平成6年
20
『僕は、不安と寂しさに押し潰されそうだよ………助けて……』
星野君が…………苦しんでる。助けてあげたい。
『僕を助けて…………。』
『どうすればいい?どうすれば、星野君を助けられるの?』
『それは………僕と一緒にあの世へ行ってよ。』
あの世へ…………行く?一緒に死ねって事?
『そうだよ。ララちゃんは、僕の事が好きなんだよね?』
……………………ん?
『僕も、好きだよ。好きだよ、ララちゃん…。』
…………ララ?
私は星野君におもいっきりビンタをした。
『痛っ!!何するんだよ!!』
「ふざけんな!!星野君は…………星野君は絶対…………絶対、そんな甘い言葉なんて言わないんだよ!!」
『はぁ?!』
そうだ。そうだった!!私、何血迷ってたの?!私が本当に星野君を救える?無力な私が?私が命を差しだしたとしても、星野君は救えない!!
『それに…………私はララじゃない!!いい加減、悪い冗談は止めてよキキ!』
すると、後ろから声をかけられた。私の後ろには、綺麗な女の人がいた………。どこかで会った事があるような……?
「あの、清美、私先に帰るね。」
「え?」
「その人、何したか知らないけど、ほどほどにしなよ?」
そう言って女の人が帰ろうとすると、キキはその女の人の袖を掴んで引き止めた。
『美保…………。』
「いや、無理ですよ?助けられないですよ?私何も事情知らないし。」
女の人は私のビンタに引いて帰ろうとしていた。キキの好きな人かな?とりあえず、とりあえず引き止めないと。
「あの、今、何年何月ですか?」
女の人は携帯を出して画面を見た。
「1994年の12月24日だよ?」
今日は…………クリスマスイブなんだ。
「あ、彼からだ。もしもし?」
私とキキは、ただ呆然と彼女の電話する姿を見ていた。
『美保…………どうして、どうして、あの日、1月17日に神戸に行った?行くなって言ったのに。タイムカプセルなんていつでもいいだろ?』
キキ、どうしたの?
「あの、1月の17日、タイムカプセル堀りに行くんですか?」
彼女は電話を切りながら驚いていた。
「何で………その話………のんちゃんから聞いた?」
「あ、うん、そうなんだ。行くなって言われた?」
「うん。でも、行くよ?」
美保さんは当たり前のように答えた。
『どうして?地震があるって言っただろ?』
「どうして……?」
地震?!
「信じてるから。のんちゃんの言ってる事、全部信じてるから。」
その顔は本当に、揺るぎないものだった。
「信じてるから、親や親戚や友達、みんなに17日に神戸を出るように説得してるの。旅行でも行こうって誘ってるんだけど、なかなか信じてもらえなくて。」
そうか…………キキが17日に地震が来るって知らせたから、行ったんだ。自分だけ助かるんじゃなくて、みんなを助けたかったから………。この人は…………優しい。
『こんなに優しい人だから、キキは、この人を好きになったんだね。』
「清美、私、行くね!のんちゃん意外と寂しがりやだから。」
女の人はそう言って走って行った。きっと、これから、恋人と最後のクリスマスイブを過ごすんだ。キキはその後ろ姿をずっと見つめていた。
キキはきっと、あの人を救いたかったんだ……。私が女の人の後を追おうとすると、キキは私を止めて首を横にふった。そして、私にこう言った。
『ララちゃん、僕はキキじゃない。安西だよ。』
キキじゃない別の人?安西さん……?
『これ、返すよ。』
美保さんの姿が見えなくなってしばらくすると、安西さんは、私に星野君の油性ペンを渡してくれた。
「これ……無くした星野君のペン…………ありがとうございます。」
『こちらこそ。ありがとう。』
星野君のペン…………。このペンは、ただの油性ペンだけど……高価な万年筆より、可愛い装飾のあるペンより、私はこのペンが大事だ。
これがあれば、星が繋げる気がする。星野君の元に、帰る事ができる気がした。
私にとっては、名前のない星がいい。あの変な星がいい。あの星と繋がりたい。




