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体育会系男子の自己理論  作者: 旧夢
第1章 始まりの刻
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Inferior/Despond 劣等と失望

 

「この学校に入学したのに、そんなこともわからないんですか」

「ああ、知らねえよ。ダメか!」


 自分でもわかってる。これが人にものを聞く時の態度かよと。だが、俺そうせずにはいられないかった。

 どう表現すべきかわからないがこいつには、下手に出てはいけない。そう俺の勘が言っている。


美戦びせんですよ」


 途端、俺の中で何かが弾ける。どこかで聞いた懐かしい響きに目を見開く。


「美戦、略さずいうと美的能力戦争びてきのうりょくせんそうです。自分の作品を具現化して戦う戦いです。作品の完成度や芸術性、そして、美的センスの合計によって性能が決まるんですよ」


 ああ、そういえば学校説明にそんなことが書いてあったな。その頃は、學美学園がくびがくえんは落ちたと思っていてあまり詳しく読んでいなかったんだった。

 だから、聞いたことがあったのかと、自分を納得させる。


「で、それを今からやると。そういうことだろ」

「はい。そういう所は物分りがいいんですね」


 その言葉を聞いているうちに俺はなぜここまで過敏に、千秋の言葉に反応するのかを知る。この男の喋り方は『あの男』に似ているのだ。いつだって夜来を嘲笑うあの男に......。


「じゃあ、勝負と行こうか!」


 先ほどまではあまり乗り気ではなかったがあの男に似ていると気づいた瞬間俺の中では、目の前のあいてをぶん殴ってやりたいという気持ちが高まっていた。


「まさか、ここでやる気なんですか?」

「おう、なんでだよ!早く始めようぜ!」


 こっちはやる気十分ではいつだって始めることはできるぞ。


「はぁ」


 またもや、目の前の相手は大きなため息をつく。


「あなた本当に何もわかってないんですね。まさか、あなた今まで親を頼り続けたよくいるボンボンというやつですか!」


 その言葉を聞いた瞬間、夜来の頭に多くの声が流れ込む。よく聞いたあの声だ。

 ガンガンと何かが鳴り続け頭が痛い。

 意識せずにガタガタと体が震え出し止まらない。


 寒い寒い寒い。


 まるで取り憑くかのように夜来の体をその声は蝕んでいく。


「俺は......俺は頼ってなんかいない!」


 気付いた時には、俺は大声で叫んでいた。


「あ、あの〜......」


 控えめに肩を叩かれる。


「はっ!」


 千秋の言葉を聞いた瞬間、夜来の頭の中で響き続けていた声は消えていた。それと同時に周りの喧騒も戻ってくる。


「あの子が、天才彫刻家の息子〜」「あいつなんであんなに震えてるんだよ」「前の男に美戦を挑まれて震えてるんじゃね」「前の子かっこよくない?」

「まさか、あいつって意外と臆病かよ。天才の息子だからってびびって損したぜ」


 その時、俺は気づいた。今起こっている喧騒は、戻ってきたのではなく、俺の行動によって引き起こされたということを。


「大丈夫ですか?夜来君?」

「ああ、悪い少し考え事をしてた。で、何か言ったか?」


 少しの間を空け千秋は答えた。


「いえ、何も」


 そう簡潔に……。


「じゃあ、始めようぜ。美戦!」

「今日はやめましょう。夜来君、さっきの様子じゃあまり体調も良さそうではありませんし。それにほら、もう始業のチャイムがなりますよ」


 そう言い指指した先にある時計は、もうすぐ授業が始まることを表していた。

 自分では調子が良くないって自覚はないんだが……。まあ、自分ではわからないこともあるのだろう。そう自分を納得させる。


「では、私は絵画クラスなので、またどこかで会いましょう。まあ、同じ学園にいる時点でいつでも会えるんですけどね」


 そうここ學美学園は、芸術選択によりクラスが分かれており、絵画、書道、音楽、彫刻、文芸、総合芸術、デザインの主要芸術7つと、写真や菓子、漫画などの複合クラス2クラスの計9クラスからなっている。

  だから、學美学園は、合計、27クラスのまあ大きい程度の学園である。ちなみに俺は、唯一教わっていたということもあり、不本意ながら彫刻部に編入されている。


 *


「はーい、はーじめーるよー」


 そんな陽気な声とともに入って来たのは、本当に彫刻クラスの担任なのかと疑問に思うほど線の細い女性だった。

 基本的に、彫刻というものは力を入れることが多い。また、硬派なイメージから女性からは嫌悪されがちで女性の彫刻家は珍しいのだ。


「意外と綺麗な人が来て驚いたー?まあ、そうよね私ってこの学園の中でも若い方だしやっぱ、みんな嬉しいでしょー」


 その女性の第一印象。それは、「とにかく明るい」ということだ。あと、少しうるさいかな。


「あれー?みんな反応が薄いなー。やっぱり、入学式後だから緊張してるのかな?でも、大丈夫!私どんな生徒だろうと女神のような心の広さでカバーするのであーる。では、まず自己紹介をしてもらおうかなーと」


 いや、うるさいじゃない。この感覚は……うざい?

 しかし、不快になるような騒々しさではないと俺は勝手に思う。


「せんせー、まずは先生の名前が知りたいです!」


 誰かがそんなことを言った。その言葉を皮切りに、「聞きたい、聞きたい」と多くの生徒が、口々言い出した。

 先ほどまでの緊張はどこへ行ったのか、この先生が話し始めてからクラスが明るくなった気がする。


「えー!そんなにみんなから言われちゃうと担任としてするしかないね。えーと、私の名前は「鈴峯すずみね 陽子はるこ」はるちゃんって呼んでね。好きなことは、食べることと寝ることだね!」


 子供かっ!

 あまりの幼稚な自己紹介に思わずツッコミを入れてしまう。


「得意分野は彫刻だね。まあ、今の時代電動でできるってこともあってこんなか弱い女性でもできるのである!」


 電動ってことはかなり楽に彫刻作品を作ることができるんだろうと羨ましく感じる。だが、俺は自分の力で作るから彫刻っていうのは楽しいんだと教わっている。

 あんなに嫌っている親父からの言葉を今も大事にとどめてるなんてな。


「他に質問がある人ー。あ、でもあんまプライベートなことは教えれないよ!例えば、彼氏のこととか彼氏のこととか」

「それってフリかよ、はるちゃん」


 そう言うとクラスの中には笑いが起こる。

 まあ、そう思うよな。それに、他人の恋話とかは案外楽しい。それも年がそこまで離れていないような相手ならば尚更だ。


「じゃあ、質問!はるちゃんは彼氏いるの〜?」


 瞬間、陽子先生の表情が変わる。

 これはまずい。もしかしたら、地雷を踏んだのかもしれない。だが、そう思った頃にはもう遅い。


「何笑ってるんです。聞くなって言ったよね?」


 その今までの様子とは正反対の言葉により、教室が凍りつく。

 今まで笑いあっていたのが嘘だったのかのように静かになっていた。そして、クラスの中で初めて共通の認識ができた。


 はるちゃんには、彼氏のことを聞いてはいけない。


「っていうのは冗談だとして。クラスの雰囲気も良くなって来たところで、自己紹介といきますか!」


 いやいや、冗談っていうのには無理があると思うが。


「では、気を取り直して。1番の天城......!天城ってあの」


 そういうと、鈴峯先生は名簿の名前と俺の方を交互に見る。


「はるちゃん、新クラスの生徒の名簿見てないの〜?」


 さっきのお調子者は、さっきのことに懲りてないのかまた、チャチャを入れていた。


「いやー、やっぱ新クラスの生徒の名前は初対面まで、見ないってのが私の流儀なのよねー。やっぱりそっちの方が新鮮じゃない。そんな私の個人的なことは置いといて、言われてみれば似てるかもね、新月さんに。元気にしてる?私も少しはお世話になったこともあるし」


 クソ、この担任も親父の知り合いかよ。この場所でも期待されてるのかよ……俺。

 さっきまで、好印象だった陽子に対する評価が今の一言で急降下する。


「いや、あんま知らないっす。俺、父とはあんま連絡とってないんで。それに、ずっと前から俺は親戚のうちで暮らしてて顔もあんまり合わせてないんで」

「それは、複雑なわけありっていうことかなー?まあいいや、私の仕事はあなたに真摯に教えて、正当に評価するだけだしね。それに新月さんの息子だからって手は抜かないよ〜!」


 そんなことを言いながら笑っていた。彼女にとっては冗談まじりの笑い話なのかもしれない。

 だが、俺にとっては全く違う意味を持っていた。

 今までは、自己紹介をするたび決まって、

「新月さんの息子ならやっぱ、天才なのかな」

「新月先生に、僕の作品を見てもらえるようアポを取ってくれないか」

 と、いうように俺のことを通して、親父の姿ばかりを見てばかりいた。だから、俺は大人が大嫌いだった。でも、この人なら俺のことを正当に評価してくれるかもしれない。

 これは楽観的すぎるだろうか。だが、大勢に期待されてきた俺が、少しぐらい期待するのは悪いことじゃないはずだ。


「では、改めて。1番、天城 夜来君!」

「はい!天城 夜来です。多分みんな知ってる天城 新月の息子だ。でも、俺はあの人のように天才ではないんであんま期待はしないでくれ。一年間よろしく」


 さっきのことにわずかな希望を見出した俺は、簡潔に自己紹介をするとそそくさと席に着いた。


「へえ、あの人が噂の人かぁ」


 視界の端でニヤリと笑った奴がいた気がする。しかし、それは気のせいだろう。

  その後、自己紹介は着々と進んでいき、気づいた時には全員の自己紹介が終わっていた。

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