Next Problems 次なる問題たち
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すみません
たらりと汗が流れる。
だんだんと暑くなる5月。ゴールデンウィークも終わり、俺たちは次なる戦いに備えていた。
「夜来、この問題解けるか?」
ゴクリと唾を飲み、翔が俺に質問する。
「ここは、まずはXに代入をして……いや、そうじゃない」
俺たちの通う學美学園では、5月の3週目に中間テストが行われる。そのため、ゴールデンウィーク明けから本格的に勉強を始めなければならないのだ。
この期間は、勉強をしなければならないので体を動かす方が好きな俺にとっては苦痛としか言えない。
「翔君、ここはYの方に代入するんだよ。とりあえず、勉強関係は僕の方に聞いて。多分、夜来君じゃあ解けないから」
4月は色々あったが、千秋との距離も縮まり、なんだかんだいい経験なのかと思った。
というか、俺じゃあ解けないってどんだけバカにされてるんだよ。
「そうだったな。これからは千秋の方に聞くことにするわ」
翔の方も千秋の言葉に納得し、2人で問題を解き始める。
「納得するな。俺だってやればできる」
「そうなんだね。じゃあ、1人で頑張って」
にっこりと凶悪な笑みを浮かべ千秋は俺のことを見捨てる。
見かけ通り……って言ったら見かけ通りなんだが、千秋は勉強ができる。授業の時も、どんな問題だってそつなくこなす程度の学習能力を持っている。
「おいおい、俺も混ぜてくれよ。ここの問題はどうやって解けばいいんだ」
このままだと1人遅れてしまいそうなので急いで2人の会話に割り込む。
「勝手に割り込んでくんな。俺に割かれる時間が減るだろう。お前は、自分で勉強しとけよ」
翔も同じように俺のことを見捨てる。救いを求めるように千秋の方を見ると、
「まあまあ、そんなこと言わずに……。もしかしたら、2人で共通の疑問点があるかもしれないじゃない」
ここには、天使が存在した。しかし、そんな気持ちも翔が発した言葉によって現実に引き戻される。
「というか、そんなに勉強教えて欲しいなら鈴宮 楓にでも教えてもらえよ」
「はっ?なんで今あいつの名前が出るんだよ」
「お前ら、仲いいんだろ。俺は聞いたぞ。お前らたまに2人でカフェに行ってるんだってな」
翔はすんと鼻を鳴らしそっぽを向く。
ソースはどこだと問いただしたい。だが、ここ最近何回か行っているのは事実なのであまりその話題を深く掘り下げたくない。
「ほんとなの、夜来君!」
しかし、こういう話題に食いつきやすいやつがここにいる時点で追撃は免れないだろう。
ここで黙っていても変な噂が膨れ上がるだけだろう。
「まあ……な。だが、邪な考えがあるわけではないぞ。ちょっと家のことで聞きたいことがあってな」
あの時、彼女は言っていた。相談したいことがあるならばいつだって相談に乗ると。
それを覚えていた俺は、何度か楓のところに行き、美戦のこと、家によるプレッシャーのこと、様々なことを聞いていた。
「じゃあ、そのついでに勉強のことも聞いてこいよ。彼女、結構勉強もできるらしいぞ」
そんな姿は安易に想像できた。いかにもなんでも1番じゃないと納得できないといいそうだ。
「今度、会った時にでも聞いてみるとするかな」
「それなら、いっそ勉強会を開くってはどうかな?」
勉強会を開く……か。俺は、今まで1人で勉強してきたこともありこういうことはなれない。
「というか、勉強会って何するんだ。1人でやった方が効率いいだろ」
だから、なんとなく否定をしてしまう。
「僕も、行ったことがないんでわからないんだけど、友達同士なら開きましょう!」
お前もわからないのかよ、と思う。
というか、あの件以来千秋が『友達』ということをよく言うようになった。あんな家に育ったんだ多分友達と呼べるような人もいなかったのだろう。
そう考えると、ここは千秋の思いを組んで開いた方がいいのかもしれない。
「まあ、じゃあ開くとするか。もちろん、お前ら来るよな?」
「ぜひ、行かせてください」
「俺も、勉強教えてくれんなら誰でもいいかな」
いちおう、勉強会への招待をしてみたが、2人とも乗り気だった。
でも、まずは彼女に頼まなければいけないんだよな。そう思うと気分がどんどん沈んでいく。
*
「別に、私でよければいいわよ」
ある程度の反対を予想していたが、彼女は二つ返事で了承した。
「マジで。ほんとにいいのかよ」
ここはいつものカフェ。落ち着いた雰囲気の店内に俺の驚愕の声が響く。
「何をそんなに驚いてるの。別に減るもんでもないんだし、勉強の1つや2つ教えるなんて簡単なことよ」
なんて自信の持ち主だ。楓が勉強ができるってことはほんとうだったみたいだ。
だが、問題点はそれ以外にもある。
「こっちは男3人だぞ。それでもきてくれるのか?」
流石に、男3人の中に女性を1人入れるのは気がひける。別に、邪な考えがあるわけではないが……。
「それはそうね……。じゃあ、私の方から1人友達を連れて行くことにするわ。それなら、いいでしょ?」
いいでしょって言われても、俺はどっちでもいいんだが。
というか、彼女にも友達が居たんだな。放課後の時間を俺なんかのために使ってくれてるくらいだからてっきり友達がいないのかと思っていた。
「了解。場所はどうする?」
ここでの場所選択は難しい。最近のファミレスはあんまり長居をすると退出を求められるって聞いたし、だからといって誰かの家ってわけにも……。
「べつに、あなたの家でいいんじゃないの?」
その言葉に絶句する。
えっ……。俺の家に来るの。
「あなた一人暮らしなんでしょ。なら、集まりやすいしいいかなって思ったんだけど」
こっちの様子を伺うように楓はまじまじと俺の顔を見る。
その所作のあまりの美しさに危うく恋に落ちかける。恋に落ちること自体はいいが相手が相手なだけに、今の俺には不釣り合いな気がする。
「さっきから黙ってどうしたの?まさか、だめとか?」
「いや……まあ、いいか。俺の家で開催ってことで」
色々と言いたいことはあったが、彼女の中ではもう俺の家ってやるって事で決まっているようなので渋々了諾する。
「わかった。じゃあ、私の友達の方にも伝えておくわ」
そこまでいうと、楓は自分の鞄を持ち立ち上がる。
「今日は俺が払っとくから先帰っていいぞ」
「そう。それはありがと」
初めて会った頃は俺が払うというと、いや私が……というように言っていたのに何度かやっているうちに俺が払うのは当たり前というようになっていた。
「じゃあ、また」
彼女の後ろ姿に軽く手を振る。
自分の家を片付けなきゃなと思いながら料金を払うために俺はレジに向かうのだった。
*
翌る日の朝、昨日の収穫をまず翔の方に伝える。
「はあーん。で?」
翔はさもどうでもいいというように答える。
まあ、翔にとっては教えてくれる人よりも教えてくれる内容の方が重要なのだろう。
しかし、
「場所は俺の家になった」
「マジでか!お前の作品とか置いてあるのか」
開催場所には興味を示した。ウキウキとしたような笑顔で先ほどとは打って変わって明るい表情になる。
翔にとって何がそんなに嬉しいのかわからないが、喜んでくれてよかった。
「じゃあ、早速千秋の方にも教えに行くか!」
勢いよく立ち上がりセコセコと千秋のいる絵画クラスへ向かう。
「きっとあいつは喜ぶぜ。結構あいつ乗り気だったしな」
言われてみるとあの時あの場所で一番テンションが高かったのは千秋だった気がする。
ああ見えて以外と女子とかに興味があったりするのだろうか。
「でも、あいつの気持ちもわかるぜ。なんたってあの鈴宮 楓だぞ。この1年男子だったら誰だって喜ぶだろ」
「そういうもんか?俺は、特に何も感じないが」
どちらかといえば俺にとって、彼女は異性というよりも人生の先輩という感じがしている。
「おいおい、嘘だろ。美人で学業優秀で、おまけに天才の娘だときた。こんなハイスペックなやつ滅多にいないぞ」
翔はジロリとこっちを見る。その目は、お前はなんだっけと聞いてきている気がする。
「ああ、そうだよ。俺は天才の息子という肩書きだけの男だよ」
俺はプイッと顔を背ける。
「そんなこと言うなって。おっと、そろそろ絵画クラスだ。機嫌直せって夜来」
翔は甘えるかのようにゆさゆさと俺の体を揺さぶる。その時、
「キャーー」
突然の悲鳴が廊下に響き渡る。
「今の声って……」
「ああ、絵画クラスの方だ」
あんな悲鳴をあげるなんてただ事ではないはずだ。そう考え、俺は急いで絵画クラスに向かう。
「何があったんだ!」
絵画クラスの扉を勢いよく開け、中に入る。
そこには、女子生徒が1人倒れていた。
「おい、大丈夫か!」
体を揺するが反応がない。
「この教室でなにがあったんだ!」
クラス内で何が起こったのか分からず、大声でほかの生徒に聞く。だが、誰もが我関せずというように何もないかのように普通に生活を続ける。
「おい、クラスメートが倒れたんだぞ。何か言えよ!」
あまりの無関心さについに怒鳴り声をあげる。
その声に驚いたのかやっとこっちを見る。
「ここで何があったんだ!」
「何って、特に変わったことはないけれど……」
こんな状況を目の前にして変わったことはない……だと。
「というか、君。彫刻クラスの『天城 夜来』君だよね。うちのクラスに何か用なの?」
どの生徒が言ったのかわからないがその言葉を皮切りに、
「あれが噂の新入生か」
「やっぱ、私たち凡人とは雰囲気が違うよね」
というように思いおもいの感想を言い合っていた。
「そんな場合じゃねえだろ。はやくなんとか……」
「夜来君、こんなところで何してるんの?」
ガラガラと扉が開きそこには千秋が立っていた。
「やっと話の通じる奴が来た。この子を保健室まで運ぶぞ。手伝ってくれ」
ここにいる生徒じゃあ話にならない。彫刻クラスと絵画クラスは校舎の端と端なのであまり関わりがなかったがこんなに薄情なやつばっかのクラスとは思ってもみなかった。
「いや、いつものことなんでいいんですよ。そのままで」
はっ?
声にならない吐息が漏れる。
「お前まで……。いったい何がどうなってるんだ」
千秋とは1ヶ月以上一緒にいるんだ。こいつが倒れてる人を見捨てるやつなはずがない。
「そういえば、彫刻クラスってこっから一番遠かったんだっけ」
そういうと千秋は、倒れてる女子生徒横に座り込み彼女の頬を軽く叩く。
「大丈夫ですか?華山さん」
その途端、俺が何回呼びかけても起きなかった彼女の瞳はゆっくりと開いていった。
「あなたが助けてくれたの?千秋くん」
うっとりとした様子で華山と呼ばれた生徒は千秋のことを見上げる。
「華山さん。こういうことは迷惑になるからやめてほしいかな。今日だって勘違いした人が来ちゃったんだから」
「わかった。千秋くんがそう言うならそうするね」
話がわからない。
「ええと、ちょっといいか?」
「そうだ、千秋くん。今度、クレープを食べに行かない?私いい店知ってるんだ」
「そんなんですか?僕、あまりスイーツに詳しくないんでそんな店を紹介してもらえて嬉しいです」
千秋と華山は完全に2人の世界に入り込んでいるようで俺の声は聞こえていないみたいだ。
「そろそろ、予鈴ですね。さあ立って、授業が始まりますよ」
「ありがとう。千秋くんって本当に優しいね」
「いえいえ、僕なんか」
なんだか、この2人の会話を聞いていると寒気が走る。
なんだか、付き合いたてのカップルを見ているようだ。
「そうだ、夜来くん。このことは後で話すので君もそろそろ教室に帰ったほうがいいよ」
俺も帰ろうとしていたところなので特に何も言わずに帰ることにする。
教室に帰る途中。俺は向こうから歩いてくる翔と出会う。
「お前、いったいどこ行ってたんだ?」
翔だって聞こえたはずだ。華山の悲鳴が。それなのにこいつはのうのうと歩いて向かっていた。
「悪い悪い。ちょっと変なことがあったもんでちょっと聞き込みをね」
「変なこと?」
「ああ、悲鳴が聞こえてきたときのことを思い出してくれ」
そう言われて思い出す。
あの時、俺は悲鳴が聞こえた方向に向かって走っていった。
「俺は、その時違和感を感じたんだ。そう、俺たち以外だれもその悲鳴に驚かなかったってことだ」
言われてみればそうだ。あの時、悲鳴に対して過敏に反応していたのは俺と翔だけでほかのやつは何事もなかったかのように過ごしていた。
「そのことがちょっと気になって周りのやつに聞いたんだ。そしたら、面白いことがわかってな」
翔は、ニヤニヤとしながらここで言葉を区切る。
「っで、面白いことってなんだ?」
「なんと、あの悲鳴はいつものことだったらしい」
「それってどういう……」
全然、話がわからない。毎日のように悲鳴をあげる生徒なんて頭がおかしいやつだ。
「まあ、詳しい話は千秋に聞いてくれ。あいつのクラスのことだ。きっとあいつが一番よく分かってる」
はあという生返事しか返せない。
「よし、教室に戻るか。そろそろ1限が始まるぞ」
そういうと翔は駆け足で自分のクラスへと戻っていった。
俺も、ムカムカとした気持ちを抑え、自分のクラスへと帰るのだった。




