G─2
(これは…マッチョに貰ったブラックコーヒーか。よく潰れてなかったな。)
十刃がポケットから取り出したのは、マッチョ男から貰ったブラックコーヒーの缶であった。酒呑童子に掴まれた際、奇跡的に潰れなかったようだ。
「おい赤髪、それブラックコーヒーか?」
字史が十刃の持つ缶の種類を確認する。
「えっ…あ、はい。」
まさか食いついてくるとは思わず、十刃が慌てて頷く。
「飲むか?それ。」
「あっ…いえ、俺ブラックは飲めないので…」
「ならば貰えるか?丁度喉が乾いているんだ。」
「それは…構いませんが。」
十刃からブラックコーヒーを受け取った字史は蓋を開け、グビグビと一気に飲み干した。
「ふぅ…やはりコーヒーはブラックに限る。」
ブラック派なんだ、十刃は満足気の顔をする字史を見つつ心の中で呟いた。
「さて、喉も潤ったところだ。さっさと終わらすか。」
字史が三叉槍を構えた瞬間、空気を読んで待ってくれていた餓鬼達が遂に迫ってきた。字史は餓鬼達が動いたと同時に地面を蹴り、真っ向から迎え撃った。
『字史VS餓鬼軍団』の戦闘の幕が切って落とされた。
戦闘開始から一分足らず、十刃は既に勝者が予想出来てしまった。
「……強い…」
思わず口から漏れてしまうほど、数希晴字史の強さは異常なものであった。加えて戦闘方法は三叉槍頼みのワンパターン戦法ではなく、データチップから具現化させた銃、爆弾、罠などを巧みに使用し、まるでエンターテイメントの如く餓鬼達を薙ぎ倒していく。某戦国無双ゲームに登場したならば、「天下無双のもののふなりぃぃぃ!」と叫んでも、誰も文句は言えないほどの一騎当千である。
十刃が字史の無双に夢中になっていると、一匹の餓鬼の接近に気が付かなかった。気が付いた時には、かなり接近を許してしまっていた。
「ギギャー!」
餓鬼は獣のような声を上げながら、己の鋭い爪で十刃に斬りかかった。
「くっ…!」
十刃は咄嗟にバックステップで回避するが、右腕に爪が擦ってしまい、切り傷から血が垂れる。
(なにか武器は…!)
十刃は右腕の傷を押さえながら周囲を見渡すが、武器になりそうな物は落ちていなかった。その時、餓鬼が再度攻撃を仕掛けてきた。十刃はギリギリで回避するが、バランスを崩して転倒してしまう。餓鬼はその瞬間を逃さず、追撃をしてきた。十刃が重傷を覚悟した時、一瞬で現れた字史が餓鬼の頭を拳銃で撃ち抜いた。餓鬼は即死し、ドサッと人形のように地面に倒れた。
「……はぁ〜…」
生き延べた安堵から十刃は大きく溜め息をつく。そんな十刃に、字史が液体の入った小さな瓶を渡した。
「回復薬だ。それを傷にかけておけ。それくらいならすぐ塞がるだろう。」
字史に言われ、十刃は素直に瓶の中の液体を傷口にかける。傷に沁みるがとても効いている感じがした。
傷の痛みに耐えつつ立ち上がり、先程まで字史が暴れていた方を見ると、餓鬼達が全滅しており、死屍累々の光景が広がっていた。
「す、すげぇ…」
「さて、酒の回収といくか。」
唖然としている十刃を置いて、字史は三叉槍をデータチップ化させてポーチに収納すると、瓢箪の酒が流れ落ちた場所へ移動する。十刃も慌てて字史の後を付いていく。
「あの、どうやって回収するんですか?もう酒は地面に染み込んでいるのでは…」
「世界の希望の技術力を舐めるな。」
そう言って字史が具現化させたのは、一本のスポイトであった。
「これは『ピンポイントスポイト』と言い、どれだけ複数の液体が混ざっていようと、特定の液体を抽出することが出来る。」
字史は説明しながら屈み、酒が流れた場所にスポイトを刺した。すると字史の目の前の空中にディスプレイが投影され、刺した場所に含まれている液体の種類が表示された。
「……よし、これだな。アルコール成分が入っている。」
字史はお目当ての液体を発見し、スポイトに酒のみを抽出した。
「よし、これで完了だ。」
字史は酒が入ったピンポイントスポイトをデータチップ化させると、ポーチの中に収納した。
「そう言えば赤髪、名を聞いていなかったな。」
字史が十刃の方に振り向く。
「緋雀…十刃です。」
「緋雀、酒呑童子への復讐心はまだ残っているか?」
「……はい。」
十刃は揺らぎなき赤い瞳で真っ直ぐ字史を見詰めつつ、ハッキリと答えた。
「ならばその復讐心、世界の希望として使わないか?」
「それは…どういう…?」
「緋雀十刃、世界の希望の狩人になる気はないか?」
字史が幻想怪物討伐組織へ十刃を勧誘した。
「俺が…狩人になって良いんですか?」
「お前の意志次第だ。」
十刃は瞼を閉じ、自分の心に問いかけた。しかし、既に答えはあった。
──酒呑童子を屠る。
瞼をゆっくりと、迷うなく告げた。
「俺…狩人になります!」
「……よく言った。歓迎しよう緋雀十刃。」
字史が右の口角を少し上げて笑った。
〔一話へ続く〕
「プロローグを読んでいただきありがとうございます!このまま1話も読んでいただけると嬉しいです!」
「この小説の物語を紡ぐのはあなたです!」




