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体育会系男子の自己理論  作者: 旧夢
第1章 始まりの刻
6/17

In The Battle Area 競技エリアで

「遅い!どこで何をしてんだよ!あいつは」


 現在午後3時35分。約束の時間から5分もの遅刻である。「たった5分だろ」と言われるかもしれない。だが、5分で何ができると思う。まず、カップラーメンを作れる。それに加え物によっては食べることまでできる。他にも、音楽を一曲聴くことができる。

 そう思うと、5分もバカにはできないのだ。

 そんな持論を展開していること約1分……。


「ごめんなさい」


 それは、唐突に聞こえて来た。


「遅い。今何時だと思ってんだよ」

「ええとですね。午後3時35分です」

「じゃあ、何時に約束したんだっけ?」


 そう高圧的に聞いてみたが、千秋ちあきは悪びれることなく


「3時半ですね。でも、まだ5分ですよ」


 出た。まだ5分ですよ。


 5分ってのは大事な時間で……。これ以上はやめておこう。さっきの繰り返しになってしまう。


「普通、10分前には集合場所に着いておくだろう」


 大切なことなのでこれだけは言っておく。まあ、大まかな俺の思っているのことは伝えられるだろう。多分……。


「いやいや、昨日遅刻して来た人が何言ってるんですか」


 反撃されました。

 あれだけ、時間に遅れるなと言っておきながら、学園に2回も連続で遅刻する男……。


「し、しかしだな。遅れるのは良くないと思うぞ」


 一般論としてなやっぱり。俺がこんなこと言える立場ではないがいちおう言っておこう。


「わかってますよ。夜来君って結構時間にルーズだと思ってましたよ」

「はあ〜。やっぱ、そう思われてんのか……俺。入学式遅刻はやっぱまずかったか」

「はい、そうですね。人は、第一印象が一番大事って言われてますからね」


 だよな〜。戻れるんなら戻りたい。そして、バカな俺の安眠を妨げてやりたい。


「そんなことより、早く行きません。競技エリア。あんまり遅いと閉まっちゃいますよ」


 そういうと、俺の前を歩いて行った。

 俺は、競技エリアの場所を知らないため、遅れると非常にまずい。だから、さっきまでの考えを振り切り、前へ進みだした。


 *


「ここが競技エリアです!」


 そう言い指をさした方向にはとても大きな建物が建っていた。


「これが競技エリア!」


 俺は語彙力が低いだけではない。だが、この建物を前にして、1つしか思いつく言葉が出ない。


「でかい」だ。


「はい。この大きさは、国の中でも最高レベルの大きさで、これを求めてうちの学園に入学しようとする人もいるそうです」

「じゃあ、行くか」


 そう言い入ろうとすると、


「おっとダメですよ。ここは、自分の学生証を開示しなければ入らないんで」

「そうなのか。じゃあ」


 ポケットの中から財布を取り出し、さらにその中にある学生証を見せた。

 すると、自動で扉が開きブワッと中からの溢れんばかりの熱気が伝わって来た。

 まだ中に入っていないのに熱気にやられクラクラする。


「入りますよ」


 そういうと、興奮を隠しきれない様子で千秋は先行して中に入って行った。


「お前、ここの施設なれてんだな。同じ新入生のくせに」

「そうですね。ここは、一般公開もされている場所なので。ただし、生徒以外は少しお金がかかりますね」


「ここ金取るのかよ」

「ええ。多分なんですけど、この施設を運営する上で必要なお金なんでしょう」

「へー」


 まあ、そうだよな。こんな馬鹿でかい建物維持するだけで相当な額のお金がかかるはずだ。


「というか、お前前からこの島住んでるのか?」


 今俺たちがいる場所が内陸だっていうこともありあまり気づきにくいが。ここは、「美織島みおりじま」という人工島だ。

 だから、この競技エリアに来たことがあるってことは島の外からわざわざ来たということは考えにくい。

 ならば、千秋の家がこの島の中にあるのだろう。


「まあ、そうですね。僕の家はこの島ができてすぐくらいに引っ越してきたと聞いてます」

「えへ」


 俺から質問してなんだが、特に千秋の家に興味があったわけじゃないため適当な返事になってしまう。

 そんなことを喋っているうちに俺たちはひらけた場所に出た。

 大きく円状になった競技エリアの周りには大きな観覧席が準備されていた。

 放課後ということもあってかぼちぼち席は埋まっている。


「でけえな!」


 また、言ってしまった。でも、こればかりはしょうがないと思う。だって、大きいものを見た時、『でかい』以外どう表現すればいいのかわからない。それにそういうことは文芸クラスの奴らに任せとけばいいと思う。


「そうなんですよ!やはり、美戦というのは広い土地が必要なのでこれほどまで大きくなっちゃったんですよ!」


 前を行っていた、千秋はそう言い振り返ってきた。

 気のせいかもしれないが、ここに来てから千秋のテンションが高いような気がする。それもそうか、この熱気。普段テンションが低い俺ですら、踊りたくなるような熱気がこの空間にはこもっている。いや、本当に踊りだしたりしないが。


「ほらあそこ!」


 そう言い指をさした方向は今俺たちの入ってきた入り口とは真逆のエリア。そこでは、現在進行形で美戦が行われていた。


「あっち側の方がよく見えますね。行ってみましょう!」


 後ろを振り返ることなく1人でその方向に向かってしまった。


「おおーい!待てよ」


 俺もここに1人で置いてかれるわけにもいかないので早足でついて行くことにした。


 *


「これが、『美戦』!」


 言葉だけでは伝わってこなかった、圧倒的な臨場感に驚きを隠せないでいる。


「この戦いは、『絵画クラス』と『書道クラス』ですね」


 言われて見るとそうだ。どちらも、紙を手に持ち戦っていた。


「絵画クラスの方は、鹿の具現化ですか。あの完成度なかなかですね。でも、書道クラスの方も負けていませんね。ほら、みてください。あれは、ヘビですよ!」


 やはり絵画のことになるとテンションが上がるのか千秋の実況はどんどん白熱していった。

 鹿とヘビ。草食動物である鹿。特に、いま具現化されているのは、あまり体長の大きくない部類だった。それに対して、ヘビの方は、俗にいうアナコンダほどの体長であった。ぱっと見、勝負は一目瞭然だった。

 しかし、予想外の鹿の動きに、ヘビの方は全くついていけてないようだ。

 結果終始鹿の圧倒だった。

 そして、トドメを刺すかのように、鹿はヘビの首元を蹴り飛ばす。その瞬間、そこにはヘビなどいなかったのかように、ヘビの影は霧散していた。


「そう、美戦では作品の完成度によって強さが決まるのです!つまり、さっきのようにただ単純に大きい方が勝つわけではないんです。さらに、さっきの鹿のようにわざと、体長を小さくして敏しょう性を上げるという風にもできます。多分なんですけど、ヘビの方はあの巨体からして一撃の重さに力を入れていたんでしょう。ならば、敏しょう性に力を入れていた鹿の方に利があるのは当然のことです」


 そういうと千秋は一息ついていた。

 千秋のあまりの詳しさに舌を巻いてしまう。今の解説の中には、美戦に対する知識だけでなく、総合的な知識が含まれていた……と思う。


「そういえば、さっき倒されたヘビはどうなったんだ?」


 生物が突然霧散する。そんなことは自然界ではありえない現象だ。


「それはですね。今のルールだったら、消えて終わりだと思います」

「今のルールってことは、他にもルールがあるのかよ」


 昨日からそうだが、美戦に対する質問が止まらない。

 それだけ、俺は美戦の魅力に取り憑かれているということだろうか。


「ええ、あるにはあるんですがあんまりやりませんよ。まあ、いちおう説明しておくと、今のように破壊されるとその作品ごと破壊されるというルールのものもあります。つまり、負けたらもう一度一から作り直しってことですね。たいてい、うまい作品というのは、そうなんどもなんども同じように作れるわけではないので、製作者にとってはかなりの痛手ですね。もう一つのルールはデスマッチ制です。これは、作品が破壊されても相手が降参というまで続くルールですね」

「それだけだったら、さっきのルールと何も変わらないじゃないか」


 そう素直な疑問をぶつけると、


「ええ、デスマッチ制の特異性はここからなんです。このルールの状況下では、製作者への直接攻撃が軽減なしにそのまま伝わるんです。なので、デスマッチ制で美戦を行った人はどちらかが必ず病院送りになっています。このように、デスマッチ制は危険なので、学園内でこのルールが適用されることはないと思います」

「美戦にはいろんなルールがあるんだな」


 なんだか意外だ。世の中には、多くのスポーツがある。だが、たいていの場合じかに人への危害を加えることはない。それが、あるということは、やはり美戦にはスポーツ的用途以外の使い方もあるのだろう。

 そう関心をしていると、


「ところで、昨日会った女性はいました?」


 そんな今までの会話を無視したことを聞いてきた。


「お前、そんなにあいつに会いたいのかよ」

「ええ、会ってみたいですね!」


 本心を隠そうともせず千秋はそう堂々とそう答える。


「探してないからわからんがもしかしたらいるかもな」


 そう言い、周囲を見回してみても該当の相手は見当たらなかった。

 まあ、俺が覚えてる特徴のやつはたくさんいたが昨日の彼女とは全員どこか違って見える。


「やっぱ、いなそうだ」

「そうですか。それは残念です」

「ってか、お前なんでそんなに会いたいんだよ」

「そ、それは……。あれですよ。あれ!ちょっと知り合いに特徴が似てたんでそうかなと思いまして」


 俺はまだ2日しか千秋と関わってないが一つわかったことがある。それは、嘘をつくときに言葉に詰まるということだ。それに、髪が黒くて長いってだけで知り合いかもしれないと思うのは安直すぎる。この学園内だけで何十人いると思ってんだよ。


「お前今嘘ついただろ」


 このようなことを言うとこいつは、次に、


「何言ってるんですか。嘘なんてついてませんよ」


 誤魔化しにかかる。そして、


「じゃあ、なんで嘘をついたと思うんですか」


 理由を説明しろと言ってくるのだ。そんなことを言っていいのかな。こっちには、切り札があるんだ。


「理由か?理由はな、嘘をつく時お前は必ず言葉に詰まるからだよ!」


 俺には、確証があった。だから、立ち上がりながら力強く真実を叩きつけた。


「......」


 しかし、その声は俺の予想以上に大きかったのか。さっきまでの熱気は冷め、多くの視線が俺に集まっていた。


「すみませ〜ん」


 そう小さく言うと静か〜に席に着いた。

 その時、ある少女と目があった。


「あいつ!」


 そう言うとさっき静かに座ったはずなのに俺はもう一度勢い良く立ち上がっていた。


「騒がしい人ですね。今度はなんですか」

「あいつだよ。あいつ!」


 そう言いながら、さした指の先には1人の少女が立っていた。少女の方でも自分のことを指しているということに気づいたのか、何かをつぶやいていた。


「あの子ですか」


 千秋の方も興奮したようにキョロキョロと周りを見回す。


「ああそうだよ!」


 千秋に向き直り、力説をし少女に会いに行こうと言うことを伝えていると


「言ってる側から悪いんですが。いなくなりましたよ。あの子」

「えっ!」


 そう言われ振り返ってみるとさっきまでいた少女はどこかに消えていた。


「くそっ。なんで逃げるんだよ」


 そう言うと俺は、駆け出していた。


 *


「いませんね」


 そこには、本当に消えたのかのように少女の影は無くなっていた。


「ああ、そうだな。ところで、なんで逃げたんだろうな」


 どうにも腑に落ちない。たしかに、あの夜あったことを面と向かって言われると恥ずかしいかもしれない。

 でも、俺を見つけて一目散に逃げる事はないだろう。


「さっきから『逃げた逃げた』言ってますが本当に逃げたんでしょうか。ただ、どこかに行っただけかもしれませんし」


 そう言う千秋の声は、俺を止めようとしていた。手のひらを返したような千秋の態度に驚く。


「さっきまで会いたがってたお前がなに言ってんだよ。あと、さっきのは絶対俺だと気づいて逃げたぜ」

「まあ、僕の方は顔を見ることができたので満足なので」

「さっきの続きだが、本当にそれだけかよ」


 そう千秋にジッと疑いの目を向けて見るが


「ええ、本当にそれだけです」


 さっきとは、打って変わって焦りも感じられず、言葉も詰まっていなかった。


「それに、あなたならまたどこかで会えると思いますよ」


 そして、最後にそんな意味深なことを言っていた。


「いや何言ってるだよ。同じ学園のやつなら絶対に会えるだろ」


 千秋は、至って普通のことをカッコつけて言っただけだった。

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