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体育会系男子の自己理論  作者: 旧夢
第1章 始まりの刻
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Growing Apart すれ違う2人

「で、どうだった?昨日」


 翔は、開口一番そんなことを聞いてきた。


「昨日って」

「とぼけても無駄だぜ。夜来やらいかえでが一緒にいるところ見たやついるんだからな」


 そう言うと得意げに胸を張った。

 翔は、何かと友達が多い。それは、翔の性質がそうさせているのだろう。俺にもその力を分けてもらいたいものだ。


「どうって言われてもな。喫茶店行って帰った」

「え、それだけ。もっとこうなんかなかったのかよ」

「お前が面白がるようなことなかったぜ。ああ、そういえば、紅茶を一杯飲んだ」

「つまんねえな〜。あの鈴宮 楓だぞ!そんな奴と一緒にいたんならなんかあったろ」

「いいえ、かける君。普通のことを夜来君に求めてはいけないよ」

 そう幼い子をなだめるような優しい笑顔を浮かべ翔に語りかけていた。

「お前、俺のことなんだと思ってるんだよ!」

「ヘタレ」


 それは簡潔な言葉だった。

 というより一言だった。


「はっ?」


 なんというか笑えない冗談だ。

 俺は、強気な方だと自負している。それをヘタレってそりゃあねえよ。


「さすがに、それは言い過ぎだろ。千秋」


 翔の方もそう感じたのか慌ててフォローに入る。


「そうですか?でも、事実なんだからいいじゃないですか」

「まあ、否定はできねえがよ。言われる方も考えてやれよ」


 いつになく真面目な翔の姿に圧倒されてると


「あいつは、俺たちがピンチの時に助けに来たんだぞ。最初は、頼んでも来なかったが……」


 もう少し頑張れよ。

 段々と小さくなっていく声に不安を覚えた。


「それに、夜来君は入学式の時、僕に戦いを挑まれて震えていたんですからね」


 その言葉にカチンときた。というより、その表情だ。その薄く嗤った顔を見るだけで吐き気がする。


 そうだ。忘れていた。俺はこいつが嫌いだった。


千秋ちあき……お前、何が言いたい」

「ただ、事実を言ってるだけですよ」

「じゃあ、今からやるか、あの時からお預けになっていた美戦を」


 いつだっただろう。同じ言葉を同じ相手にしているような気がする。あの時は、どう返して来たっけ……。


「いいですよ。ただ、君が戦えるかですけど」


 それは、安い挑発だった。いつもの俺だったらこういう挑発にはならない。だが、この時俺は冷静さを欠いていた。


「いいぜ!やってやるよ」


 挑発に対する売り言葉に買い言葉で知らないうちに戦うことになっていた。


「一週間後の放課後、競技エリアで」

「わかった。首を洗って待ってろよ!」


 その言葉を聞きながら千秋は自分の教室に向かって歩いて行った。


「ほんとにやるのか美戦?」

「ああ、やるに決まってる」


 元はといえばあいつから仕掛けてきたんだ。それなら返り討ちにしてやるよ。


「あいつ、強いぜ」

「なんでそんなことわかるんだよ」

「勘だ」

「勘ってそんな適当な」

「いやいや、勘ってのは割とバカにならないぜ。なんたって美戦は、簡単に言うと感性の戦いなんだから、人と違う雰囲気を出す人間は強いだろ」


 言われてみればそうだ。千秋は何かと一般の知識とズレてる所がある。


「ところで、なんで今日に限ってお前にあんな攻撃的だったんだろうな千秋」

「さあな、ただ……」

「ただ?」

「今日のあいつは、どこか焦ってた」


 これは、俺の勘だが、あいつはいつもと違っていた。あんな笑み浮かべている時なんて……!

 いやあった、あれはなんの時だっただろうか。クソッ。思い出せない。


「まあ、いいや。勝って何があったか聞いてこい!」

「ああ、わかった!絶対勝つぜ」

「おう」


 翔から発せられた不安そうなその声は、俺の気のせいだろう。


 *


 1日前


「千秋さん、今日はどうでした」

「普通の1日でした、母さん」

「そうでしたか」


 それきり、食卓には会話は生まれず、ただただ無機質な金属音が響いていた。

 いつもそうだ。母さんは、別に僕の学校生活に興味がない。あるのは、ただある事を達成したかと言う事だけだろう。


「ところで、例のあの事は進んでいますか?」


 やっぱり聞いてきた。


「いいえまだです。まだ、彼の力を調べきれてないので」

「いつになったらできそうですか?」


 ここは、当たり障りのないことを言っておこう。

 僕のこの場所での鉄則は、何事も無難に過ごすだ。それさえできていればこの場所だって悪くはない。



「そうですね。多分もう少しでできると思います」

「わかりました。ですが、千秋さん、これで何回目でしょう。あなたの期限延長は」


「母さん、相手は強敵の『天城あまぎ 夜来やらい』です。しっかり下調べしてから戦わなければ勝ち目はありません」


 ガチャッ!


「お父さんが帰ってきたようですね。いいですか、千秋さん。次の週には、一度このことをお父さんに伝えます。それまでに結果を残してください」


 そう言うと、食卓を後にした。

 僕は、広い食卓に本当に1人になった。


「ああ、そうだ。一週間以内には決着をつけないと」


 自分でも気づかないうちに笑っていた。それがどんなに歪なものかも知らずに……。


 *


  僕の父さんは、地元では有名な家系の後継者だった。

 歳月としつき家。それは、主に絵描きのための紙を作る家だ。その紙を使い数多の芸術家が成功したと言われている。

 そんな家の後継者だった父さんには、ある力があった。それは、芸術の才能だ。その力は、多くの人を魅了し、いつしか地元では『神童』と呼ばれていた。そんな時、ある転機が訪れた。それは、父さんの父親、僕にとってのお祖父さんと一緒に、有名芸術家の元に紙を届けに行った時だ。。その時、父さんはある芸術家にこんなことを言われた。


「君には、才能がある。うちで一緒に芸術家を目指さないか?」


  それは、願ってもみなかったことだった。僕の父さんはどちらかというと田舎と呼ばれるところで神童扱いされるより、都会に出て有名芸術家になろうと考えていたからだ。


 そのことに、一つ返事で承諾し、父さんは芸術家の元で修行を始めたのだった。それが、天城あまぎ家だった。


 *


  時は過ぎ、父さんは19歳になっていた。その頃、天城家の正式な跡取りである天城あまぎ 新月しんげつと一緒に修行をしていた。しかし、新月の圧倒的な力に父さんはだんだんと置いていかれた。


 そんなある日


「歳月、お前には力がない。別の道を進んだ方がいい」


 そう言われた。

 今まで挫折を知らなかった父さんは、それから必死に努力した。しかし、新月には追いつくことができず、とうとう父さんは天城家を飛び出した。


 その後、出会った母と結婚をし、僕を産んだ。


 そして、父さんは過去のことから、僕に芸術家の英才教育をし、天城家を超える存在にしようとした。


 だから、僕は、『天城 夜来』と戦わなければならない。

 父さんと母さんの期待を裏切らないために。


 *


「ちょっといいか、夜来」

「ん、どうかしたか?」


 時刻は現在3時を回っており、これから放課後になろうとしていた。俺は、特に予定はないからこれからまっすぐ家に帰るつもりだ。


「これから、特訓を始めようと思う」

「特訓って。今からかよ」

「ああ、そうだ。何もしないよりした方がマシだろ」

「まあ、そうなんだけど」

「なら、決まりだな。俺は先に訓練棟に行ってる。ちゃんと来いよ!」


 そう言うと翔は走って行った。


 訓練棟と言うのは、字の如く、訓練をする場所だ。競技エリアでは、実戦となってしまうため、美戦の練習ができない。だから、ここを使うのだ。


「じゃあ、試してみるか。俺なりの美戦の戦い方」


 俺には前々から試したいと思ってることがあった。

 それは、数日前武気たけきから言われたあの方法。あれが、使えれば俺でもこの学園で戦うことができる。そう確信していた。


 *


「よし、来たな」

「本日はよろしくお願いします」

「なんだ、翔の他にも来たのか?ええと名前は、なんだっけ?」

「僕は、立木たちぎ 裕也ゆうやと言います。先日、夜来さんに助けてもらった者ですよ」


 ああ、思い出した。確か、倒れてた奴が裕也って呼ばれてた気がする。


「いろんな奴に言ってるが、あれは俺がなんとかしたわけじゃない。鈴宮すずみや かえでがやったことだ。礼を言うなら彼女に言ってくれ」

「ええ!あの時、助けてくれたのってあの鈴宮 楓さんだったんですか!」


 裕也の顔には明らかな驚きがあった。


「え、知らなかったのか」

「俺も初知りだぜ、夜来〜」

「あれ、言ってなかったっけ」

「言ってねえよ。あの時のデートってこのことを言われたんだな」

「デートじゃないって。そうだよ、そのことだよ」

「ってか、何かあったじゃん」

「ああ、言われてみればそうだな。悪い」


 そう苦笑した。


「そりゃあ、武気の野郎が一方的にやられたのも納得できるぜ」


 何かに納得するかのように翔はうんうんと首を縦にふっていた。


「鈴宮 楓ってそんなに強いのか?」


 千秋の方から多少のことは聞いていたが、彼女は見た感じ強そうには見えなかった。それに、どちらかというと王子様のような人に守られているお姫様って感じだった。


「知らないのかよ。あいつ、かなりの強さだぞ。なんでも、鈴宮家きっての天才だとか言われてたなあ」

「そんなすごい奴だったのかよ!」

「まあ、学園内の知名度的にはお前も同レベルだがな」

「俺は、彼女ほどすごくはない。俺の評判はもってせいぜい1ヶ月ぐらいだろう。5月になればきっとみんな興味を失うだろうさ」


 それに、彼女と俺との間には圧倒的な実力差があるが、それ以外にも心構えから何までが全て俺は劣っていた。


「まあ、いいや。今はそのことは置いといて、練習だな。まずは、夜来お前の作品を出してみろよ」


「ふっ!」


 ……。


 あれっ?何も起こらない。


「何やってんだよ、夜来。速く能力を使えって」

「すまん。もう一度だ!」


 そう言いさっきよりも集中をする。

 しかし、能力は発動しない。


「もしかしたら、夜来さん能力の使い方知りません?」

「これって使い方なんかあるのか」

「当たり前だろ。このくらい、俺でもわかるぜ。何をするにせよ、使い方ってものがあるのは常識だろう」

「教えられてないんだからしょうがねえだろ」

「それ、マジで言ってんの。お前、今まで家で何教わってたんだよ」

「何って。そりゃあ、色々と作品についてとか」


 はぁと首をすくめる仕草をするのを見て無性に腹がたつ。


「まあ、知らないんなら教えるしかないか。よし、裕也教えてやれ」

「えっ。翔さんが説明するんじゃないんですか?」

「俺ってば馬鹿だからよ。裕也が教える方が効率がいいと思うんだ」

「まあ、翔さんが言うならやりますけど」


 裕也は、渋々翔に従い能力の使い方の説明を始めた。

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