昭和60年
17
理想を捨てるってどうゆう事だろう………じゃあ、私の理想って何だろう?
私の理想は……星野君だ。星野君に追い付きたい。できれば、同じ大学へ行きたい!それからというもの、無謀にも私は苦手な勉強に燃えた。特に苦手な数学は、小学生のドリルから始めた。生まれて初めて、参考書も買った。なんて私、優等生なの?!星野君、誉めてくれるかな?…………うん、絶対ないな。少し落ち着こう。星野君なら、真顔でこう言う。『吉沢さんは得意なクッキー作りをしてる方がいいと思う。』って言われるに決まってる。それでも…………頑張りたい。近づきたい。
「ララちゃん、ララちゃん。」
誰かが私を呼ぶ。…………誰?気がつくと、目の前に心配そうに私を見ているおじさんがいた。
「キキ?今度はこのおじさんなの?」
「おじ……おじさん?一応まだ32なんだけど……まぁ、女子高生からすればおじさんか……」
キキはショックを受けていた。何、今さら傷ついてんの?おじいちゃんとかになってたくせに。今さら年齢なんて。
………しっかし、ここはどこ?風景は、今までとは明かに違う。比較的高い建物が多くある。向こうに学校らしき建物が見えた。
「珍しいね。いつも、キキ、どこ?って探すのがスタートだったのに。」
キキは私の方を見ると、改まってこっちを見て言った。
「ララちゃん、お願いがあるんだ。この先の高校に言って、永沢美保って子に伝えて欲しい事があるんだ。」
もしかして、キキの好きな子?
「え?じゃあ一緒に行こうよ!」
私はキキの手を引いて、知らない高校に入って行った。
「え、ちょっ!俺入ったら捕まったりしない?」
「私が一緒だから大丈夫っしょ!」
どこかの制服着てるから、多分入ってもそこまで怪しくない。多分。どうなるかわからないけど、とにかく突入してみた。
中に入ると、知らない生徒が沢山いた。何だか妙にズボンがダボダボしてて面白い髪型の人や、面白い制服の人が何人かいた。制服がマキシ丈とかウケる~!
『ララちゃん、あっち見すぎ。』
『キキ、あれ!あれヤンキーって言う人でしょ?本物を生で見たの初めて~!』
『そんな、絶滅危惧種を見るような感覚で………若いって怖いな……。ララちゃん、本当に。本当にこれ以上あっち見るのやめようね?あれはリアルに目を合わせちゃダメだから。』
私が知らない女の子に声をかけようとすると、逆に向こうから声をかけられた。
「清香!清香じゃない?」
「誰?」
「やだ~!私だよ!梨花だよ?小学校で同じクラスだったじゃない!ちょっと、…………隣……誰?恋人?」
女子二人組の一人は私の事を知ってるようだった。
「違うよ~!年の離れたお兄ちゃん。」
「え?お兄さんいたっけ?」
「うん。知らなかった?」
二人は首を傾げていたけど、こうゆう場合、堂々とした方が正解だ。私はキキの腕をひじで軽く小突いた。
「ほら、お兄ちゃん、誰を呼んで欲しいの?」
『永沢 美保さんを………』
そうだった……キキは喋れないんだった。
「永沢美保さんって知ってる?」
この二人が知ってるといいなぁ……
「ちょっと待ってて。確かまだ教室いたよね?教室行って呼んでこようか?」
知ってるんだ!じゃあ、今すぐ!
「それなら今すぐラインして呼び出してよ!」
「ライン…………?」
あ…………。私以外の全員が混乱して、変な雰囲気になった。さすがにスマホはまだない時代か………
「そうなんだ、それじゃ、よろしくお願いします!」
二人の女子はまた上履きに履き替えて学校の奥へお喋りしながら歩いて行った。
『ララちゃん、この年じゃまだみんなポケベルさえ持ってないからね?』
さすがにキキに注意された。わかってる。つい現代っぽさに嬉しくなって、調子に乗りすぎた。
「ポケベルって何?」
『ええっ!ジェネレーションギャップ!携帯は知ってるよね?』
『携帯?スマホの事?』
『スマホ?ララちゃん何年の人だっけ?』
え?キキは一緒に来たんだから知ってるんじゃないの?
「え?キキ、ど忘れ?2018年でしょ?」
『2018年?20年後か……まさか…………未来から来ていたなんて……。』
「キキ……?」
何だか今回のキキは様子がおかしい気がする。他の時代のどの記憶もないのに、キキとの記憶だけはある。でも、どの時代のキキとも違う気がする。
そこに、さっきの女子二人が帰って来た。後ろには、背の低い可愛い女の子がやって来た。なんだよ~キキ~。年上好みか?って……よく考えたら、だいぶ年上じゃない?どう知り合ったの?
『美保…………。』
「あの……どちら様ですか?」
女の子は引いていた。そりゃ見知らぬ、どこぞのおじさんが会いに来たら…………え?キキ、何泣いてるの?
振り返ると、キキは泣いていた。初対面のおじさんの涙にどうすればいいのかわからず、その場は混沌としていた。
『やっと会えた………もう一度、会いたかった……。美保…………。』
「ちょっと……どうしたの?」
私は色々言い訳して、その場からキキを連れて立ち去るのに精一杯だった。




