第109話 相違
「かえでちゃんが怖がってるのじゃ、頭領様、やめてあげるのじゃ」
「ごめんなさいです、私のことはたまちゃんでいいですよ。これからよろしくおねがいします。主様。」
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大妖怪なのに僕に神獣様って呼ぶのは意味がわからない。
そもそも僕という存在は数日前まではそこにいる桜や櫟と同じように人間という生物をやってきたつもりだ。
それが急に謎の光を浴びせられて光がやんで目を開いたらこんな姿になっていた。
だから僕は神獣ではない。目の前の玉藻様には申し訳ないけれど
抗議してみることにした。
「ぼくはしんじゅうさまなんてそんざいではない。」
「あれ?お姉ちゃん?」
「たしかに元々は人の子と言っていた気がするのじゃ」
「そっか、神獣様はまだ何も知らないのですね。いずれ知る時が来ます。」
反応は三者三様だった。桜は首を傾げる。僕は事実を言っただけで何もおかしいことを言ってない。
桜だって15年か14年、人間としての僕を見てきているはずだ。
櫟だってそうだ、同じ家で育ち同じ血で同じ様に育ってきた。
時には間違えられる時だってあった。
何もおかしいところなんてないはずなんだ、僕が変わった以外は。
「さくらはずっとひととしてのぼくをみてきたでしょ?」
「まあ、うん。お姉ちゃんはお兄ちゃんだったけども人間だったね。」
納得してくれたようだった。
そして卯月。卯月には最初に来た時に言っていた気がする。
というか言ったんじゃなくて心の中を読まれた。
もしかしてあれも妖力のなせる技のひとつなのかな?
妖怪って色んなことが出来て色々卑怯だと思うよ。
同じような能力使える僕も大概だけど。
☆☆☆
「お兄ちゃんだった?とはどういうことですか?神獣様。」
どうやら桜の言葉が玉藻様の耳に届いたようで
「けいごやめていいよ。」
「わかりました、お名前を教えてください。神獣様。」
「かえで」
僕は自分の名前を問われて本来の名前を名乗った。
椿とかいう名前も決められたけどそれは変化時の名前だから使わない。
相手は種族を束ねるくらいの大妖怪だ、誰でも知っている九尾の狐、玉藻の前だ。
変化とかを見破るくらい造作もなくやってのけそうな気がする。
そして僕は桜との会話の意味のヒントを与えた。
「そのままのいみだよ。ぼくはさくらとくぬぎのおにいちゃんだった。」
「まあそうだよな、楓兄は中身変わってないよ。」
櫟もそんなに変わってないと思いたいよ、ただ狼狽しているだけで。
「人の世では、確か性転換とか言ったのじゃ?」
性転換で合っている。妖怪の世ではなんて言うのか知らないけれども。
「妖怪には性別なんてないのじゃ。」
あれ?妖怪に性別がない?どういうこと?
「性別がない…?卯月は女の子じゃなかったの?」
桜が卯月に問いかけた。確かに卯月はそのまま見れば女の子と十人に十人答える見た目をしている。
「こっちこそ、そのままの意味なのじゃ。」
「かえでちゃん、私たち、妖怪という生物にはいくらでも化けれるし増えれるからそういう概念が存在しないの。」
いくらでも化けれるしいくらでも増えれる?
幻術の存在は知っている。幻を現にする能力だって卯月が言っていた。
だが増えるというのはわからない。なんか原理でもあるのだろうか
僕は首を傾げる。
「かえでちゃんはわかってないね、増えるのはね。妖力でいくらでも生み出せるんだよ。ほら、こういう風に。」
玉藻様は僕に説明して立ち上がると尻尾を空間に固定した。
「見ていて。」
そういった途端周りに風が吹き荒れる。それほど強風ではないけれど。
しばらくすると風は収まり尻尾もばらけた。
真ん中にたっていたのは青と白を基調とした巫女服を着ている金髪の…
卯月によく似た狐っ娘だった。妖怪なのだろう。
「かえでちゃん、こういう風に妖怪を生み出せたでしょ?」
確かに目の前できょろきょろしている可愛らしい狐っ娘はさっき出現した子だ。
☆☆☆
しばらくして玉藻さんが口を開く。
「貴方達は私たち妖怪の領域に入って何がしたいの?」
玉藻様は問いかける。おそらく櫟と桜に言った言葉なのだろう。僕も含まれるかな?
櫟はそんな玉藻様に慣れたのか何事もないように返答した。
「ん?ああ、明けない夜を明けてほしい。」
この夜は時が止まってはいないがずっとくらいままで明けることは無い。
きっと玉藻様なら解除できるのではないだろうか。そんな予想は虚しく外れることになる。
「幻術の事ね。私は既に解除してる。」
既に解除している。それでも夜が明けないということは時間帯的に夜なのか
それともあっち側の頭領が幻術張っているかの2択になる。
僕は懐から携帯端末を手に取ると電源を付ける。
現在は12時10分と真っ白な待受画面に表記された文字が見える。
真昼間である。夜というのはおかしい気がする。桜も僕の携帯を見たらしい。
「あっちが結界を張ってるっぽいので案内出来ますか?」
桜が玉藻様に問いかける。
「案内してもいい。建物の前に転移させた方が早いかな?」
建物の前に転移させる?あっちも居城とかなんとか建てているのかな?
双方司令塔を作って戦っているのならきっとタワーディフェンスみたいなことをやっているのだろうか。
僕は首を傾げる。妖怪がタワーディフェンスなんて文化を知っているかだ。
玉藻様に後でゲームをやらせてみようと思った。
☆☆☆
僕達は塔を降りて1回外に出る準備をする。そうしないと色々持ってきたものが失われる気がするからだ。
「外に出るの。」
玉藻様も降りてきた、卯月も一緒だった。水無月は来ていないようだった。
お留守番しているのかな?寂しそうだけど結構移動する時にすれ違った狐っ娘がいっぱいいたから寂しくないのかな?
僕らは今塔の前にいる。さっきと変わり映えしない塔の前だった。
櫟は自転車のそばにいる。しばらくすると玉藻様が指を鳴らした。
風景が剥がれ落ちるように変わっていく。これが転移?、にしてはおかしいような
目の前には大きな城があった。城と言うに相応しい建物があった。
周りを見てみる。崖のみで地面なんてなかった。高所恐怖症には地獄のような空間に感じる。
幸い、ここにいる櫟も桜もVR慣れしているのか慣れた様子で崖を見ている。
「すごい、お兄ちゃん、本当に浮いているよ。」
「桜、危ないけどまさかこっちの世界でこんな場所を見るとは、なちゅみたいだな。」
確かになちゅの浮き島の断崖絶壁みたいな感じに見える。
なちゅは浮き島によって環境は違うけど。だいたいこんな感じだったはずだ。
奈落に落ちれば1000ダメージを食らう断崖絶壁の島々。
「なちゅとは一体なんのこと?」
不思議に思ったらしい玉藻様が櫟に問いかける。
やっぱり妖怪の世界にゲームの概念がないように思えてくる。
「なちゅは俺らがやっている Natural and Float Continent っていうVRゲームの略称です。」
そういえば櫟もなちゅやってるんだっけ。いつか会えたらいいな。
というか、アルティマさんや桜が言ってたような気がする。黒騎士とかなんとかって。
「くろきし…?」
「楓兄、黒騎士とは誰だ?」
あれ?櫟は黒騎士では無いのかな?だとすると誰が黒騎士なんだろう。




