第九十話 魔の毒
フォライーの術がファイに炸裂していた。ファイは身動き一つ取れない。
皆の顔色が急変した。
「愚弄しおって、フハハ、無駄に力をつけると痛いめに合うのだよ。お前はもう、我の傀儡の巣からは逃げられん、しねぇ」
その瞬間だった!
「傀儡悪魔爪!」
なんと、フォライーの指が長く槍のように伸び、ファイの心臓目掛けて突っ切っていく。
当たれば即死だ。
だが、その瞬間、隣にいたヒョウが動いた!
「そうはさせるかぁ、氷魔風」
BYUUUUUUU!
なんと、一瞬のうちにヒョウは術で指を氷漬けにした。
「己れぇ、もう一息で殺せたものを」
「奴の爪を凍らせた?」
遠目でウィードはその模様を一瞥していた。
その矢先だった。
「もらったぁ」
ヒョウだ。ヒョウが瞬速移動でフォライーの頭上に移動してきていた。
大きく肩を振り被った。
「何、どこから、現れた!」
「凍ってしまえッ、『アイスザンバー!』」
BYU!
一瞬だった。大きな、氷の一閃が頭上からフォライーに飛んだ。
波動で、地盤がうち震えた。
商店街の建物ごと展開し氷漬けになった。
しかし、凍るものの、フォライーの姿が見当たらない。砂塵が収まり始めた。
「やったかッ?」
「相変わらず、すげぇ、凍りようだな。手下は皆、丸氷か」
ヒョウが舌打つのを聞くと、レギンはほうというような面持ちで軽く言った。
確かに、異常なまでの凍り付き方だった。
そのとき、ヒョウの近くにニミュエが羽を羽ばたかせ、飛んできた。
「ヒョウさんやるぅ」
「ヒョウ殿の裁きの氷だな」
レイティスは軽く笑いながら言った。
みなが安堵したそのときだった。
「ぐはは、その程度の攻撃で、わしを殺そうなど、百年はやいわ」
フォライーだ。フォライーが建物の屋根の上から現れ、睥睨している。
状況が一変し、ヒョウは顔色を濁した。
「ちぃ、生きていたか。手応えがあったように思えたが」
「悪魔壁を貫通などできんぞ、我の魔力がある限りな」
いうと、フォライーは姿を消した。その場には凍り付いたデスファントムしかいない。
「消えた? 逃がしたかッ! ファイ、追うぞ」
「ぐ、なッ…」
「どうした、ファイ!」
ファイが魔剣を地面に落とし、倒れこんだ。
一体どうしたのだ。皆が怪訝な面持ちで見遣った。
近くにいたニミュエが血相の色を変え、ファイに近寄っていく。
「もしかして、毒じゃないの! ファイ、しっかりして、ファイ、ファイ!」
ニミュエはファイの顔をペンペンと小さい手で数回たたきながら言った。
「姫様!」
続け様にニミュエは姫様に檄を飛ばした。姫様は無言だった。
無言のままみな、心配そうな顔でファイに駆け寄っていく。
「奴め、こうなるのがわかってたんだ。だから、手を引いたのかもしれん」
「見殺し何てできない、あたしの解毒魔法で!」
「だめよ、ニミュエ、さっき私がかけた魔法は同じ解毒魔法。だけど、こうなるっていうことは、魔法じゃ、毒を防げないのかもしれないわ」
「でも、でも、死なせたくない。あたしを助けてくれたんだもん」
ニミュエは辛そうな顔で涙を流しながらいった。
確かに危ない所を何回もファイに助けられている。
「魔解毒光」
ニミュエは通常よりも詠唱を速く済ませた。それくらい危うかったのだ。
少し毒が退いたようにみえた。しかし、また同じような色になっていく。
「ダメだわ、顔色が少し良くなっただけ、数秒でまた元に戻ってるわ」
ニミュエがそういった矢先だった。
「ニミュエさん、一人でダメなら二人でですよ。私も手伝います」
「私も手伝おう」
「エリューさん、テアフレナ様」
なんと、近くにいたテアフレナと、エリューが腕をまくり、助け舟をだした。
瞬時に魔法を二人は発動させる。魔法力を爆発させた。
「魔解毒光」
三人同時に解毒魔法を唱えた。
効果は覿面だった。効能は三倍だった。しかも、エリューとテアフレナの魔法力は桁外れだったからだ。
なんとか、死に至るという毒の回りは一時的にだが、防げるくらい効能が見出でていた。
しかし、これも足掻き同然だった。
テアフレナの顔色が曇った。
「ダメだ、時間稼ぎにしかならない。なんて厄介な毒なんだ。完全に打ち消せないのか」
「このままじゃ、このままじゃ、死ぬの」
ニミュエは真剣だった。大粒の涙が地面に流れていた。
「ダメ、ファイ、頑張ってあたしの魔法力が続くまで魔法かけ続けるから」
「えい」
ニミュエは何回も何回も、解毒魔法をかけ続けた。
エリューもテアフレナも力を貸した。
十分くらい膠着状態が続いたときだった。
「ぐッ、妖精さん、それにソレイユの姫様、フォライーの毒は普通の毒じゃない。魔の力で性質を強められた特殊な毒なのです。普通の魔法で治すのは不可能です」
「そ、そんなぁ」
ウィードはまだ完全回復してないのか、脇腹を抑えながら語り掛けた。
ニミュエはその言をきき、泣き叫んだ。
続けて、ウィードは言葉を紡いだ。
「その毒素を完全に消すには……ぐ、僕が使っていた、魔導士が古文書より作った魔法アイテムこの『解毒
囚瓶』を飲ませるしかない」
「ポイズンプリズナー? そんなのがあるの? 早くそれを貸して―」
ウィードが懐から出した、瓶をニミュエは快速で羽ばたき、一瞬のうちに取り上げ、ファイの方にもっていった。
そして、ファイの口に瓶の蓋を開け、飲ませようとした。
「ファイ、ファイ、飲んで、これ飲んでってばー」
「がはぁ」
「よし、毒素を吐き出したぞ」
レギンが高らかとした声音を上げた。紫色をした毒素は吐き出され、地面にしみこんでいく。
ファイの意識が戻った。
「ん、な、なんだぁ、お前らよってたかって」
「よかったぁ、もどったー。心配したんだよ、ファイー」
ニミュエがファイの頬っぺたにだきついた。
ファイはわけがわからんと、照れた表情をする。
キュラが横やりを入れた。
「ファイ、お主、死ぬところだったんだぞ、みんな必死だ」
「そうか。ありがとな、みんな、それにニミュエ」
「えへへ、心配したよ」
ニミュエは笑顔でウィンクを飛ばし切り返した。
ファイは目線を少し遠くにいたウィードに向けた。
「ウィードさんもな、いや、エトワル帝国の皇太子さんよ」
「おい、隠しても無駄だ、全部、俺たちに話せ。あの妙な道化師のこともな」
「ヒョウの言ってる通りだ。力になってやれるやもしれん、話すんだな」
キュラとヒョウも疑心だったのか、食って掛かっていく。
ウィードは一瞬、唖然となった。だが、少し遠くに倒れた反動で落ちていたものをみつけそれは理解できた。
「……な、なぜ、(紋章盤が落ちてる? そうか)全て周知のようですね。判りました、全てお話しましょう」
ウィードが素直な顔でそういうと、キュラが切り出した。
怪我をしていた。疑わしい事情があるのは誰の目にも映っていた。
「みなよ、ここで話すのは民もいる。我らのアジトで話そうではないか」
「アジト? どこですか、それは?」
「近くにある。俺についてこい」
オネイロスがそういうと、みな一様の表情でアジトへ向かった。
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