第九十三話 禁獣魔法 死蜂人形デステールビー
外に出てみると、一瞬、記憶が飛びそうなくらい、街の住人が血を流し多数、地面に倒れていた。
血生臭い匂いがはびこる。そこには凄惨な光景が広がっていた。
「なんて数だ!」
「ひどい!」
エリューは余りに惨たらしくて見た目を閉じ他所をむいた。
ファイの感情が怒り奮闘していた。高ぶって拳を握った。
「来るのが少し遅かったか、あの出てくるまでの一瞬でこんなに虐殺されるなんて」
近くに子供が血を流し倒れているのに、姫様が気が付いた。
「こんな子供まで。キミ、しっかり、大丈夫?」
「お、お母さん」
そういい、子供は目を閉じた。顔が蒼くなっていく。姫様はすぐに手首を握り、脈をみた。テアフレナに生きてるのサインを目で送った。
「姫様、諦めてはなりません。助かる見込みのあるものは我らの回復魔法で助けましょう。それに、回復アイテムを沢山買い込んであります」
テアフレナも必死だった。どうにか対応策を捻りだしていた。
姫様もそれに頷いた。
「そうね、私と、テアフレナ、エリュー、ニミュエ、は怪我している人の回復に回って。ボン君は回復アイテムを使って助けてあげて」
「了解どん」「わかりました、姫様」
ボンとエリューは軽く返事をした。そのとき、テアフレナがポケットからアイテムが入っている四次元ボックスをボンに投げた。
それを上手くボンは動物の反応力でキャッチした。
「中に回復アイテムが入っている、ボンくんはそれで頼む」
「わかったどん」
ボンはそういうと、急いでアイテムを複数取り出していく。
「暗いどんね。よし、おいどんのアイテムで明るくするどん」
「猫目光弾」
そういいボンは玉くりを建物の屋根に投げつけた。
すると、そこにドリルが入るように一瞬で玉が固定され、なんと、真っ暗なのに魔法のように明るい光が発生した。辺りが昼間のように明るくなった。
「へぇ、お前、たまにはいいことするじゃんかよ」
「えっへん」
「ボンよ、今日は褒めてやるぞ、緊急時にいいことしたな」
「おいどんのアイテムにかかればこんなもの簡単どんよ」
キュラの褒め言葉があまりに嬉しかったのか、ボンは腕組をし、調子にのった。
それも束の間、イーミ姫様はずっと救助していた。
「大丈夫、今、回復魔法をかけるね。気をしっかり」
そういうと、イーミ姫様は傷ついた子供に回復魔法を施す。淡く白い光りがでた。
一瞬のうちに傷は塞がった。だが、顔色は蒼く変わらない。
これは一体?
「毒? 顔色が蒼いわ。回復魔法で傷口は治せるけど、さっきのファイの時と同じで、毒が治らないわ」
ファイがこの模様をずっとみていた。
「他の人は死んでいるものもいるかもしれねーが、斬って、致命傷にならなくても、例の毒で簡単に殺せるように算段している」
ヒョウが続けて言葉を紡ぎ、ジェスチャーをした。
「見ろ、どの人の身体も、一回くらいしか切り傷がない」
ファイの顔色が憤りで変わっていく。
「へ、調子に乗りやがって、またあの毒か。今度は斬られる前に息の根を止めてやる」
そのとき、エリューがウィードの方を向き、檄を飛ばした。
「ウィードさん、ポイズンプリズナー、後どれくらいあるんですか?」
「この一本のみだ。毒は一滴飲ませれば治すことができる」
ウィードは懐からポイズンプリズナーを取り出し、近くにいたキュラに放り投げた。
キュラは上手くパチッと、受け取った。
「ざっと、三十人くらいか、ニミュエ、持てるか? そなたの方が羽が付いていて、我らが動くよりもスピードが速い。ニミュエが一滴ずつ飲ませてくれ」
「わかった」
キュラの言葉にニミュエは納得し、飛んでキュラからポイズンプリズナーを取るとすぐに介抱に向かった。
そのときだった。
「いひひ、飛んで火にいる夏の虫とはこのことをいうのだ。ぐへへ、生き血は美味い」
なんと空中にフォライーがいた。爪には男の人を串刺しにし、舌で生き血を啜っていた。
魔族だ。皆の表情が曇った。急に緊迫感が犇めいた。
「フォライーか!」
ファイが突っかかっていく。
フォライーは鼻を鳴らした。
「名前を覚えていてくれたか、光栄だな。ウィード、レビ記をよこせ、今度は逃がさんぞ」
「断る、お前にやるものなどない」
ウィードがそういった瞬間、フォライーはニヤリと不敵な笑みを浮かべた。
「そうか、死ぬというのに皮肉な話だ。禁獣魔法で生まれし、生命体、キラ―ビーとデスファントムの混合、死蜂人形デステールビーに血祭りにされるがよい!」
「な、デステールビーだと?」
ファイがそういった矢先だった。
「出でよ、デステールビーよ!」
なんと、少し離れた奥、フォライーの真下に、とてつもなく大きな蜂が現れた。テールがものすごく長い。その先には針がある。恐らく即死の毒針だ。
デスファントムのようにそのモンスターには腕も足もあった。まるで人形のように。
エリューが、青ざめた顔でしゃべりだした。
「キラ―ビーって、あの森林地帯に生息していると言われてる、殺人蜂じゃ?」
「確か、猛毒で一度刺されると即死に至るはず」
「そ、そんなまさか」
レイティスの答えに、アザレ副将軍が言葉を失った。
「へ、掠り傷も絶対に負えないってわけか。このゾーリンゲン産の鎧服を着てる所はまず大丈夫だろうがよぉ」
「鎧服? ファイお前いつそんな代物をどうみたって、ただの布地じゃ?」
レイティスが疑念を抱きながらいった。確かに、見た目は布だ。
その瞬間だった。
「ディスチャージ! 魔剣イフリート!」
一瞬のうちに透明状態から、魔剣を右手に下ろして握りしめた。
そして、それを腹に刺そうと逆手にもった。
「みせてやるよ、おら」
「やめろ、ファイ!」
レイティスが止める瞬間、それより早く、ファイは、自分の腹に魔剣を突き刺そうとした。だが、魔剣は刺さらない。鎧服と呼ばれる服の生地の先端で止まった。
「な、大丈夫だろ、ほら、力を入れてもこの通りだ」
「嘘だろ? 布地なのに剣が刺さらないなんて」
「この布は鉄のように固く、加工が施されてるんだ、ゾーリンゲンの刀匠の特殊な魔力で」
「フ、鉄の布か、よくできてるな、ファイ、奴は待ってくれないようだぞ」
キュラの言葉にファイの眼光が光った。
怒りという色、一色だった。
段平を裏返した。
「へ、さっきの言葉そっくりそのまま返してやる、俺の炎で燃やし尽くしてやる!」
「いくぞぉ、てやぁ」
始まった。ファイが血をけたたましく蹴って空を舞った!
そして空中に飛翔し、左手にラスタを集中させていく。
「炎殺拳連撃!」
「ぐがあぁぁあぁl」
炎の塊を何発もデスファントムに向かって放ち、直撃させた。
デスファントムはその炎で何匹かが燃えて形を失った。
だが、その時だった。相手は数が何十匹といた。
その中の何体かが、ファイに触手を見舞おうと発してきていた!
それを後ろでみていたキュラがファイに檄を飛ばした。
「ファイ、左に飛べ! 奴の触手だ!」
「へ、これくらい、躱せる!」
なんとか、ファイもキュラの檄で、一回地に上手く足を付け、素早く飛び、躱すのに成功した。
そして、ファイはかかってこいのジェスチャーをした。
「おら、十でも、ニ十でもこいよ、相手になってやる」
デスファントムの気を一気に集めた。どの敵もファイの方を向いた。
フォライーがジッと睥睨していた。
ウィードは一瞬の出来事に目を疑って見開いた。
「(この人も魔神剣士か。どうりで強いはずだ。しかし、僕はまだ能力を見せるわけには)」
「遅い、遅い、どうした、藁人形!」
ファイはとてつもなく速いであろう、デスファントムの触手を見事に躱していく。
ウィードもこれにはついていくのが大変だった。
スピードが余りにも速かったためだ。
「(なんてスピードだ、僕でも目が追いついていかない)」
「さっきはあたっちまったが、一度うければ、二度目はあたらねーぞ」
「何、あれだけのデスファントムの触手を全て躱しておるだと?」
フォライーは、驚きの色を隠せなかった。紙一重で全てファイは攻撃の一手を上手く躱していた。
ファイは余裕だった。
「瞬速移動だ! ファイは当たる直前で本気に近いスピードで瞬速移動のスピードを引き上げてるんだ」
ヒョウにはどうやら、読めていたようだ。一瞬のうちにだけラスタを爆発させ、通常の瞬速移動よりも速く行動できるようにファイはしていたのだ。
これなら、ラスタが尽きない限りは速く一瞬だけ動ける。
「へへ、だけどよ、これだけの数になると俺でも躱すので精一杯だ、攻撃を引き付ける、後は頼むぜ、おっさん」
「任しておけ! 坊主!」
レギンが動いた。
一瞬のうちにイーリアアックスに獣人の力が集束していく。
眩い稲光が巻き起こった。
そして、レギンは、デスファントムの頭上に飛翔した。
「おらぁ、疾風雷狼斬」
DWOOON!
「なんだ、稲光、雷撃か」
レギンの一撃は確実にデスファントム全員を呑み込み粉砕した。
雷と稲光がエネルギーとともに多大な爆発を起こした。
「な、なに、一瞬であの数のデスファントムを殲滅だと」
フォライーはレギンが獣人という事も知らず、諸刃の剣のようになっていた。
だが、相手は魔族、誰しも一筋縄ではいかないことは判っていた。
デステールビーがファイたちの前に立ちはだかった。
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