第149話 朧気な
僕は現実から目を背けるように自分は本当に弱い存在だと思いながら再び目を瞑った。
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しばらくしてゆすられる感覚がする。誰かに抱かれているような…昔を思い出す感覚…
朧気ながらも僕は目を見開く…視界に上手く映らない…と言うよりもピントがあっていない…僕は小さな手で探るように何かを触る…
「お姉ちゃん、どうしたの?うなされてたよ?」
そんな言葉が上から聞こえた。おそらくは桜なのだろう。
そして僕はうなされていたらしい。どんな夢を見ていたのか薄らと覚えているけれど…悪夢だった。怖かったから…
僕は首を傾げる。桜は僕をベッドに下ろした。
洗ったばかりのようなふかふかした感触が片手を包む。
桜も僕の隣に座った。
「夢なんて朧気なものだから気にしなくてもいいんだよ?」
確かにそうかもしれない。記憶の断片らしいし実際起こることでもない。
起こるとするならばそれは未来予知で僕には多分未来予知なんて能力は備わってない。
誰かが殺される夢だった。僕の目の前で。経過は覚えていないけれど。
「きにしなくてもいい…きにしなくてもいい…」
僕は自己暗示するように悪夢から逃げる。
「そもそもお姉ちゃんのこの姿は原因なんてわからないわけだし原因わかるまで気にしなくてもいいんじゃない?」
確かに異能どころか原因すら把握していないし自分の中に自分じゃない何かが…異物が居座っている気がして気持ちが悪い。
けれども桜の言うことは対処法を投げ捨てろという事ではないのか?
「さくらはなにをかんがえてるの?ぼくだってこのじょうきょうからはやくにげたいんだよ!」
しかし僕の口から出たのは桜の意見に対する糾弾だった。
僕はこんなこと伝えたい訳じゃないのに。
「お姉ちゃん、私だってお姉ちゃんを元に戻したいよ。でも何も出来ない。」
言われる通り本当に僕も何も出来ない。少し動けばこのまま戻らない様な可能性もあるのかもしれない。僕はどうすればいいんだよ。
これじゃずっと家の中だ。人から隠れて生きていかなければいけない。
「さくらにはぼくのきもちなんてわからないくせに!」
なんでかな…
「お姉ちゃんの気持ちなんてわからないよ!なった本人じゃないから!でも、それでも協力することは出来る。」
「きょうりょくしたってなにもすすまない。」
「約立たずでごめんね。お姉ちゃん。」
啜り泣く声が聞こえた。何も言わず桜はその場を立って階段を降りていった。
僕はなんて最低なんだろうか、1番役に立ってないのは他でもない僕じゃないか。
…自分が嫌になってくる。嫌いになってくる。
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しばらく桜のベッドの上で考える。
確かに僕は桜の意見を非意図的にとはいえ糾弾したけど桜は僕のために言ってくれたことで
桜はずっと味方で居るとは言ってたけど突き放したのは僕じゃないか
本当に何がしたいんだよ…僕は…
しばらく考えて出た結果は今のことを忘れようという思考だった。
僕は腕に付けたVRリングを押して目を瞑ろうとした。
けどたまちゃんはいない訳で…僕1人でログインしたら多分騒ぎになるだろうし…
初回のログインではあんな目にあった…もう2度とあんあに目立ちたくはない…
何処に行ったんだろう…なちゅにフレンド召喚機能なんてそんなものはないし…あったら便利なのに…
そもそも島はかなり広域らしいから1度見失ったら見付けられない可能性も非常に高い。
リスポーン時とかどうするんだろう。桜は島の初期位置にリスポーンするとか言ってたけど…
聞いてみるにも僕があんなこと言ったせいで桜はに行っちゃったし
うあー、どうしよ…僕は桜に言われた通り本当になんも出来ない…
VRに潜ることも階段を降りることも外に出ることすらも以前できていたことが何も出来ない。
この忌々しい赤の他人と言いきれる小さな体では目を瞑るくらいしか…
しばらく眠っていたようだった。誰かに添い寝されているような気がする…されている…
目を開けて見てみる…
さらさらとした蜂蜜色の綺麗な金髪ともふもふした金毛の尻尾が目に移った。
見上げるとその象徴を持つ存在と目が合った。
「あるじ?どうしたのじゃ?」
何も言わずサラサラする蜂蜜色の綺麗な髪を掴んでみる。
さらさらしていて砂を触っているような感じだ。確かに金色もいいかもしれないけど注目されそう。
やっぱり1番いいのはこの国で最も目立たない黒色だ。
「あるじ、私の髪が羨ましいのじゃ?あるじの髪も光り輝く薄水色で綺麗なのじゃ」
確かに僕の髪色は白に水色の混じった空の色を薄めたような色をしている。
自分でも最初はとても綺麗だと思っていた。
元々、その髪はその色は僕の髪の色ではないんだけども。
たまちゃん、僕は僕であって僕じゃないんだ。そんな言葉を飲み込む…
僕はたまちゃんにさっきのことを打ち明ける。
「さくらとけんかした。」
「喧嘩…?」
たまちゃんは首を傾げる。喧嘩がなにかわかっていなさそう。
「でもあるじ。泣きながら寝てたのじゃ…?大丈夫なのじゃ?」
「たまちゃんまってたらねちゃったんだ。」
僕がそういうとたまちゃんは僕の頭をなでなでしてきた。
「ありがとなのじゃ。」
たまちゃんといるとなんか安心感を得られるような気がする。桜でも得られるけど桜とたまちゃんのはなんか少し違う気がするんだ。
僕は手に装着しているVRリングを起動させた。
「たまちゃん、あっちのせかいでまってるよ。」そう言って僕は目を閉じた。




