威嚇
ゆさゆさと揺らされるような感覚に目が覚める。
そういえば寝ていたんだっけ…
「ん、起きた…?おはよ。」
目を開ける。僕の肩を持っている目の前の少女と目が合った。
何時も起きれば目が合ってばかりで…
意識してみれば恥ずかしい。ビクッと体が跳ねる。もしかして僕の寝顔を見られた…?
もしかして僕の赤面も見られた…?
「狐ちゃん…じゃなくて来睦ちゃん…」
ティーナさんは呆れたように僕を見据える。わかってるよ呆れられる理由だって。
「そんなところで倒れ込んで寝ていると敵に襲われても文句言えない…」
確かに一理ある…けど、この体も悪いし最もして欲しかったのはあの険しき道を振り切ったことを褒めて欲しかった…
僕だって頑張った、逃げるために生き残ることを最善策にするために。
その結果がこれだよ。
「来睦ちゃんはまだ幼いから体力がないのかもしれないけれども…」
その通りだけど以前はぼくだってそんなに体力が少ない訳じゃなかったんだよ。
それにたまちゃんだっていない対策を持っていないから逃げるしかできない。
「こわかった」
異常な不安感とティーナさんを見ていると思い出してしまうんだ。僕とあの子と昔のことを…
震える手で僕はティーナさんから離れようとする。
「来睦ちゃん。」
突然名前を呼ばれて体がはねた。
「怖かったんだ。なら怖がらないようにしないと」
怖がらないようになれることがどれだけ難しいことかティーナさんはわかってない。
「てぃーなさんは…」
「って…こんな入りたての小学生みたいな小さな子に言えることじゃないよね…」
どうやらティーナさんは僕のことを小学生と思っているようで…
入りたての小学生…改めて突き付けられると心に刺さる…
ティーナさんだって桜よりも幼く見える。おそらく中学生くらいかと思える。
「ごめんね…」
そう言いながらティーナさんは僕の頭を撫でてきた
「ごめんなさい…」
僕は弱いのだろうきっと。守られてばかりだ。たまちゃんのように強くなれたら。
桜のように、櫟のように、そして親友2人…
思えば自分より強い人ばかりが集っていくんだ…
僕は誰かを守ることが出来るだろうか…
きっとその時も見殺しにしてしまうんだと思う…
「たまちゃんはどこにいったの?」
僕はティーナさんに問いかける。周囲を見てもティーナさんと僕しかいない。
話しかけた後で分岐点で別れた記憶が蘇る。
そしてティーナさんが来たということはここがあの分岐点の終結点なのかもしれない。
「そういえば来てないね」
ティーナさんも辺りを見渡して呟く。
「ちゃっとおくってみる?」
「送ってみて、反応すると思うから。」
僕はティーナさんの意見を聞くとパーティチャットを開き文章を打ち込んだ。
『たまちゃん…?』
『いそがそ』
どうやら忙しいようで打ち切れなかったみたいな文章を返された…
「忙しいみたいだね、戦闘中かな…?」
ティーナさんは武器を傾げながらも僕に聞いてくる
って僕は見知らぬ女の子と2人きりなんだ…
たまちゃんだって慣れていないのに
ティーナさんを横目で見る…隠しきれない手で顔を隠した。
そのまま、僕はその場所に蹲った。
「大丈夫?怖かった?」
ティーナさんはさっきのことを気にしているようで僕はチャットを打って返す。
『なんでもない…』
「そう」
『あるじ、心配なのじゃ』
たまちゃんまでチャットの文章に反応してきた。
そういえばパーティチャットだった…
このあとたまちゃん帰ってくるまで沈黙だった。
☆☆☆
「あるじと何があったのじゃ?」
「い…いや、なんでもないよ」
「たまちゃん、なんでもないんだよ」
たまちゃんは勘違いしているようで。実際起こしてもらった以外は何も無い。
たまちゃんはティーナさんを指さして言った
「あるじに傷付けたら私は汝を許さないからな。」
その目は真剣だった。猛獣のような、獲物を狙うような瞳孔で犬歯をちらつかせる。
完全に威嚇しているように見える。
ティーナさんはたまちゃんに怯えて震えた声で返事を返した。
「ひゃ、ひゃい…」
怯え切って泣いているようにも見える。目が潤んでいる気がする。
ティーナさんは僕に抱き着いてきた。
体の震えが直に伝わってくる。
「うぅ…たまちゃん怖い…来睦ちゃん…助けて…」
たまちゃんは僕を見据え殺気を飛ばしてきた…
これは怖い…刃物なんて生易しいものじゃない。戦争の渦中に立たされているような殺気だった。
たまちゃんは絶対怒らせてはいけない分類だと改めて理解した。
「たまちゃん…やめて…」
しばらく猛獣のような瞳孔から何時もの穏やかな瞳孔に戻った。それと同時に殺気も消えた。
「あるじ、大丈夫なのじゃ。」
たまちゃんは僕に近付き、撫で撫でしてきた。
擽ったさにも慣れてきた。
僕はこっちの純粋な方のたまちゃんが好きだ。
そういえばたまちゃんはあっちの法で人間を殺傷できないからティーナさんは大丈夫なんじゃないかなという事情を思い出した。
人間と妖怪に何があったのかわからないけども…
できるだけ仲良くして欲しいなと願う。
自身に関しての謎は深まるばかりでたまちゃんが
こんなに慕ってくれているのも裏がありそうな気がして少しだけ怖くなってきた。
この純粋さを見ていると裏はなさそうだけれども"狐は化ける妖怪の代名詞"
このたまちゃんの性格が化けていて欲しくないと僕は願うしかなかった。
「あっちも同じような道だったのじゃ。」
たまちゃんは向こうの方を指さして報告する。
「てきは?」
「あるじが敵である小さな鹿に飛ばされているところなら見たのじゃ」
言っちゃったよ。それは言っちゃだめだよ。
僕はティーナさんの方を見る。ティーナさんはしゃがんでいて手を握りギチギチと音を立てている。
「私の狐ちゃん私の狐ちゃん私の狐ちゃん…」
なんか凄まじく怖い…呪いでもかけてきそうなくらいに怖い。
さっきのたまちゃんには劣るけれども…
殺気に及んだらおそらく人を辞めている存在くらいだろうと推測できる。
たまちゃんは人間ではないし妖怪でそれも長い歴史を生きていると予想できる。ティーナさんはおそらくこの事を知らない。
多分話しても信用されないのだろう。そんな不可思議的な話があるかと。
確かに言われてみれば不可思議的だけど僕はなった上に見たから信じるしか道がなくなったんだよ。
「たまちゃん、きつねにのろいは?」
「失敬な、呪いを操れる者もいるのじゃ。私も無論。効かないのじゃ。」
妖怪には呪いを操れるものがいるらしい。
私も無論ってことはたまちゃんは呪いも操れる…?
「いくら頑張っても、手加減されていても、あるじには1回も勝てたことは無かったのじゃ…」
たまちゃんは昔を思い出すような目で僕を見据えて呟く。
あるじってことは先代の僕のことなのだろう。
先代の僕はたまちゃんよりもどれだけ強かったのだろうか…
今は気にしていてもわからない。
僕はさっきから呪詛のように僕の二つ名を唱えているティーナさんに軽くデコピンをする。
「いたっ、何するん…ごめんなさい…」
ティーナさんは僕を見るなり覚めたようで謝ってきた。
「いや、なんでもないんです。ちょっと気が暴走したというか…なんというか…」
そして誤魔化すように言い訳を呟き始めた。
この言い訳はたまちゃんがティーナさん頭を軽く叩くまで続いた。
「で向こうの道は…渦巻いてますね」
確かに渦巻いているようには見える気がする。
なんか面倒そうな道だった。
真ん中に三角形の白い壁…?あれ?…階段じゃない?
一瞬壁かと思ったけど三角形じゃ壁の役割は果たせない。きっと階段なのかもしれない。




