第八十八話 狙われた皇太子
「ここまで来れば大丈夫ですよ」
ファイたちは、姫様を警護し、街の中心部から少し離れた場所に来ていた。
なんとか、素早いスピードで集まってきていた民衆から、姫様を放した。
イーミ姫様が額の汗を拭った。
「ふぅ、やっと振り切れたわね。ファイ判るでしょ、有名人もある意味、大変なのよ」
「ごもっともです。でも、それも姫様の人徳の良さですよ」
「フフ、そんなことないわよ」
ファイの言葉をきくと姫様は笑顔で切り返した。
イーミ姫様は隣で神妙に立ち忍んでいたレギンに気づき、感心の目を凝らした。
「でも、レギンさん凄いわね、走っててもそれだけの数落とさないんだから」
「姫様、俺だって落としてないですよ」
「俺もだ」
「みなさん、箱持ちで競ってどうするんですか」
ヒョウとファイが競うように言ったのをきいて、急いでエリューが問うた。
そのときだった。ファイが足元をみると赤い血だまりがあちこちにあった。
「な、何だ、血だ?」
「誰か、殺されたのか?」
「みろ、あそこに、誰か血を流して倒れている」
ヒョウが指さす方向に、県のない鞘を背負った青年が倒れていた。
急いで、面子が駆け寄っていく。腹部を鋭利なもので一突きされており、そこから血が滴り落ちていた。どうやら、道端の血はこの人のものと窺われる。
「こいつは、さっきぶつかってきた奴?」
「怪我をしている。恐らく、なにかに追われていたんだな」
ヒョウが言うと、イーミ姫は呼吸と脈拍をみた。姫様はエリューに視線を寄せる。
「意識を失っているわね。まだ、息があるわ。傷を治してあげて、エリュー」
「ハイ、姫様」
すぐさま、エリューは魔法力を投じ、回復魔法を意識のない青年にかけた。
白い光りとともに、白い光りの竜が出でて、青年を包んでいく。
あっという間に傷口が塞がっていく。
そのとき、エリューが青年の胸元から零れ落ちているあるものにきづいた。
「姫様、こ、この紋章を象ってるものって、まさか?」
「?」
「これ、王家の紋章盤じゃない?」
姫様が突拍子もない声をあげた。どうやら、王族しか持つことができないという例の紋章盤らしいが。
その紋章は城の形をしていた。ソレイユ王国の王族の紋章盤とは違うようだが。
イーミ姫様が言葉を紡いだ。
「この光る城の紋章はエトワル帝国のものだわ」
「まさか?」
言葉を聞き、口を開け、キュラの表情が変わった。
テアフレナが考察したような面持ちでいった。
「ということは、エトワル帝国の皇族」
「この造りは本物ね。持つことを許されてるのは直系の王族のみ。恐らく間違いないわ」
イーミ姫様の言葉にみな耳を傾けた。誰しも、この領域にエトワル帝国のものがいるとは信じがたかったのだ。
ファイが怪訝な顔つきで、エリューに言った。
「どうだ、エリュー治りそうか?」
「ハイ、治りそうです。傷は深いですが、体力だけでも戻ったはずですよ」
エリューは手を休めることなく、青年に回復魔法をかけていく。
「嬢ちゃんの魔法は、相変わらず、すげぇな」
レギンがいったときだった。
BYU!
「あ、危ない」
「ッ!」
ファイがエリューを手で突き飛ばした。地面にはナイフが何丁も突き刺さっている。
一体誰が? しかし、モンスターらしきものはそこには確認できなかった。
「何奴!」
ヒョウが剣を急いで構えた。
「に、逃げろ」
青年が、目を掠めながら辛うじて聞き取れる声で言った。
「(魔法が効いたのね)貴方意識が」
姫様がいったそのときだった。
「な、何だ、こいつら、この異様な悪魔みたいな人形は?」
「地中から出てきやがった? 敵か」
悪魔のような人形が地中から出てきたと同時に一緒に物の怪が地より出でた。
「ゲヘへ、見つけたぞ、ウィード!」
まるで、悪魔だ。異様な出で立ちもそうだったが、ドロッとした声音で目をぎらつかせた。
ファイが剣を構え、啖呵を切った。
「貴様、何者だ! 姫様に危害を加えようとした以上、ただでは、済まさないぞ」
「ウィード? やっぱり、エトワルの皇太子の名前だわ」
姫様は青年の傍で守るように居座った。周りにテアフレナ、キュラ、レイティス、みんな姫様への攻撃
を防ぐように立ちはだかった。ニミュエはこわそうな顔でエリューの後ろ肩にとまっていた。
そのときだった。
「く、フォライーめ。お前たち、は、早く逃げろ。奴は魔族だ。普通の人間じゃ、だめだ」
ウィードが声を振り絞っていった。
だが、この言葉に怖じる面子ではなかった。
みな、一歩前に踏み込んで気合を示した。
「おおっと、そうときいちゃ、黙っていられねーな、な、坊主」
「あぁ、レギンのおっさん」
「(姫様?)あなた方は、一体?」
ファイたちの行動に、ウィードはきょとんとしていた。自分でも手に負えない相手だったからだ。
フォライーは笑い捨てた。哄笑がその場に響き渡った。
「グハハハハ、人間風情が何を言う。この悪魔道化師フォライー様が殺してくれるわ。そこに倒れてる王子のようにな、グハハ」
ヒョウが言った瞬間、ニヤリと不敵な笑みを見せ剣を構え直した。
「試してみるか? 俺たちはヤワじゃない」
「抜かしおって、我が戦うまでもないわ、いけ、悪魔人形どもよ。血祭りにしろ!」
一斉にデスファントムが身体を捻り、ファイたちに襲い掛かっていく。
それに対し、ファイが先陣を切って、斬りこんだ。
「おらぁ!」
GAKIN!
ファイの重いであろう斬撃をデスファントムはいとも簡単に躱してしまう。
何撃も剣筋を一閃させるが、見事に紙一重で躱されてしまう。
「なんだ、こいつら、軟体動物か? 幽霊か? 俺の攻撃を上手く躱しやがった」
フォライーはそれをみて不敵な笑みを見せる。
「ほぅ、人間にしてはできるな」
「自動小刀!」
「チィ、くねくねしやがって、目標が定まらない、フン」
ヒョウは左手のオートナイフを何丁も放ったが、いとも簡単にデスファントムは紙一重で躱してしまう。
ヒョウは悔しそうに舌打った。だが、その撃ったうちの何発かを地面に向けて放っていた。計算していたのだ、躱されることを。
「妙な身体だ、骨がねーのか、まるでゴムのように軽く身体が唸り、紙一重で躱しやがる」
「(三発当たれば、十分だ)よし、のった、紋章光、展開、アイスネット!」
なんと、ドラゴンの足をとめた、あの技だった。デスファントムの足元が氷の氷柱で凍り、動きを封じることに成功した。
ヒョウは計算したように動いた。
「透明状態解除」
同時に魔剣がヒョウの手元にあった。
これにフォライーは勘付いた。
「それは、魔装具! もしや、お前らは?」
「怪人、気づくのが遅かったな、凍れ」
「もらったぁ!」「おいやぁ!」
ZWOOON!
「な、何、凍っただと? その剣から発するものは魔闘気! それは魔剣アイスブレイカーか!」
一瞬のうちにデスファントムを凍らし、ヒョウとレギンが、身体を凍らせた状態で、三体血祭りにあげた。ボロボロと、地面にデスファントムの身体の破片が落ちていく。
フォライーは眼光を尖らせた。
☆☆
遅い時間帯でも早い時間帯でも読んでくださっている方ありがとうございます。
作者なんとなくわかります。
貴重な時間有難うございます。
長い目でお付き合いください。
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