本当は、この世を全く知らない。」
キキはダサいサングラスをかけて、静かに言った。そんな格好で言う話じゃないよね?
「だって私達、双子でしょ?さっきそう私に説明したじゃない。」
私はてっきり、何か理由があって生き別れた双子の兄弟が、また巡り会ったのかと思ってた。
キキは後ろを向いて話し始めた。
「だって、僕は時の旅人だよ?時の旅人は、元の時代に戻る事はない。」
キキはリュックを下ろすと、ネズミの耳を取って、大事に鞄にしまった。リュックの中のトトロのぬいぐるみと、スカイツリーの模型がちらりと見えた。ライトセーバーの先が、リュックから飛び出ているのが気になった。
「双子なのにって思ったでしょ?それはね、僕だけ間違えて、ララより先に、コウノトリに運ばれちゃったんだ。」
は……?キキの言っている事の意味が、全然わからなかった。わかりたくもなかった。
「だから、ちゃんと産まれる予定だった日に、ララと一緒に、母さんのお腹に入れなかった。」
「そんな……」
「時々神様も間違う事があるんだよ。珍しい事じゃない。」
思い出したようにキキは、リュックの中から漫画を出して、揃えてまた入れ直していた。キキ……進撃、それで全部じゃないから……。そして、キキはリュックのチャックをしっかり閉めると、立ち上がってリュックを背負った。
「でもね、ララ、母さんのお腹の中は、まるで宇宙みたいで、何も聞こえ無かった。半年間、ただ、母さんの鼓動だけを感じてた。だけど、こっちの世界を旅するようになってからは、母さんと父さん、ララの声、三人の声だけは、天の川を越えて、僕の所まで聞こえるようになったんだ。」
それって…………
「だから、お願いだよララ。謳ってよ。この世界を謳ってよ。ララの声は、ちゃんと僕の所まで届くから。」
「キキ……。」
「僕はもう………行かなくちゃ。天国で次に生まれ変わる準備をしなきゃ。ありがとうララ。短い間だったけど、楽しかったよ。僕は君のおかげで、この世界にいなくても、この世界の素晴らしさがわかったよ。僕も、この世界の一員にしてくれて、ありがとう。」
そして、キキは歌を歌いながら去って行った。
涙の跡には、希望が残る。
希望だけは残る。
流れる雲を見上げれば、
君と僕は、同じ船の仲間。
この地球という大きな船では、
誰かの涙が溢れる事もある。
こぼれた涙の跡には、希望が残る。
希望だけが、静かに残される。
それは、次の涙の準備じゃない。
それは、幸せの準備なんだ。
この星にある、幸せのために。
僕は謳う。
この素晴らしい世界を。
僕は歌う。
願いを込めて。
キキの歌は、メロディーがあるような、ないような、不思議な歌だった。キキの歌を聴き終わるとキキの姿は消えた。そして、星野君の声が聞こえた気がした。
『今見ているこの星空は、二度と同じ星空はやって来ない。今の星空は今しか見られないんだ!今この星を見ないで、いつ見るんだ!?』
「吉沢さん!」
後ろから私を呼ぶ声がした。その声は…………星野君。
気がつくと、写真集とペンを持ったまま、塾のビルの屋上いた。今度こそ、本当に戻ったんだ……。
振り返ると、息を切らした星野君がそこにいた。星野君は、私の手をしっかり繋ぐと、決して離そうとしなかった。
そして、怖いほど真剣な顔をして言った。
「写真集を持って……出て行った時、様子が……変だったから……ここに……来てみたら…………」
その長い言い訳必要?私は、星野君に手を引かれながら、屋上の端の段差を降りようとした。
その時、急に強く手を引っ張られて、バランスを崩した。星野君は私を支えてくれた。そして、私の足が段差の下に着いた瞬間、何も言わず抱き締められた。
言葉なんていらなかった。今ここに星野君がいる。それだけで良かった。
星野君と抱き合いながら、肩越しに見えたのは、キラキラ光る、街の明かりだった。
……………綺麗……。
夜空の星みたい。街の明かりを見ながら……私は思った。
私は、精一杯、この星空を謳歌しよう。
この世界に広がる、満点の星空を。
ここには、星の数ほど奇跡があるんだから。
私は何故か、涙が止まらなかった。次から次へと………涙が溢れた。
星野君、どうかその手を離さないで。どうか私と…………
星を繋いで。




