B─2
「入隊を…お断ります。」
予想外の返答に、字史が面を食らった表情になった。
「そうですか。それならば止めはしません。私は緋雀さんの意志を尊重します。」
永美が気にしなくていいと優しい言葉をかける。
「おい緋雀!貴様何を言っている!」
字史が十刃の両肩を掴んで声を荒げた。
「すいません字史さん…。俺、ここに来るまでずっと考えていたんです。本当に俺は酒呑童子を倒せるのかって…。そうしたら心の中で復讐が恐怖に変わってしまって…今はあの時の光景を思い出すと…体が震えてしまうんです…」
そう告げる十刃の声に、もう戦意はほとんど残っていなかった。
「……っ!」
こうもハッキリと言われると、字史は何も言い返すことが出来なかった。
「諦めて下さい数希晴大佐。例えここで強制的に緋雀さんを狩人にしたとしても、無意味に命を落とすだけです。」
永美が字史を説得すると、字史はもう何も言わなくなり、十刃の両肩を離した。
「それでは緋雀さん、今回の話はなかったということで。弟様の分まで強く生きて下さいませ。」
永美が優しい言葉を送ると、十刃は永美に深々と頭を下げた後、元帥室を一人で後にした。
その後、十刃はスラム街へと戻った。
スラム街の者達は帰ってきた十刃を暖かく迎えた。
そして十刃は世界の希望に一切関わることなく、スラム街でその命尽きるまで暮らしたのであった。
ぽっかりと心に空いた穴は、生涯埋まることはなかったが。
ED3:消えた復讐心
〔Aへ戻る〕