How To Essence 美戦とは?
「夜来!」
見ず知らずの生徒が俺の近くに駆け寄って来る。
「なんだ?」
朝の一件もあり、話しかけてくる相手に妙にトゲトゲしい態度をとってしまう。
しかし、相手はそんなことは、御構い無しに話を進めていく。
「俺に、彫刻の上手い作り方教えてくれよ」
「はぁ、お前聞いてなかったのかよ。俺はあの人みたいに、上手い作品を作れねえんだよ!」
こいつほんとにさっきの自己紹介聞いてたのかよ。しかし、たいていのやつは、遠回しにいってくるのに、こいつはここまでストレートにいってくる。
もしかして、こいつ、バカなのか……。
「話聞いてなかったって。じゃ、じゃあ、俺の名前言えるか?」
「はっ?ええと……」
「ほら言えない。話聞いてないのはお互いさまだってことだ」
そいつは、ニコッとした笑みと共に、俺に向かってサムズアップをする。ヤベェ。こいつ、今までで1番イライラするかも。
それにバカかと思っていたが意外に頭もまわる。
「まあ、聞いてなかったっていうんなら仕方ねえな。俺の名前は『田中 翔』だ」
よろしく!と言いながら手を差し出して来た。
俺は、それを無視してやった。
だって、めんどくさいだろ。 ここで、手をとったら絶対に教えないといけなくなりそうだし。
「無視かよ。夜来ってひっどいな」
ニカッと笑いながら、そんなことをいってくる。俺だったらこんな無愛想な態度を取られたらそいつから離れる。
だが、翔は違った。気分を害した様子もなくニコニコと笑ったままでいる。
そんな姿を見て、あることを思い出す。
ああ、こいつさっきのお調子者だ。この愛想のいい笑顔、裏表のなさそうな姿に既視感を覚える。
理解した。これが「殴りたい、この笑顔」ってやつか。
「まあいいや、また今度にすっわ。じゃなあ、夜来!」
このまま喋り続けても教えてもらえることはないと考えたのか、他の仲間のような連中のもとに帰っていった。
俺の声が奴に聞こえないところまで行ったのを確認して、
「あんな奴もいるんだな」
と、ひとりごちた。
もし俺があそこまで愛想がいい人間だったら、だれとも衝突せずうまく立ち回ることができていたのだろうか。
そんなことを1人考えていた。
*
そんなこんなで初の登校日の日程は進んでいった。
といっても、今日やったことと言えば入学式と軽いHRだけだ。
時刻はそろそろ夕刻になり下校の時間が近づいていた。
そんな時、
「やあ、夜来君」
俺が今最も会いたい人間に出会った。
「なんだよ。千秋」
「覚えててされたんですね。僕の名前」
「俺のことなんだと思ってんだよ。そんな朝聞いた名前を忘れるわけないだろ!」
ほんとになんだと思ってんだよ。千秋にとって俺の知能は猿レベルってか。特に喋ったことないのに面白い偏見だ。まあ、クラス内で自己紹介していた翔の名前は忘れていたんだが。
「それだけ、強気ということは、朝よりは元気そうですね」
「じゃあ、美戦でもやるか?」
そう好戦的にいう。実際、俺は、千秋を倒したくてうずうずしていた。そんな時にこいつにあったということは、神様が俺に「千秋を倒せ」と言っているようなものだろう。
「いいえ、今日はやめておきましょう」
「なんでだよ?俺は、やる気だぜ!」
獰猛に邪悪な笑みを浮かべる。
「あなたにはまず、美戦の基礎知識を教えなければならないと思いましてね」
そういうと、校門の方へテクテクと歩いていく。
「着いて来てください」
後ろを振り返った千秋の顔はどこかソワソワしている。もしかしたらこれから行くとこはそれほど楽しいところなのかもしれない。
どこに行くのかわからない。そのことが少し気がかりだが、この後特に予定があるわけではないので着いて行くことにした。
*
そこは、俺の予想と大きく違いカフェのようなところだった。
カフェといっても、そんな大きなところではない。木製のシンプルな作りのよくある隠れ家系の店だ。
俺のようによく1人でいるような奴からすればなかなか入りづらい感じの店だ。
言葉遣いから勘違いしていたが、こんな普通の場所をチョイスするということは千秋は金持ちなわけではなく、割と庶民的な人間だったのかもしれない。
「ご注文は何にしますか?」
俺たちが席について少し時間を置き、奥から店員が出てくる。
店員は、営業スマイルを貼り付けシンプルに聞いてくた。
「俺は、このアイスコーヒーで」
入ってまだ少ししか経ってないということもあり、あまりメニューは見てない。だが、見てもよくわからない単語が多かったので、唯一ではないが知っているものを注文する。
「じゃあ、僕はアールグレイのアイスでお願いします」
一方千秋の方はこういう店に慣れているのか小洒落たものを頼んでいた。
「かしこまりました。アイスコーヒーのお客様はミルクや砂糖をつけますか?」
ここは大人にブラックにでもするか。
「ブラックで」
俺は基本、コーヒーにはミルクを入れるがここでは少し背伸びをし、ブラックを注文する。
「かしこまりました」
そういうと店員は厨房の方へそそくさと戻っていった。
店の中はゆったりとした音楽が流れており落ち着いた雰囲気の店だ。
「で、美戦とはなんなんだよ」
そんな雰囲気をぶち壊すように単刀直入に言う。俺は、回りくどいことは嫌いだ。だから、大抵の場合話は本題から入る。
「はあ〜」
そうため息をつくと、
「朝は、さも知っているかのような言い方だったのに今は、知ってるフリさえしないんですね」
そこには、呆れが見て取れた。
「ああ、だってここで知ってるフリしても意味ないだろ。逆に話がややこしくなると思ってな」
それに、俺は知らないことは恥ずかしいことだとは思っていない。
「案外、あなたサバサバした性格なんですね。まあ、こっちとしても話やすいんでいいんですけど」
そういうと、千秋は美戦について語り出した。
「美戦というのは、朝言った通り「美的能力戦争」というものの略称ですね。簡単にいうと、自分の作った作品を使って戦うというものです。作品の中でも種類があって、たいていの人は、絵画、書道、音楽、彫刻、文芸、総合芸術、デザインの7種類から自分の得意なことを選んで戦います」
「その7種類って、クラス編成の基本にもなってんだな」
「よく気づきましたね。ええ、そうなんですよ。やっぱり、その7種はメインに取り組む人が多いんですよね」
「へー、そうか」
「続いて、各種類の特徴ですね。
まず、僕が所属している絵画ですね。絵画というのは、多分最も認知度が高い種だと思ってるんですよ」
千秋はえっへんというように胸を張る。
いやいや、別にお前が誇らしく思うところじゃないから。
「絵画は、描いたものを具現化させるという能力ですね。基本的に、あまり力を入れなくてもかけるので、かなり簡単にできる部類だと思います。しかし、弱点もあって具現化する素材が、弱いので力勝負になるとすぐに負けてしまいます。次に、書道です。書道も、紙に書いたことを具現化する能力ですね」
「ちょっと待った。じゃあ、絵画と同じだってことかよ」
「いいえ。決定的に違う点がありますよ。それは、絵画は、絵に描いたものを具現化するのに対して、書道は字で書いたものを具現化するという点です」
そういうと、千秋はテーブルの端にあった口を履くようの紙を一枚取り、そこに大きく「馬」という字を書いた。
「こうすることで、馬を具現化させる。それが書道という種の能力です」
そして、もう一枚紙を取りそこには、馬の絵を描いた。その馬は、わずか1分足らずで描いたとは思えないほどの完成度だ。
さすが絵画クラスと褒めてやりたいくらいだ。
「それで、こっちの紙に書いたようにして馬を具現化するのが絵画ですね」
「いや、いちいち書かなくていいぞ。話聞いてるだけでわかるからな」
「そうですか」
そういいながら、千秋が少し残念そうにしているように見えた。
もしかしたら、自分の絵のうまさを自慢しようという考えもあったのかもしない。
「では、気を取り直して次にいきましょう。次は、音楽ですね。この種は結構大雑把なくくりになっていて、楽器や歌を含んでいます。まあ、どちらも音符を飛ばして戦うっていう点では同じなんですけどね」
「俺、思ったんだけどよう。じゃあ、ハードな音楽を演奏して多くの音符を飛ばせばいいってことか?」
「そういう戦い方もあるんですが、それだけでなくてですね。リズム、緩急によって、音符一つ一つの威力が変わってくるので、あまり音符を出さずに一撃一撃を重くしている人もいますね」
「結構、多くの要因が絡み合って美戦ってできてるんだな」
「ええ、そうなんですよ。では次はあなたの得意分野の彫刻ですね」
それは嫌味かと言おうとすると、
「アイスコーヒーとアイスティーになります」
店員が頼んだ品を持ってきた。タイミングが完璧だったため千秋とこの店員は何か打ち合わせでもしてるのかと思う。
だが、このままここに立たせて置いても悪いので素早くドリンクを受け取る。
「ああ、アイスコーヒーはこっちで、アイスティーは向こうな」
「以上でよろしいでしょうか」
「ああ」
最後にニコリと笑みを浮かべると店員は、小さく礼をして来た方へ戻っていった。店員が、すぐに厨房周辺に戻るということは、客が少ないってことだろうか?
そんなことを考えていると。
「えへんっ」というわざとらしい咳払いが聞こえてきた。
「よろしいですか?」
じっと厨房の方を見ていた俺の意識をもう一度こっちに戻す。
「ああ、いいぜ」
「どこまで話しましたっけ……。そうだ、彫刻ですね。彫刻は、あなたのクラスなので、あまり説明はいらないと思いますが。まあ、いちおうやっておきますか。ええと、彫刻というのは、何より、一撃の重さと圧倒的な強度が売りですね。その代わり、他の芸術作品よりも作成に時間がかかりますね。あとある程度の、筋力も必要なのでかなり難しい種であると思います」
「へー、あれってそんなに難しかったのか。小さい頃からやってたから、あんま気にならなかったぜ」
「まあそりゃそうですよね。何せ、あの天城先生の息子さんなんですから」
「ああ?」
また、スイッチが入る。
「初対面の時から気になっていたんですが。なぜ、お父様の話になるとそこまで感情的になるんですか?」
「なぜって……」
そこまでいって言葉が、詰まってしまう。
どうせここで千秋に言ったってなにもわらかないだろう。
「お前には、関係ないだろ。それに、親が天才な子供の気持ちなんてわかりゃしねーだろ!」
俺は、表現できない気持ちを言うのを諦め、逃げた。ただ、それだけのつもりで言ったつもりだった。
「そんなの……わかってますよ」
だから、千秋からこんな言葉が出るなんて思ってもみなかった。
俺は今、言ってはいけないことを言ったのかもしれない。こういう時、どうすればいいか、俺はよく知っている。
「悪い、何か気に触るようなこと言ったか?」
そういうと、素直に頭を下げた。なんどもしてきたことだ。
昔は、プライドがどうとか言っていた気もするが、そんなものどこかに捨てて来た。
「意外ですね。あなたっててっきり、謝らないタイプの人かと思ってましたよ」
本当に驚いていたのか、返答にラグがあった。
さっきまでの弱々しさはもうなりを潜めている。
「いつからそんなこと思ってたんだよ」
「いつからって今朝の入学式の時からですよ。遅れて来たのってあなたですよね?それなのに、謝りもせずそそくさと席についていたんでその時からです」
今朝のやつ、見てたのかよ。
しかし、俺があの時謝らなかったのは全て俺が悪いっていうわけじゃない。
「あん時に、言えるわけないだろ。あの女が、座れっていってる時によう」
それも高圧的にだ。あの場合はすぐにでも席に着いた方がいいと俺は判断した。
「まあ、それはそうですね。あのような言われ方では、なかなか言いだせませんよね」
「てか、あいつ何様のつもりだよ。いきなり初対面の相手に向かって命令って」
「ああでも、彼女からならばああいう言い方されても仕方ないんじゃないんですかね」
千秋は苦笑いを浮かべる。多分あの女のことを思い出しているのだろう。
「それってどういう意味だよ」
そのことに疑問に思う。だって千秋も今日初めてあの女にあったはずだ。それなのに、前から知っているというように言う。
「だって彼女、総合芸術の頂点「鈴宮 悠一(すずみや ゆういち」」さんの娘さんの「鈴宮 楓」さんなんでね」
そう、千秋は言い出した。




