My Savior 私の救世主
「天城 夜来はあなた?」
「誰だ?お前」
「私?私は、『鈴宮 楓』よ」
それは唐突なる出会いだった。
*
時は、戻ること数分前。
俺はいつもどおり千秋と飯をとっていた。
「傷、治ってきましたね」
それは、先日の傷のことを言ってるのだろう。
「そうだな」
「あの時は、傷だらけになっている姿を見てびっくりしましたよ。初めての美戦どうでした?」
どうでしたって聞かれてもな
「痛かったというのと、改めて自分の無力さを痛感した」
そう、あの時俺は、なにもできなかった。
ただ、けが人をもう1人増やしただけだった。
「そんなことねえよ」
そんな暗いことを考えいると、とびきり明るい声が響いた。
「夜来、お前のおかげで俺は、あんま怪我をしなかった。だから、最低でも俺はお前に感謝してる」
そう言い、深く頭を下げていた。
いや、それって俺がお前の身代わりになってただけじゃないのか。
「本当にありがとな」
だが、そんな卑屈な考えも直後に言われた言葉でどこかに飛んでいく。
「いいってそんなの。結局お前を救ったのは、あの女なんだからよ」
あの女とは、乱入してきた女のことだ。俺たちでは、全く歯が立たなかった武気を相手に、あの女は一瞬で圧倒していた。
「しかし、誰だったんだろうな……彼女」
そんなこと翔は言っていた。
「え!お前の知り合いじゃなかったのかよ」
「そうだけど、俺はてっきり夜来が知り合いだと思ってた」
どういうことだ、それ。
つまり、あの女は、なにも関係のない俺たちを助けたのかということか?
今の世にそんな、お人好しはいるのだろうか?
「夜来君、呼んでるよ」
それは、同じクラスの子だった。名前は確か……。やばっ。まだ名前わからん。
「おう。わかった」
名前がわからないことを誤魔化すように早足で廊下に向かう。
そこには、1人の少女が立っていた。
少女は、俺に気がついたのだろう。
こっちをジッと見ていた。そんなに見つめられるとなんだか照れる。
しかし、そんなドキドキも彼女の一言で吹っ飛ぶ。
「天城 夜来はあなた?」
この女、初対面の相手に対して呼び捨てかよ。礼儀のなってない奴だなと思う。
そのことが態度にも出ていたのか俺はぶっきらぼうに返答をしていた。
「お前は誰だ?」
「私?私は、『鈴宮 楓』よ」
*
そして、今に至る。
こいつが、『鈴宮 楓』新入生代表にして、
天才『鈴宮 悠一』の娘。
噂程度には、聞いていたが、かなり綺麗な人物だった。
美しい黒髪を携え、血管の浮くような細い腕や足はすらりと長く、全身がきゅっと小さく、彼女はまるで神様が美しくこしらえた人形のような端整な外見をしていた。
たいていの人は、一目見ただけで美しいと感嘆の声を上げるだろう。
目の前の少女は、そういうレベルで美しかった。
しかし、俺には、美しいという感動よりも妙な既視感に襲われた。
この女、どこかで見たことがある。
それは、どこだったのだろう。
「あれが、噂の鈴宮 楓?」
「入学式の時、壇上に上がってる姿を見たけど、超可愛いんだけど!」
ああ、それだ。だから見たことがあるのか。納得。
「前にいるのは、誰だ?彼氏か」
「あれは、天城 夜来だろ」
「やっぱ、天才の子供同士喋ってるの見ると俺たちとは住む世界が違うんだなって感じるな」
「ほんと、それ!」
外野がうるさい。それに彼女は知らんが、俺は天才じゃねえよ。
「ちょっと場所変えようと思うのだけど。どうかしら?」
「そうしてくれると俺も助かる」
あまり目立ちたくない俺にとってはこの上ない提案だ。
「じゃあ、放課後また来るわ」
そういうとそそくさ何処かに行ってしまった。
楓が何処かに行くのを待っていたかのように翔は、教室の中から出てきた。
「夜来ー!お前、あの鈴宮 楓と知り合いだったのかよ」
ぐいっと自分の近くに寄せる行為からこの翔の距離感の近さが伝わる。
「そんなはずはないと思うが」
「いちよう知り合いですよ。夜来君と楓さんは」
「どういうことだそれ?」
千秋はニヤッと悪い笑みを浮かべ
「入学式の日に知り合ってるじゃないですか。まあ、一方的にですけど」
「そういうことかよ。あと、そんな悪いことを言ってるわけじゃないから、悪い笑みを浮かべても意味ないぞ」
「そうなんですか」
俺の勝手な想像だが、千秋の感性はどこかズレている。芸術家にとっては、そのズレは誇らしいことなのかもしれない。
だが、一般生活でそれを出すのはどうかと思う。
「まあ、いいや。放課後まで待つとするか」
*
「では、行きましょうか」
楓は、放課後になってすぐにきた。
待たされないのは俺としては有難いが、ちょっと早すぎやしませんかね。
「ちょっと待っててくれ。今準備してくる」
特に、心の。
俺もいちおう男子学生であって、やはり美人と2人で何処かに行くのは緊張する。
「って、なに緊張してんだよ!」
「ど、どうした。夜来?」
俺の突然の咆哮に教室の中は、静まり返っていた。
こんなミスをするということも俺が緊張してる証拠だろう。
「いや、なんでもない」
そういうとさっさと教室から出ることにした。
さっきの様子だと、俺が出てくるまでずっと教室の外で待ってそうだ。
そのために教室でもいづらい雰囲気を作ることで、自ら退路を絶ったのだった。ということにしておこう。
「悪い。遅くなった」
「では、行きますか」
そういうと、楓は先行して先に行ってしまった。
「いや、どこにだよ」
おそらく、俺の問いは先を行く彼女には、届いていないだろう。なんだかデジャブを感じる。
これはまずいことになりそうだ。
*
そこは、落ち着いた喫茶店だった。
クソ。落ち着かねえ。
それは、目の前に楓がいるということもあるだろう。
だが、俺にとって喫茶店が落ち着かない理由はもう一つある。それは……。
「天城 夜来はどれにする?」
フルネームで呼ばれるのは違和感しか感じないが。それは今の所いいとしておこう。
「ちょっとメニュー見してくれ」
そういうと、まず始めに金額のところを見た。
つい先日、千秋と喫茶店に行った時えらい目にあった。それ以来、俺はどこかに行くとまず金額を見るという変な癖がついたしまったのだ。
「ここは、あんま高くないな」
「ん?どうしたの」
やばっ!口に出てた。
「いや、なんでもない。ただ、こういうところに来ると落ち着かなくってな。ヘヘッ」
そう言い笑みを浮かべてみる。
もちろん、作り笑いだが。
「その不器用な笑い方やっぱり、あなたね。入学式の日の男って」
入学式の日の……男?
昼の会話からして、楓は俺のことを入学式の時から知っている。
だが、よくよく思い出してみるとあの時、俺は笑みなんて浮かべていなかった筈だ。
「まあいいわ、今回はそのことじゃなくて」
俺も、さっきのことは深く考えないでおこう。多分、あっちの勘違いだろう。
「この前、私が倒した男って大丈夫かしら?」
倒した男?
そんなの知るかよ。
ってか。さっきから楓の言っていることに疑問しか浮かばない。
「ちょっと待ってくれ。話が見えない。俺が、あんたの倒した男が無事か知ってると思うか?
俺だって、昼会って初めてあんたのこと知ったんだぞ。
つい、語調が荒くなってしまった。
意味のわからないことにぶち当たると荒くなる。俺の悪い癖だ。
「そう、気づいてないのね。校舎裏、倒れた男子生徒は2名、そこに颯爽と現れ助ける正義の味方。ヒントはこれで十分?」
校舎裏、倒れた男子2名、それを助ける味方。
俺は、この3つの単語を反芻した。
最近、こんなことが何かあった。
そうだ!あれは……!
「思い出した。あん時、助けてくれた子か!」
「やっと、思い出した?」
楓は、呆れたような顔をしていた。というか、この人自分のことを正義の味方とか言っちゃってるんだが。
まあ、助けてもらえたのは事実なので感謝はしている。
「あん時は、助かった。サンキューな!」
俺にしては、軽い感じで感謝の言葉が出て来た。
楓は、そっぽを向いて言った。
「いいわよ。そんなの、強い者が弱い者を助けるのは、当たり前でしょ!」
若干、耳を赤くしているのは、俺の気のせいだろうか。
「それに、あなたには借りがあるし」
「借り?」
「そう。今の反応だと、そのことも覚えてないのね」
そういうと「はあ〜」という大きなため息をついていた。なんだか、一挙手一投足に見下した感じがあるな。
「ここ最近に、いろいろあって何があったかいちいち覚えてないんだよ」
「そう」
少し寂しそうだ。
そんな表情を見せられたら、意地でも思い出すしかないだろ。
俺は、ここ最近の出来事を1つ1つ思い出すという作業を始めた。
う〜ん、思い出せん。
「どんどん、話がズレてってるわね。あなた、意外とおしゃべり好き?」
「いや、そんなことはないが」
というより、楓の方から話題を逸らしているような気がする。
「また、ズレそうだから話を戻してっと。さっきの質問だけど、私が倒した男は大丈夫かしら?」
今までの文略からして、倒した男というのは、武気のことだろう。
「ああ、大丈夫そうだ。ただ……」
「ただ?」
「ただ、あのことが起きてから、武気、丸くなったみたいだ。俺たちのとこにも直々に謝りにきたしよ」
ほんとにびっくりだ。あの攻撃的だった武気が人に頭を下げるなんて。
「そう、なら良かった。聞きたかったのは、それだけだわ」
そういうと、立ち上がっていた。
「もう、行くのかよ」
「ええ、そうだけど。どうかした?」
「いや、せっかくきたんだしもう少しゆっくりしてけばいいじゃないかと思ってな」
なんで、俺、引き止めてんだよ。別に、聞きたいことだってないのに。しかし、一度口から出た言葉は、もう覆すことはできない。
「あなたが言うならそうするけど。何か用があるの?」
そんなこと何も考えてない。と言うより、なんで引き止めたかすらわかってないのに。
「いや、あんたの父親、有名人だろ。俺の親もそうだからよ。親のプレッシャーとか感じてないのかなと」
なぜか、考えてないはずの言葉がスラスラと口から出て行った。あまり、喋るのがうまくない俺がこんなに口が達者になるのは珍しい。
「プレッシャーって。あなた、何言ってるの。プレッシャーなんてないに決まってるじゃない。だって、私よ。私にできないことはないんだから」
ああ、そうか。俺にはない強さを彼女は持っている。
そのことは、素直に羨ましいと思う。
「それだけなら私行くけれど」
キョトンとした感じでこちらを見つめる。俺の方としても、ここから更に質問を絞り出すことはできそうにないのでここで会話を終わらせる。
「ああ、引き止めて悪かった」
「このくらい、いいわよ。じゃあ、先に行くわ」
「おう」
「それと、ここは私が払っておくから。貴方、さっきの感じだとお金……ないんでしょ。私の方から誘ったんだから遠慮せずに払わず出てっていいわよ」
そこは、俺が払わなくちゃいけないだろ。漢として。
「俺が払う、あんたの方こそ、先行ってくれ」
そう言うと財布(札はない)をカッコ良く持ちレジに向かう。
「そう、ならありがとう」
さも意外そうな反応をしやがったこいつ。
どんな印象持ってんだよ、俺に。
「それと、もう一つ」
「今度はなんだ?」
「もし、あなたが困ったら相談に乗るわ。さっきの感じだと親のことで悩んでそうだし。多分、他の人よりは役に立つでしょ」
そう言うと、今までどこか仏頂面だった彼女は俺に向かって始めて笑顔を見せた。
その時、初めて俺は、可愛いと感じたのだった。




