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第6章 手鏡 葵姫




夏の厳しい日差しが少し和らいで来た今日この頃。

俺は床に寝転がって亀と戯れていた。


「亀太郎は元気だなー」

≪声を掛けられ嬉しそうに頭を上げている亀太郎≫


亀太郎は山の泉にて甲羅が割れていて弱っていたところを見つけて保護した亀だ。手のひらよりわずかに大きい程度の大きさだったので家に運び入れて、甲羅の傷を布で巻いて塞いで応急処置をした。

現代ならば菌が入らないようにするのにいいものが沢山あるだろうがこの時代ではこれが精一杯だろう。


治療後に桶の中に簡易的な家を用意して中に入れてやると意外にも素直に大きめの石の上で眠り始めたので相当弱っていたらしい亀を俺は治るまではと面倒を見ていた。

前は亀と呼んでいたが、おゆきからちゃんと名前をつけなさいと怒られたので俺はその亀を亀太郎と名付けたのだった。


俺の畑の小松菜を好み、甲羅を指で撫でれば甘える亀太郎に俺はすっかり情が沸いてしまい甲羅が治った後も亀太郎をそのまま家に住まわせていた。

もちろん太郎とおゆきも亀太郎を可愛がっており亀太郎の家となっている桶の掃除や庭の散歩にまで付き合っていた。


「さて、亀太郎は家に戻して…あれの仕上げをしようか」

≪少し名残惜しげにしながらも言われた通り桶に向かう亀太郎≫

「こらこらちゃんと入れてやるから急いでいかなくてもいいぞ」


亀太郎を桶に戻し、俺はある小さなものの仕上げをする。

…これは女性が使うものだから花がいい。

どうせなら使う人に幸せになってほしい。

そんな願いを込めてこの花を装飾として刻んでみよう。



そんな作業をする俺を亀太郎は桶の中からじっと見ていたのであった。



****************


作品を作り終えた数日後、村長からある相談を受けたのだった。

それは作り終えた作品を贈り物としてある人物に渡したいというものだった。


「…鏡をか?」


そう、俺が作ったものは鏡だ。

手鏡で両手で持つ大きさではあるがコンパクト式の手鏡。立葵の装飾をあしらった手鏡は自分でいうのもなんだが何処か気品のある代物だ。


「隣の村の村長の娘なんだが…別嬪さんで働き者で気の利くいい娘なんだが気が弱くてなぁ、嫁ぎ先でもいじめられてるみたいなんだ…だからその鏡でも持って自信つけてもらいてぇんだよ」

「まぁ鏡は女が使うものだから贈り物にはいいな…どうせなら贈る用に箱も作って鏡をいれるか」

「すまんな宗助、まぁ急がんでええぞ」


いや、早めに贈ってそのまま使って貰おう。

女の身なりを整えるのに使えるだろうしな。



というわけで急遽の依頼だが木で箱を作る。

箱を作るなら拘って鏡と同じ立葵の花をあしらうのもいいな。渡すときに少しでも見栄えもよくしたほうがいいだろうし。


「宗ちゃん、あんまり無茶しちゃだめよ…また二日経つから」

「この鏡綺麗だな、でもまた飯を食べ忘れたら怒るぞ」

「…鏡は磨きが重要なんだぞ」


…鏡を作るには磨きの作業が必須だ。しかも青銅で作るとなるとその作業は夏にやるものではない。

現代では磨くのに最適なものは沢山あり子供の力でも短時間で作れるがこの時代では繊維の粗い布と研磨材なので時間がかかる。

そのため半日以上の時間を使い満足のいく鏡を作ったのだが、その時には飯を食べることを忘れたことと疲労困憊により磨き終えた直後に爆睡。

その後、様子を見に来た太郎により寝床に寝かされたが…翌日になっても目を覚まさず、太郎とおゆきは病気かと心配していたそうだが俺はその翌日の朝…つまり二日経ってから普通に起きたので大事にはならなかった。


「寿命が縮むから心配させないでくれ」

「もしまたあんなことになったら月ヶ原様をお呼びするわよ」

「それはやめてくれ、本当にやめてくれ」


義晴様は何故か最近俺を弟みたいに思っているのか分からないが健康まで口をだしてきたから疲れて一日中寝てたなんてしれたら確実に説教される。

それを二人もわかってるのかたまに飯を食べてないことを報告してるのを俺は知っているからな!!


「ややこしいことになるからやめてくれ」

「ややこしいこととはどんなことだ?」

「長い説教はいや…あ」


いるはずのない声と二人が俺の後ろに目線を向けていることからあの人が後ろにいることが分かる。

きっと三九郎さんもいるんだろうが義晴様の気配が分からない俺に忍者の気配なぞ分かるわけない。

そっと静かに後ろに下がっていく太郎とおゆきを見ながら夏なのにひんやりとしてきた背中に震えていると、肩が太く逞しい手にガシリと掴まれる。


「ほう…ながーい説教をされるようなことをしたんだな?なにしたんだー?例えば飯も抜くほどに鏡を磨いて、疲れて寝たら二日経ってたー…とか?」


肩をつかまれたままくるりと回されて正面で向かいあったその顔は笑顔だったが目が笑ってなかったし、額に青筋が見えた。

その顔に俺は血の気がひき、三九郎さんが俺の手から作業道具を取り、俺に向かい合掌したことで俺は確信する。


「(あ、俺終わった)」


このあと無茶苦茶説教された。








数時間後、正座から解放されたが日は沈んでいたため今日も義晴様はうちに泊まることとなった。ちなみに太郎とおゆきは既に村へ帰った。


「全く、作るのもいいが程々にといっただろう!お前はまだ若いが無茶はだめだ…ところで何か作ろうとしていたみたいだがもう何か作るのか?」

「アシガイタイ…いいえ実はあの鏡の嫁ぎ先が決まりまして、贈る用に箱を作っていたんです…」

「…誰かにやるのか?」


ん?なんか今、義晴様の目が細まって顔が怖かった気が…?

でも俺が見ているのに気付いたのかにっこりとした顔になった。…気のせいにしておこう。これ以上の正座は嫌だ。


「誰にやるんだ?」

「え、あ、隣村の村長の娘さんだそうです…気が弱いらしくて鏡で自信をつけてほしいって村長が贈りたいと」

「なるほどな(三九郎に目を向ける)」

「(頷くと外に出た)」


あれ、三九郎さんがどこかに…。

目で探していたら膝に亀太郎が乗ろうとしてきたので慌てて支えてやった。いつの間に脱走してたんだ。


「おぉ、あの亀が元気になったのか!甲羅が治ってよかったな」

「はい、元気に庭を歩いたりしてますがあの桶を気に入ってるのか出ていかず住んでいます…亀太郎と名前をつけました」

「そうかそうか!亀太郎は宗助を随分気に入ったんだな!」


カラカラと笑う義晴様に俺は亀太郎の頭を撫でながら箱の設計図を頭に思い浮かべていた。


****************


清条の国 常和(とこわ)の地。


そこそこ栄えたその土地の商家 花衣屋。着物や簪を主に売るこの店の次男坊の嫁になったのはある村の村長の娘だったお咲という娘であった。

次男坊である菊太郎は偶然買い物に来ていたお咲に一目ぼれをし、ある村の村長の娘と知るが次男坊であることやお咲が働き者で心優しい人物であったために自分が婿入りしてもいいという程お咲に惚れたこの菊太郎は彼女と婚姻を結ぶこととなった。


しかし、老舗というには年は古くもなければ新しくもないものの商家として成功しているこの店の家の女達は気性が少々荒く、プライドも高かった故に村長の娘というお咲が気に食わなかった。


お咲はふぅと一息つくが一息つくとまた手を動かして仕事をする。

嫁に嫁いだ家には意地悪な義姉と義妹がおり、義理の母は昼夜問わずいじめており、仕事や家事は全て押し付けていたがそれぞれの夫や兄には隠してやっていたのだ。

勿論小姓のもの達にも口を出さぬように言いつけ、黙らせた。


しかし、お咲は菊太郎を愛していたし隠れて店で働くもの達が優しくしてくれること、また彼女も女であることから綺麗な着物や装飾を見れることから楽しく仕事をしていたので気にしなかったのだが…ここ最近全く堪えていないお咲に嫁いびりがどんどんひどくなってきたのだ。


旦那にすぐバレることから暴力はうけていないが髪を引っ張ったり、食事に虫を入れたり、わざとお咲の服を汚したり等が増えた。

流石に楽しく仕事し、愛する旦那や優しい人といることが好きなお咲も少し嫌になるが…彼女は菊太郎のため、笑顔で送り出してくれた村の者や両親のためを考えると何も言えず我慢していた。

そもそもお咲には誰かに逆らったり、文句を言うほどの度胸はなく惚れられたとはいえ農村の娘だった自分が商家の人間に口を出せることなどない。


「大丈夫、私は、まだ大丈夫…」


いつか終わることを祈りながら日々を過ごしていたある日のことお咲の父親が彼女を訪ねてやってきた。

久々の親子の語らいだと菊太郎や義理の父親は気をきかせて部屋を用意し、沢山話しておいでとお咲を送り出す。


お咲は久々の父親に喜び、笑顔で日々が楽しいと語るが…お咲の父親は眉間に皺を寄せて彼女を抱きしめた。


「もういい、そんな嘘をいわんでも…」

「嘘なんて」

「ここの大旦那様から全て聞いた、よく頑張ったなぁお咲」

「え?」


先日、この家の小姓の一人がお咲の育った村にやってきてお咲のことを父親に話したのだ、またその小姓は義理の父親であるこの店の大旦那からの指示できたと告げ大旦那様が何もできないことを謝罪したという。

自分や息子は気づいていたが、お咲を守れば彼女達は激昂しなんとしても排除しようとお咲に手を出すだろう、それだけはさせないために小姓達に命じ、彼女達がすることに先回りして未然に防ごうとするも数が多すぎて完全に防げなかったのだという。

勿論旦那である菊太郎はすぐにでもお咲を連れて出ようとしたそうだが、義母は菊太郎を溺愛しているために彼女を殺せば戻るなどの危ない発想になりかねないと推測した大旦那により夜に共にいることでお咲を守っていたそうだ。


しかし彼女につらい思いをさせてしまっていることを、大事な娘を嫁に嫁がせてくれたのに守れなかったことを申し訳なく思いお咲の両親と村人達に謝罪の文を出したのだという。



「そんな大旦那様や菊太郎さんが…私、知らなかった…」

「…今日はこれをお前にあげるためにきたんだ、隣村の虎八須を覚えとるか?そいつに息子みたいなのがいるそうで色々作る職人らしい」

「あの虎のおじさま?」

「あぁ、虎八須がいうにはその息子の作るものには何かが起こるらしい、だからこれをお前が持っていればきっと何かが起こると…」


父親が持っていた風呂敷を開くと立葵が彫られた立派な箱があり、お咲に差し出す。

お咲はすぐに箱の作りと彫刻から高価なものと判断し、首を横に振るが父親はお咲の手を箱に乗せた。


「この中には鏡が入っている…きっと何かが変わる、儂もそう思うんだ…この鏡を見た瞬間にそう確信した」

「おとう…」

「お咲この鏡はお前を美しく写すじゃろう、自信を持ちなさい」





お咲は父親が帰った後に夫婦の部屋へ贈られたものを持って運ぶ、その際に高価そうな箱を持っていることに気づいた義妹が奪おうとするが…。

足を踏み出した瞬間に何かに足をすくわれるように転んでしまい大きな音を立てたことで店の者たちが集まり、大旦那である義父も来たことで強奪は失敗した。が、お咲はそんな騒動も知らず部屋に戻るのであった。




部屋に戻り障子を閉めたお咲は早速箱を開けて中身を手に取る。

両手で持つ大きさで立葵の装飾が美しいが鏡となる部分がない。仕掛けがあるのかと鏡を持ち上げれば鏡の下に紙があり開き方が書いてあるので見ながら開閉部分を押すと開いて鏡が現れたがそこには疲れた顔をした女の顔があった。


「まぁ…私、こんな顔してたなんて…おとうが心配するはずだわ…」

《随分と疲れた顔をしておるわ…こんな顔をしてたらいじめてくださいと言うておるものよなぁ》

「本当にそうよね…え?」


今自分は誰と会話をしていた?この部屋には自分だけで、外には人影もなければ気配らしき音もない。

お咲が辺りを見回しているとくすくすとした笑い声が響き渡る。


《お主の手の中を見よ、娘》

「え…な、なんで…」

《ふふふ、漸く気づいたなぁ》


手の中のもの、それはお咲が手にする鏡のみ。そっと視線を鏡に戻したお咲の目に映るのは楽し気にこちらを微笑み手を振る己の姿であった。

自分が写っているのに全く違う行動をしている鏡の自分にお咲は声をあげずに驚いた。


《初めましてご主人殿、わらわは鏡に映るもう一人のそなたじゃ》

「なんで話して…」


そう問いかけたお咲に鏡に映るもう一人の自分は胸をはり得意げに笑う。その顔は奇しくもお咲が今までしたことのない自信に満ちた表情で笑う姿であった。


《本来鏡は喋らぬのは勿論理解しておるぞ、しかしわらわは特別なのじゃ!さて早速じゃがご主人いやお咲!そなたは情けないと思わぬか!?》

「え、なにを」

《あんな見た目もそこまでよくない、中身は醜女の者どもにコケにされるのがじゃ!!お主ほどの美しいものがそのように痩せ、耐え忍ぶ姿をみるのはわらわは我慢ならん!お主の父上もこのことを知って悔しがっておったし、母上は泣いておったのじゃぞ!!》

「おとうとおかあが…!!」


顔を赤くして怒るもう一人の自分から知らされた事実にお咲は口に手を当てて必死に涙をこらえるが鏡の中のお咲は止まらない。

両親だけでなく村の者も心配していた、また自分が贈られた経緯に込められた願いも全て怒りとともに鏡の中のお咲は伝えたのであった。

全て聞いたお咲は拳を畳に叩きつけた、今までにない感情の高ぶりにお咲はどうすればいいのかわからず畳にぶつけたのである。


「私…全然そんなこと知らなかった…!!私が我慢すればなんて甘い考えで周りが傷ついてたなんて…!!」

《お咲、そなたの我慢は決して無駄ではない、それはお主が旦那殿や大旦那殿に迷惑をかけないようにした気遣いを二人だけでなくこの店の小姓達も知っていたから彼らも協力してくれたのじゃ…じゃからこそ今からが変わる時!あの醜女達よりも美しく、強くなるのじゃ!あんな陰湿なものに力で立ち向かうなど同じ貉のすること…だからこそそなたは》




《高貴な姫となれ、見た目だけでない中身も美しい高貴なものになり、周りに愚かなことをさせぬ存在になるのじゃ、何もしないで相手を怯えさせるくらいにな》




そう告げる鏡の中のお咲は力強い眼差しと勝気な笑みを浮かべているがどこか高貴な美しさと優しさが見えた、同じ自分とは思えぬほど強く美しかったその顔にお咲は見惚れたのであった。





その日からお咲は鏡を常に持ち、鏡の中のお咲に助言をもらいながら努力した。


《まずは形から!、姿勢を伸ばし話し方を変えるのじゃ…まずは語尾を柔らかくし相手が自分と思いながら話すのじゃ、それだけで印象が変わるぞ》

早速お咲は姿勢をよくして、話し方を少し変えた。

それだけで客からの評判がよくなり農村の者とは思えぬほど気品があると上客達が噂をする。


《次は健康と身だしなみに気を付けねばならぬ!疲れた顔などもってのほかじゃ!》

次に食事や髪に気をつかい、また流行や色使いなどを勉強し客に提案をする。

すると売り上げがどんどん上がっていった。

健康的な顔色と美しい髪は清潔感もあり、元々美しい顔であったお咲はその美貌を遺憾なく発揮して商品を勧めればそんな彼女に男女問わず好感を持ち商品を手に取った。

また彼女自身目利きは大変高く、お客によく似合う色等を見つけることから女性から支持され、彼女に相談をするためよく店を訪れるようになったのだ。



《どんな時も笑顔じゃ!心の余裕のある女は強いぞ!一手二手先を読み軍師となれ!》

これはお咲はよく分からなかったが、実は何を言われてもあまり気にしないようになり、いじめにあってもすぐさま対応できるようになっていったことで並大抵のことでは動揺をすることはなくなっていたのだが鏡の中のお咲の言うとり先に行動を予測するようにしたことでなんと義母と義姉妹達のいじめを完封出来るようになっていたのだ。これによりお咲は自信を付けていった。



こうして笑顔で苦を口にすることなく働くお咲は店一番の稼ぎ頭となり、花衣屋にとってなくてはならない存在となった。

この時代ではこのような女性は珍しく、また彼女自身の存在感や鍛えられた精神から出る気品と旦那との良好の仲、美しい見た目、仕事も上々…まさに出来る女となったお咲に義母と義姉妹だけでなく農村の娘と馬鹿にしていた者達は怖気づき手を出すことはなくなりました。


このことからお咲は常和の地にて一番の女という称号を得たのでした。

またこの成果に鏡の中のお咲は満足そうに笑うのであった。


****************

数日後の楚那村にて


久々に山から下りた俺は村長の家に行こうとしたが隣村の村長がやってきたらしいので行くのをやめておよだの夫妻の所で畑作業の手伝いしていたのだが太郎が走ってきて俺を突然担ぎ上げて、村長の家に運ばれることとなった。

村長の家には村長と知らない人、多分隣村の村長がいたのだが…隣村の村長は俺を見て村長に確認を取ると深々と頭を下げてきた。


「この度は大変お世話になりました!!」

「はい?」

「あー…前に鏡をやっただろう、そのお礼にきたらしい」

「あぁ、あの自信のないっていう娘さんの…?」

「そうです!宗助さんのおかげで娘は見違えて変わりました!今回そのお礼をしに参った次第です!」


頭を下げまくる隣村の村長の話が分からない俺に村長が経緯を説明してくれた。

で、村長曰く娘さんが鏡を使い始めてから見違えるように変わったそうだ。


変わったのは見た目だけでなく話し方や立ち姿に気品が出て、しかもとんでもなく仕事が出来て店一番どころかか住んでる常和という場所で一番の売り上げをたたき出した女商人になったらしい。


またそれだけでなくそんな働く姿に女達から憧れられてお姉様と呼ばれ、常和の男達はその娘さんのことを姐さんと呼んで慕うほどの人気を持ったらしくその中には武家のものやどうやら大きな商家の人もいるようでまさに現代でいうファンクラブを設立させる程の人気ぶり…これにより周りを味方につけた娘さんに手を出せなくなったどころか、領主の月ヶ原家(義晴様の従妹がお忍びでいらして娘さんをすごく気に入ったらしい)にまで認められた女に手を出すなんて出来る等なく大人しくなったらしい。それどころか娘さんにおびえているそうだ。 


ちなみに旦那さんはさらに娘さんに惚れ込んだそうな。仲がいいのはいいことだ。


「本当になんてお礼を言えばよいか!!」

「いや、俺はなにも…」

「娘はあの日から変わり見違えましたぞ!!本当に儂らの娘かと疑いたくなるほどに!!」

「いや、儂も驚いた…まさかあんなに変わるとは…」


そういえば一度村長は街に行ってたな。その時に見てきたのか…ってすごい顔してるぞ村長、そんなに変わってたのか。

しかし、聞く限り娘さんは俺の時代でいうバリバリのキャリアウーマンで出来る女になったってことだよな?気弱な娘さんが超有能なキャリアウーマンになり周りから尊敬されるまでになって姑問題解決なんてすごい話だ。


「鏡のおかげじゃないと思うがねぇ…」

「ならなんだっていうんだ?どうみてもお前の鏡で変わったぞ」

「鏡程度にそんな力はないだろ…多分娘さんの素質だと思うぞ」


鏡の力なんていうが俺はその娘さんの元々のものだろう。鏡を贈る前から働きもので向上心のある性格をしていたのだろうが…鏡を持ったことで見た目を気にしてそれが顕著になったのだと思う。

まぁ何はともあれ、鏡がきっかけで娘さんが変わったのなら俺としても贈ってよかったなぁ。


なんて思っている俺は村長がやはりわかってないとため息をはいたのに気付かなかった。




****************

一方そのころの月川城、義晴の部屋にて



「なるほど…そうなったのか」

「はい、花衣屋のお咲は今や別人になっています…やはりどうみても」

「宗助の鏡だなぁ、あいつは一人の女の人生も変えてしまうとは…とんでもないな」


義晴は今回の件について三九郎に調査をさせており、その結果を聞いていたのだが困ったような口調とは違いその顔は楽しくて仕方ないという顔で笑っていた。

宗助の作品がもたらした影響は予想よりも素晴らしい結果となったことに驚きながらも、宗助に感心をしていた。


「あいつにも協力をさせたが…まさかまさかの結果だ」

「突然の協力の依頼に驚きましたが…まさかその懇意にしてる作家の作品を確かめるために私を使うとは…呆れてものが言えませぬ」


突然の声に義晴は驚きも慌てもせず、声の主を三九郎に中へ入れさせる。

それは彼の従妹であり、今回件の鏡を持つ娘のいる店へわざわざお忍びをさせてまでいかせた小春姫であった。その顔は正に呆れたと物語っており、首をゆるく横に振った。


「なんだ小春か」

「…わざわざお忍びであなたの依頼を行ったのになんですかその返答は、まぁ私も今回のことでお気に入りの店を増やせましたので文句等は言いませんが」


ちらりと義晴の背後にかけられている刀 刃龍を見て目を細める。

義晴は姫の目線の先に気づきにやりと笑う。宗助が見れば悪魔の笑みと心の中で称する笑みを。


「いい刀だろ?」

「あなたがそこまで”もの”に対して執着するなんて初めてでしょう…この私まで使って調べたものは素晴らしかったかしら?」

「あぁ、予想以上にな…それに今回のことで少し考えも変えた、今までは己が所持することであいつの作品の価値を見出そうとしたが…あの鏡は恐らく俺では真価を発揮しなかっただろう…それでは宝の持ち腐れよ」


刃龍を手に取る義晴の目には刃龍の鍔にいる龍はじっと彼を見ながら笑っていた。まるで妹弟はお前の手には余ると嘲笑っているようでもあった。

そんな刃龍を指で弾きながら義晴はくっと笑う。


「全ての作品の所持はあきらめる、があれの作るものは影響がとんでもない…一人の女の人生だけですまなくなる可能性はある」

「大げさでは?そこまでの影響のあるものなど…いや、あなたがすでにそうですわね、影響力が大きいものは」

「きっととんでもないものがこのあと生まれる可能性がある、作品の所在だけでも把握しておくほうがいい…何よりあいつが作ったものがどれだけの常識をひっくり返すか…楽しみで仕方ない!!」


目をギラギラとさせて笑う義晴に三九郎と小春姫はブルリと震える。今までにないほどに楽し気に笑う彼に小春姫は冷や汗をかくが動揺をみせまいと拳を握り耐えた。何よりあの忍びである三九郎が顔を青くさせ小さく震え始めている。そんな家臣を守るべきだと姫としての使命感から小春姫は口を開く。


「…まるで悪童の権化みたいな笑顔ね」


なんとか出た小春姫の悪態に義晴は鼻で笑うが、悪魔の笑みを浮かべる彼は見落としをしていた。

すでにある根付が清条国外に出ていることと、宗助が自分の作品への評価が低いことに。それによりポンポンと誰かに作品をあげてしまうことになり彼へ何度も説教を行うこととなることを。



****************

京の都の帝の寝室。


そこには帝の地位を先代から頂いたばかりの帝 聖宋(せいそう)天皇が眠っていた。


その帝の夢は最近あまりよくないものばかり。それはこの京の都を黒いものが覆い民を苦しめるという夢ばかりでいつもうなされていた。

のだが今宵の夢は違った。



その夢はある家の中で座って木彫りをする男がおり、その男の傍に大きな亀が守るように座っていたのだ。

男は十五程の年で小柄な男。作業に真剣に取り組んでいるのか亀が見えていないようだ。

そして亀は男よりも大きく、なにより目に付くのが尾が蛇であったのだ。その亀と尾の蛇は楽しげに優しく彼の作業を見守っていた。


《そなた、一体だれぞ…?ここは、それにその亀は》


帝が声をかけると亀が彼を見た。

亀が目を細めた、その瞬間に帝は突風に吹かれその部屋から飛ばされてしまったのだった。




寝具から飛び起きた帝は己の部屋にいることを確認すると乱れている息を整えるように息を吐く。

そして夢の内容を整理した。


見たことのない家、見知らぬ男と傍にいた大きな亀のような生き物。

その生き物は何か作っている男を見守るように傍におり、自分はあの場所から追い出されたのだと理解した。


「はぁ、はぁ…今の夢は一体…あの男は、誰なのだ?」


月明り差す部屋の中で帝は一人言葉を零す。

その言葉は誰にも聞かれず夜の闇に消えていった。



********************************

Wiki 天野宗助 作品


名品 手鏡 葵姫

大手百貨店の花衣屋に代々伝わる鏡。

コンパクト型で立葵の装飾があしらわれている美しい手鏡。


写ったものがなるべき姿に変化させる鏡として有名で、数多くのものを変化させた逸話がある。

最初の持ち主であるお咲は仕事の出来る女へと変え栄光を与えたが彼女はそれに慢心せずいつまでも美しさもやる気も向上していった女傑になった。

またある時はある冴えない武士をエリート文官に育てあげ、またある時は小汚い子供を超人気の舞台役者へと変えたという。


写る姿は鏡故に代わるが口調はどこか偉そうな口調であったこととまた女子の姿を映すと高貴な姫君のように聞こえたことから名前に姫がつけられたという。


普段は花衣屋本店のエントランスに飾られている。

これは葵姫が与える変化の切っ掛けをほかの人にも分け与えたいというお咲の思いを受け継いだもので今も尚行われているのだという。


しかし、なぜかこの鏡がある場所から鏡や店の商品を盗もうとしたり悪さをしようとすると邪魔されてしまいすぐに捕まるため厄除けにもいいという評判もあったという。


また白百合の薙刀と並ぶと女の話し合う声が聞こえるという噂があるらしい。



出典

月ヶ原所蔵宝物書、天野宗助作銘品書 等


現在 大手百貨店の花衣屋にて所蔵並びに展示中


久々の投稿過ぎて色々機能とか忘れてヤバかったので、忘れないうちに執筆作業を行う予定なので早めに次回は投稿できると思います。

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[気になる点] 小姓は武士の職の一つです。商家なら丁稚が正しいです。 [一言] 引き込まれる物語だから、上記の件は余計に気になり、一言
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