母との話
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これは、母の話。僕の母は歌を歌うのが好きで、よく歌っていた。自由な人で、正に歌うように、人生を謳歌していた。
「パパとママはどうして出会ったの?」
幼い頃、そう訊いてみたら、
「星を繋いでもらったの。」
と、母はそう僕に答えた。
「星……?」
「そう、沢山の星の中から、パパとママの星を、キキが繋いでくれたの。」
幼いながら、キキって誰なんだろう?と思っていた。
この話を聞くまでは。
きっとこれは、母の作り話なんだと思う。だけど、それでも良かった。それでも僕は、この作り話が好きだ。
母さんは悲しい事があると、いつも空に話しかけていた。
「キキ、会いたいよ。あれからもう、何年経ったかな?大丈夫だよ。私は今もちゃんと、今を謳っているよ。」
僕の家は、幼い頃から犬を飼っていた。僕はコーギーのモモが大好きだった。モモが、小学校五年生の時に死んだ。
その時も、母は空を見上げて僕に言った。
「ママね、小さい頃、空の上には天国があるって思ってた。」
「空の上は宇宙だよ?」
「そうだね、大きくなって、実際はお空の上には宇宙があるんだって知った。宇宙の先には何万光年も離れた星があって、天国はその先にあるのかもしれないって思ったの。それって……とてつもなく遠いね。」
「遠い所に、モモはいるんだね。」
そして、いつも綺麗な歌声で、歌を歌ってくれた。
僕は、母の歌が好きだった。
「モモにも、もっと聞かせてあげたかったな。遠くのモモに、届くかな……?」
「届いてるよ。きっと。キキが、聞こえるって言ってたもん。」
「へぇ……そんなに遠くても聞こえるなんて、キキは耳がいいんだね。」
そんな会話をした覚えが少しだけある。