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世界  作者:
-1st- / 夏の始まり
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目も覚める様な猛暑の中で

7月16日、もうすぐ終業式なんだっけ。日光が眩しい。

夏休みと言っても何もする気なんてないし去年とおそらく一緒だろうから

強いて言うなら暑苦しい暇な日々だろうか。

でも宿題やらなきゃ怒られるのは面倒でだらだらしていたい。のは僕だけでは無いはずだ。

当然、去年と同じく親友や幼馴染達と遊ぶくらいで。

ついさっきの喧嘩?のことを友達に謝る以外は何も変わらない。


そう思っていたんだ。

また嫌な、鬱陶しき、それでも楽しき日々が始まるんだ。

今日も変わらない。変わらなくていい。


☆☆☆


学校帰りだ、あれから電車を降りて駅を過ぎて何時もの帰り道を歩いていた。

駅には少し涼しくてずっと居たいとは思ったけど

駅員さんに迷惑だと思ったし電車待ってる人も少し居たから歩いている。

田んぼも街もそうだったけれどもやっぱり暑い。

街中でアイス食べてる小学生を羨ましいなと少しだけ思ったりもしたけど家帰れば食べれるし

財布なんてものは持ってきてない。

硝子や水というものは光を反射するから余計に暑く眩しく感じる。

そうして休みながらやっと家の付近まで来た

暑さに倒れそう、家入ったらしばらく昼寝してようかな…


家の門の屋根が向こうに見えている。時計みた限りではもう2時近いのに誰も歩いていない。

葉っぱも緑色になり風に揺らいでいる。

ここら辺は綺麗な紫陽花が咲いてたような気がする。

最近、舗装されたアスファルトに日光が光って眩しく感じる。

田んぼの水と同じ性質なのは厄介だった

いつも着ている学校指定のシャツは汗をかいていてとてもじゃないが濡れていて

家帰ったら風呂入りたい。なるべくぬるい温度がいいな

とりあえず、日陰に入りたい。

雨避け用の傘でも持ってくればよかったかな、日傘が必要な気がする。

天気予報では30度越えないとか言ってた割には嘘だと思う。

暑い日差しが照り付けている。頭が痛くなってくる。

これだから夏は嫌いなんだ。

僕は汗をかきながら家に向かっていた。

正直タオルでも欲しいよ。

もうすぐ家だからそしてちょうど自分の家の門がある。

僕は家の門まで日陰を求めて駆け出した。


自分の家の門に入った途端、突然真っ白な光に襲われた。

それと同時に何故か上から押しつぶされる様な感覚を覚えた。

押しつぶされているのに痛みは感じない。

両腕と両足が何かに摺れて多少擽ったく感じるような気がする。

僕は反射的に目を瞑る。

目を瞑っていて思った。車も通ってなければ眩しいほどの光源も存在しない。

この眩しくておかしな光、そして押しつぶされる感覚はなんなのか…


☆☆☆


目を開けて眩しさに目を擦る。

ずり落ちそうな服を内側から抑えて横に植えてある草木の間に隠れた。

背中に着いた草木を落とそうと手を上げるとなんか腕と一緒に糸も袖に付いていた。

背中が物凄く、くすぐったく感じる。頭が少しだけ軽くなった気がする。

そして少し目眩がする。夏風邪ではない。自身の体を見て気付く。

そもそも袖が脱げている時点でおかしいはずだ。

袖が脱げているということはサイズがあっていないということだ

透けるように綺麗な薄く水色がかった糸の束だった。

水色と言うよりは絵に書いたような空の色や水の色に近い。おかしい。

僕はその綺麗な色の糸の束を掬ってみる…掬ってなおも薄く白い布地が見えるくらいに透けている。

そのまま透明感のある薄水色の糸の束を軽く手で辿ってみる。

僕の制服の布地の中の手は僕の頭にたどり着いた。

そのまま軽く引っぱってみると髪を引っ張られているような痛みを感じる。

ということは…これは…僕の髪…?

え…?僕の髪はそこらの日本人によく見る真っ黒な色だったはずだ…おかしい。

なんでこんな変色してるの…?

こんな髪色は日本では見ないはず。そもそも現実ですら見たことがない。

流れる髪はサラサラしていて服の上からは感触なんてものは無く、見る限りでは上質の布を持っているような感じだった…

ソシャゲでならあるかもしれない。

ゲームに詳しい親友の推しとかいうあの幼女が1番近いかもしれない。やっぱりおかしい

下を見てみるとシャツの後ろで踵あたりまで綺麗な糸の束はまっすぐ伸びて揺らいでいる。

だいたい地面に付くギリギリくらいだった。

随分と長くて草が所々に付いている。

葉っぱは払い落とした。届きにくいとこもあったけど葉はあまり付いていないようですぐに地面に落ちていった。

気を取り直して少し痛みを感じる目を無理やり開いて自分の状況を確認する。

下を見た時になんか何時もよりも地面の距離がいつもよりもずっと近くに感じた。


なんか体が縮んでる気がする。気がするのではなく本当に縮んだと思う…

大体頭2個分くらいか、近くの植物は僕の胸あたりの大きさだった気がするからそうだと思う。

かなり持っていかれた…

上から押し潰される様な感覚はこれだったのだろうか…

ズボンは芝の上に落ちていて落ちたズボンの隙間からパンツが見えた

つまり今僕は下に何も履いていない…と?

袖が脱げている小さな手でパンツのあった場所を探ってみる…

何も感じられない、いや、制服にかぶさってるだけでまだわからない。

でも途轍もない違和感がするんだ。あるはずのものがあるべき場所に何も無いかのような…目を逸らしておきたい。


シャツは一気に足元の地面まで垂れ下がっていて僕の体を覆い隠している。

ぶかぶかしていて全くと言っていいほどサイズがあっていないような気がする。

試しに袖を内側から掴んで腕を動かしてみる。袖がはためく様な感覚が感じられた。

これ以上やったらもう片方の袖も落ちそうだった。

それは当然だった。けどもその当然を僕の目で認識したくはなかった。

あまりの暑さに脳が見せた幻覚だと思いたかった。


「な…なんで…」

僕の体の中に声変わりも程遠い小さな子供特有の飴玉を転がす様な、鈴の音の様な声が響いた

推測的に小学生入る前の子前後くらいの声だ。


自分の声に困惑しながら片手を僕の目の前に持ってくる。

そもそも胸のあたりまでシャツが外れていて持ってこれなかった

ギリギリで支えているようだった。


家の敷地内とはいえ実質の玄関に近い場所で裸に近い格好で…僕は何をやっているんだ…

なんでこんな目にあっているんだ…


もう1回目を閉じて開いて自分の状況を確認してみる。

きっとこれは蜃気楼。夏の暑さが脳に見せた幻覚でしかないんだと。

しかし、袖の長さも感覚も、脱げて落ちたズボンも

足元に敷かれている少し土の付いた真っ白なシャツもそして

後ろでくすぐったく揺らぐ透ける程に薄い空色の髪も何一つ変わっていなかった。

「うそだ…」と思った…幻だったらどれだけよかったことか…

変わっていて、元の姿に戻っていればよかったのに。


そもそもこれは誰の体で何処にいるんだ?

僕は周囲を見渡す。しかし人型も動物も僕の目に映ることは無い。

自分の家の敷地内だからそう簡単に見えるはずはないが近くにいるのかもという希望だった。

この体の持ち主さん、ここにこの体がありますよ?

手を上げるとシャツが落ちそうなのであげないけれど心の中で虚空に問いかける。

予想はしていたがなんの反応も帰ってこない。

風が吹いてシャツが肩から外れた。ずり落ちそうになったシャツを内側から片手で抑える。

あるはずのない希望に縋りたかっただけなのかもしれない。


自分の肌が見えない。けどもそのシャツですら振袖のように感じた。

ということはもう片方の腕も相当細い腕なのだろう。


推測的にいえば先程街中でアイス食べていたくらいの小学校低学年くらいか、そこら辺の前後くらいかもしれない。

家に向かって歩こうとしてみた。

足になにか引っかかった。そういえばズボンが落ちているんだっけ。

僕はその場にしゃがむとズボンを拾っ…えなかった。

このままだとシャツがずり落ちて体が晒されかねない。

1回しゃがんだままシャツのボタンを開ける。

恥ずかしいけれどズボンを拾うためにはこうするしかないしこうするしか片手があかない。

シャツのボタンを開けて結び直す。その際に自分の体が見えた。

ぷにぷにしたお腹とほんのりと赤いだけで何も無い胸。

…は見るのをやめた。流石にこの体が別の人のものだったら洒落にならない。

自分の体を見ているのに全く別のものを見ている感覚は不気味で怖い。僕は高校生だしきっとすぐに戻れた場合、警察に捕まりかねないから

ただ確定したことは僕の推測していた体よりもずっと、ずっと幼い子の体だったということだった。


「ぼくは…ぼく…」

消え入りそうな声で自分の意識を縛り付けるように呟く

今の僕にはそうすることしか出来なかった…

そうすることで精神を安定させることしか出来なかった…

心が針に刺されているように痛い…


僕はシャツをまとい無理やり羽織るようにして肩の上に軽く結んでボタンを締める。

袖から腕を抜いたからか自身の今の腕がしっかりと見えた。

真っ白い肌に覆われていて筋肉もなくぷにぷにとした皺の見える細枝のような腕だった。

どう見ても幼児とかそこらと言うくらいに細くそして何も出来なさそうなぷにぷにとした腕だった。

1回そのままたってみる。

これで大丈夫だった。シャツはマントみたいになっている。

以前は肩くらいまでしかなかった正門に植えられた植物は自分よりとても大きく感じた。

したはスースーするけども多分見えない。見えなければこれでいい。

そもそも家だから大丈夫だと思いたい。


しばらく、草木の日陰に隠れて涼んでいると家に入る桜が見えた。

どうやら僕の姿は隠しきれた様で桜は気付かずに家の鍵を開けるとそのまま入っていった。

僕と櫟と桜は家の合鍵を持っている。

桜の中学校もきっともうすぐ1学期の終業式なのだろう。

僕は反射的に桜を呼ぼうとして見た。

「しゃく…」

ふと声に出していた。

やっぱり鈴のなる幼女の声のような可愛らしい声だった。

自分の耳には聞きなれなくて可笑しい。

見た目はさっき見たとはいえ声までそうなっているとは思えない。

僕の声はさほど低くは無いけど高くもない中性的な声だったはず。

なんだ今の声は親友のまだ幼い、小学校にも入ってない妹の声よりも高く感じられていて

たどたどしくて、上手に発音されていなかった。


僕は…僕の体は一体どうしてしまったんだろうか…?


☆☆☆


家の中から"お兄ちゃーん"とかいう桜の声が聞こえる。

"あれ?まだ来てないのかな?"


僕の体はかなり縮んだように思える。

20cm以上かな、それ以上に縮んでいる。そして最も問題なのはおそらく元の面影がないことだ。

唯一の根拠は自身のサイズにあっていない制服のシャツくらいだろうから。

これじゃ近所の小学校に通う程度の小さな子にしか見られないよ

間違っても以前の僕には絶対に見られない。


僕は男の子だったはずなのに、これじゃ妹に笑われる。

笑われるだけならまだいい方で

最悪、僕だと認識してくれないかもしれない。

つまりは家から追い出される可能性がある。どうやって生きていこう。


『ふーくんは女の子の気持ちをわかってないんだね…』

さっき水葉に言われた一文が頭に過ぎった。

これは罰なのかな…

眩い太陽が僕を嘲笑しているような気がして…


泣きそうになってきた。変わってしまった小さな手に透明な滴が滴り落ちる。

泣いちゃダメだ、これくらいで…僕は高校生なんだ…

そう思っていながらも目から滴り落ちる雫は止まってくれない


「ふぇ…」


泣きそうでいて弱く霞んだ幼女のような声が自分の体の中によく響いた。

その場でシャツごと顔を覆って目を抑える…

茨の道を歩いているような痛みと今にも押し潰されそうなとても嫌な感覚だ。

でも無事に家に入らなきゃいけないんだ。


僕がいなくなったら櫟も桜も心配するから

きっと、多分、心配する…よね?

桜は元からお兄ちゃんっ子だから…でも僕がいなくても櫟がいるし…

こんな僕でも僕だと分かってくれるかな、元の原型なんてないけれど

分かってくれるといいな…

わかってもらえないなら…僕はどうすればいいんだろう…

どうしようもできない。

住む家もなくなるかもしれない。

親友の家、幼馴染の家…には行けないよね…厄介だよね…

そもそもここからは遠い…

得体の知れない恐怖に襲われながら

得体の知れない痛みに襲われながら

僕は誰だ…と思いその場で青く澄んだ雲一つない猛暑を仰ぐ晴れた空を見た。

快晴の空は何も変わらなくて…

それでも全く気は楽になってくれなかった…


僕の夏休みの始まりは、異常を目に残酷に始まった。

とても残酷に。

今日、僕は、僕じゃない、幼女になってしまった…

ごめんね、親友達、友達、もう2度と会えないかもしれない…


嘘だ、嘘だと思いたかった。そんな現象は現実的に有り得ないと

変わり果てた幼い少女の声でたどたどしく呟いた。

「ぼ、ぼくは、おんなのこに、なって、しまった。」

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