タイムカプセル
18
私は近くのベンチにキキを座らせて話を聞いた。
話を聞くと、まず、キキはキキではなく、安西という人らしい。キキと同じ、時の旅人なんだって。どうりで………。
そして、安西さんは平成7年の阪神淡路大地震で恋人を亡くしてから、3年後に時の旅人になったみたい。20年近く後にも大地震が来ると伝えたら、とてもショックを受けていた。なるほど。それで平成7年に行きたかったんだ……。そして、…………さっき会った女子高生が、高校生の時の彼女……。
「でも、さっき、伝えてたい事があるって言ってなかったっけ?それって、神戸に行かないようにって伝えればいいの?」
「それは伝えた。伝えたのに、行ったんだ。」
「じゃあ……手紙とかは?あ、今すぐ渡しても不審がられてスルーされちゃうか。タイムカプセルとか埋めれば?」
「タイムカプセル……?」
何をどう説明すれば伝わるんだろう……ベンチに据わって悩んでいると、星野君の記憶をまた思い出した。
塾終わり、私は星野君に引き止められた。星野君は迷いながら、私にハッキリこう言った。
「多分、父の会社はもうだめだ。僕は、母方の実家に行く事になった。ここも今日でやめる。もう二度とここへは来ない。もう、二度と……会う事はない………。」
「え…………?どうして……?そんな急に……」
「急じゃない。みんなだいぶ前から噂してた。吉沢さんは……珍しく勉強に没頭してたから……言う機会がなくて……僕は……吉沢さんの邪魔は…………したくはない。」
心が折れる音が響いた。ポキッと。まるで、アスパラガスが根元から折れたような、間抜けな音だ。それは、星野君の音?私の音?それとも、どっちも?頭の中が真っ白になった。近づきたいって思ったのに…………。
「私のクッキー……理想だって言ってくれたのに…………」
私は、何を言ってるんだろう…………。
「この先、一生クッキーを食べなくても、生きてはいける。」
そりゃそうだ。クッキーなんて、生きて行くには必要ない。生きては行けるけど…………その生き方で後悔しないの?
星野君は話終わると、自分の席に戻って星の写真集を開いた。全然、写真集を見てるようには思えなかった。星野君は高橋と違ってバカじゃない。バカじゃないから、この選択を選んだ。それはきっと…………私のためだ。
安西さんが、立ち上がって言った。
「ララちゃん、もういいよ。もう一度美保に会えた。」
「もういいって何?美保さんの事、諦めるの?」
「ララちゃんに言われて思い出したんだ。美保が地震の直前、タイムカプセルを掘り起こしに実家に帰った。電話で言ってた。中の手紙に、高校生の時見知らぬ男に呼び出されて、目の前で泣かれたって。その人の涙が忘れられない。その人の涙をふいてあげれば良かったって。」
それは………正に、ついさっきの出来事だった。
ああ。美保さんは…………安西さんに、泣いて欲しくはなかったんだ。
「俺も、もう時の旅人はやめるよ。」
「え?やめられるの?」
「別に職業じゃないし。」
職業じゃないなら……無職?
「じゃ、ニート?」
「ニート?」
あ、20年前の人って微妙に言葉が通じないな……。
「ララちゃん、時の旅人になった時点で、現代には戻れないんだよ。色々な時代に行ったけど、結局、会いたい人は一人だった。その人に今日やっと会えた。もう、思い残す事はないよ。」
現代には戻れない……?
キキは…………戻れないの?




