第12章 星の刀(大太刀 流星宗助)
久々に主人公が出ます。
冬に入ったのか風が冷たくなってきた。
亀太郎がそろそろ冬眠するかもと思っているのだが…その予兆が全くなく今日も元気に桶から脱走し最近飛べるようになった鳥次郎を未だに甲羅に乗せて歩いている。
亀太郎の種類は冬眠のいらない亀…?と思ったが今は眠くないのかもと一応藁とか用意していつでも冬眠出来るように準備はしておく。
そんな中でようやくあの屏風が完成した。そうあの白い狼の屏風だ。
大きな岩からこちらを見る大きな白い狼を中央に描き、左右に群れとなる小さな狼を描いた屏風だ。
太郎にお願いし街にある店まで一緒に運んでほしいとお願いするとすぐに承諾をもらえたが今は少し忙しいらしく少し待ってほしいと言われたので今はまだ家にある。
それならばと今の間にと太郎の槍を作ることに集中したのだが使う素材に悩んでいた。
あいつの怪力に耐えられるとなるとやはり持ち手や刃の部分を大きくし分厚くしないといけない、が狩猟用にも使えるとなるとすこし大きすぎるかもしれないのだ。
「さてどうするか…ん?鳥次郎どうした?」
『ちゅん』
「そいつは…隕石で作った大太刀じゃ…そうか!隕石だ!あれなら丈夫だ!」
ちゅんちゅんと鳴いた鳥次郎があの大太刀の鞘に止まっているのを見てまだあの隕石が残っていることを思い出した俺はありがとなー!と指で撫でればうれしそうに鳴き胸を張る鳥次郎に感謝して鍛冶場の素材置き場走り、そこに置いている欠けた隕石を手に取った。
さぁ、あの長時間の金槌で叩いて隕石の中から石鉄を採取する作業の再来である。
「…太郎の槍をつくるためだ、頑張ろう」
数時間後へばっている俺がいて亀太郎と鳥次郎に心配されるようにひっつかれることとなる。
その翌日、続けて隕石から石鉄を取り出す作業をしていたのだが冬なのに汗だくでへばって休憩する俺を発見した義晴様は鍛冶場から慌てて居間に俺を担いでいき、何をしていたのかと笑顔だが目が笑ってない説教モードで俺に問いかけてきた。
俺は事情を話してなんとかわかってもらうが心配をかけた罰として拳骨をされた。
すごい痛い。
「全く…しかし、星を使うのか…」
「はい、あいつは馬鹿力なので普通のじゃあすぐに駄目にしてしまうんです」
「…確かにあの体格と相撲大会での戦いぶりからかなりの力だったからな、普通のでは折れるな」
「なので星の中にある鉄ならば丈夫であいつの怪力に耐えられるのではと」
理屈はわかったのかうんうんと頷く義晴様はちらりとあの大太刀を見てあれは駄目なのかと聞いてきた。
が前に自分は槍を使うから貰えないと言われて断られていると話せば惜しいなぁと残念そうにされた。
なんでだ?まぁあの大太刀が使えれば話が早くていいのだろうが…。
「ようやくあの刀の嫁ぎ先が決まると思ったのだがなぁ…」
「あ、そっちですか」
「俺は駄目だったからな、こいつの兄弟刀だし気にしているんだぞ」
確かに俺は以前欲しいと言った義晴様に持ち上げられなければやれないと伝えたのは覚えている。
飾ってもらうのは勿論大事にしてくれるならばいいのだが俺はどうせならば振り回してほしい。
勿論俺はそれで人を殺しまわれといっているわけではない、だが俺の刀で誰かを守るために振るってくれるならばそれは刀鍛冶として本望とは思っているのだ。
「怪力の人がいればいいんですけどね」
「こいつを持てるくらいだろう?それは相当な怪力男が必要だな…」
そんな人がいるんだろうかと思っている中で太郎の声と何だか慌ただしい足音が聞こえる。
義晴様も気づいたのかなんだ?と顔を外へ向けた時太郎が人を担いで上がってきた。
担がれた男はかなり大きいようだがなんだかぐったりしてる…?
「宗助行き倒れだ!!」
「なに!?居間なら広いからここに寝かせてくれ!!」
「わかった!!」
俺は太郎に寝れる部屋に寝かせるように指示すると男に怪我はあるか確認した。
少し傷はあるが熊や山賊に襲われたようではなく擦り傷があるのみなので俺特製の救急箱から保存しておいた殺菌作用と治癒効果のある薬草を潰して混ぜて傷口に塗り包帯代わりの布を当てて処置をする。
そこに男から腹の音が聞こえたのでどうやら生き倒れていたようだ。
起きたら何か食わせてやろう。まずは粥からだな。胃腸が弱っているかもしれないし。
「手際いいな」
「備えあればなんとやらです」
「嘘つくな、昔から何か作る時の素材探しに山の奥までいくので怪我が絶えなかったんです」
おいやめろ。
義晴様がほう?と笑ってるが目が怒り始めてるから。
「太郎、この人どこで見つけたんだ?」
「この家の道の途中の茂みの中にいたぞ、その時はまだ意識はあったんだが…」
「太郎に見つけられた時に限界を迎え力尽きたと…しかし大きい人だ、太郎と同じ位だな」
義晴様も同じ事を思ったのか確かに大きいなとこぼした後寝かせるのに邪魔だから外した倒れた人の刀を手に取って抜いたが…うわ、ぼろぼろというか途中から刃がないや。
この刃の折れ方から乱暴に扱ったんじゃなくてこれは刀が耐えられかったって感じだな。
俺の後ろから手元の刀だった物を覗いた義晴様はうげぇっと声を上げた。
「これはひどいな…よくここまで大きな傷もなく無事だったものだ」
「この刀の折れ方から長時間手入れされてないというよりも恐らく力に耐えられず、といった所でしょうか」
「みたいだな、確かに力の強い者は強すぎる力から刀を折ることあるからな…」
もうこれではこの刀は使えないのでこの人が起きたら一度から聞いて供養してやろうと思っていると太郎が今日は泊まっていくといきなり言った。
どうした急に。
「いきなりなんだ太郎」
「この人が起きたらお前の力で世話するのも大変だろうから」
「おい、俺を非力扱いするな」
「宗助、俺も賛成だ」
義晴様も俺を非力扱いするのか!
俺はこれでも力あるんだぞ!細マッチョなんだぞコラ!!
見ろよこの力瘤と腕をまくってやれば義晴様が違うわ戯けと頭を叩かれた。
「そういうことではない、もしこの男が悪人であった時太郎がそばにいればまだ対処出来るだろう」
「確かに太郎は熊より強いけども…」
「任せろ守ってやる」
「わぁ頼もしい…それにしても何処から来た人なんだろうか」
茶番は程々にして男に話を戻せば義晴様は家臣はともかく武士であるならばこんなに大きい男ならば噂になるが…と返した。
確かに太郎も周辺の村では大きい背丈の男と知られているし、義晴様ならば三九郎さん等からそんなに大きな武士がいれば噂話程度でも知らされている可能性はあるだろう。
それでも知らないということはこの人はこの国の人でないということだ。
「間者にしては大きいし生き倒れ等無様はしないとは思うが…」
「間者…であっても何故こんな所に来るのでしょうか…義晴様がよく来ている場所を調べてたとかならあり得そうですが…」
「(調べられるのはお前なんだがなぁ…)」
ん?なぜかやれやれ仕方ないみたいに溜息つかれて頭ガシガシされてるんだが何なんだ?
俺の推測が何か間違っていたのだろうか?
気にするなと言われるが少し解せぬと思っていれば男の意識が戻ったようで俺らはそちらに集中することにした。
「おい大丈夫か?」
「…こ、こは?」
「清条国の楚奈村の近くの山にある俺の家だ…あんた山中に倒れていたんだが覚えているか?」
男はうぅと少し唸ると思い出したのか頷いた。
どうやら思い出してきたらしい。
「あぁ、俺は山で迷い…道があったからそこから山を下りようとして…」
「そこで力尽き太郎に拾われた…ということか」
「そういえばお侍様は何ていう名前なんだ?」
申し訳ないと顔に出している男にそういえば名前を聞いてないと俺は先に聞いておこうと声をかけた。
男は起き上がり座りなおすとこちらに頭を下げた。
「助けて頂き有難う御座います。私は浪人をしている五反田 黄十郎と申します…生まれは会胡の地になります」
「会胡!?すげぇ雪国じゃねぇか!!」
「雪国…とても遠い所から来たんだなぁ…」
「そんな遠くから何故…」
この清条国は土地の場所は現代でいう奈良に近い場所になる、雪国からとなると近くても新潟からだろう。
しかし義晴様の反応からするとそれより北かもしれないな。
訳ありのようだと理由を聞けば五反田さんはしゅんと恥ずかしそうにして大きな体が小さくなったように見える。
「その三年前に武士だった我が家が墜ちまして両親は貧困に耐えられず亡くなり…俺は働ける地を探し転々として…しかしこの馬鹿力故に武器もまともに持てず職をきられるばかりでして…」
「その刀のボロさは長旅を表してたかぁ…」
「!、恥ずかしながら…手入れも出来ずにこの様です…」
五反田さんは就職活動で旅してたのか。現代でも若者が就活に苦労してるが戦国でも苦労するんだなぁ…。
何だか俺も物悲しい気持ちになる中で義晴様がもしやと声を上げた。
何か心辺りがあるらしい。
「会胡といえば今の領の内政が破綻していると聞く…もしやその影響により武家も取り潰されているのか…?」
「何故それを!?それはあまり知られていないはずだ!!」
五反田さんは貴様何者だ!!と警戒して戦う構えをするので俺と太郎で落ち着かせていると、義晴様が胸を張りドンと構えだした。
何をする気だ?
「俺は清条国 月ヶ原家次期当主 月ヶ原 義晴だ、次期領主の俺が他国の内政情報を知らぬと思うか」
「つき、がはら!?なんでこんな山の中に!?」
「こやつは俺のお気に入りの職人であり友人だ、いてもおかしいことはない」
いやおかしいぞ。普通若様はこんな所にいない、あいててててててててて!!!
考えてる事がバレたのかアイアンクローされてる!!やめて潰されるのは嫌だ!!
「あの月ヶ原様、その、ご友人が痛がっていますが…」
「気にするな宗助が碌な考えを「碌でもない考え」or「碌なことを考えてない」〜していた気がするから仕置きをしている」
「えぇっ…」
五反田さんがなんかマス〇さんみたいな声で戸惑ってる。
痛い痛いと痛がっていれば離してくれた後に軽く拳骨するように頭を押されて開放された。
太郎がよしよしと頭を撫でてくれるがまだ痛みがある。
とんでもない力でやりやがった!!すごく痛かったぞ!と唸れば鳥次郎が後方から義晴様へ奇襲をかけた。まるで鷹が獲物を取るように義晴様の後頭部を蹴ったのだ。
「いだっ、てめぇ!」
『ぴー!』
「義晴様、宗助をいじめたと思われてます…」
「あの鳥め!やはり只の鳥ではないじゃないか!!」
蹴った後すぐさま飛んで逃げ去る鳥次郎に義晴様は捕まえられず憤慨する。
俺はそれを見ていると足に違和感を感じ足を見れば亀太郎が傍に来ておりこちらを見上げていた。
俺が痛がっていたからか心配するように来た亀太郎は頭を膝に擦りつけている。
「ありがとうな、亀太郎」
「かわいいなぁ、鳥次郎も心配してるみたいだもんなぁ」
「いい子達だよ」
「おい、今そこの鳥が俺の頭を蹴った事を忘れるなよ」
鳥次郎がちゅん!と大きく鳴いて俺の肩まで飛んできた。
顔を覗き込む鳥次郎を亀太郎と共に撫でてやればどちらも身を捩らせて体や頭を擦り付けてくる、すごくかわいい。
「ふはっ、天下に一番近いあの月ヶ原家の次期当主が鳥にやられるか…!何だか少し力が抜けたよ」
「…ふん」
「すまない五反田さん、それより貴方は今はここで休んでいてくれ…すぐに粥を作ってくるよ」
「かたじけない…確か宗助殿だったな、俺の事は黄十郎と呼んでくれ」
穏やかに笑う黄十郎さんは何だかいい人な気がする。
俺はそう印象をつけながら粥の支度に蔵から急ぎ米を持ってくるため部屋を出たのであった。
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宗助の気配が遠くなるのを確認した義晴は口を開く。
「おい、宗助がいないうちに詳しく話せ…会胡の内政が上手くいかなくなったのは莫呑と戦をしてからだろう?」
「っ!?…元とはいえ家臣であった身だ、言えぬ」
「そうはいかん……あの国は少々きな臭いのでな」
「きな臭い…ですか?」
義晴は訝しむ太郎に頷いた。
本来農民である太郎に教えることではないがもしかしたら宗助の身に及ぶ事があるかもしれんという不安から教える事にしたのだ。
聞かれた黄十郎は少し居心地が悪そうにしたが義晴の問いに頷きを返した。
「莫呑は北の小国だったのだが…じわじわと北から降りるように土地を広げているのだがここ最近は勢力が急に強くなった、それに非道なこともするという」
「そうだ!!あの国は姫様を!!…姫様を人質に我が国に降伏を迫ったのだ、しかしっ!あの国は姫を谷底に突き落として…姫の着ていた羽織のみ返してきた!」
「なんだとっ!?会吾の姫といえば美しさと舞踊が評判であった炬宮姫でないか!…まさか三年前から話を聞かなかったがそんなことが…」
「ひ、姫様を人質!?それに谷底って…もう…」
恐らく炬宮姫は死んでいる。
何が起きてそうなったのかは分からない、しかし谷底に落ちたのならば助かることはそう無いだろう。
そしてどういう意図を持って羽織だけを返したかは分からないが返された羽織を見た親族の悲しみは計り知れない。
「姫を失った殿は完全に戦意を喪失してしまい…言われるがまま降伏、そして莫呑により国は統治されることになったのですが…」
「…莫呑は自分達の主要と思う土地以外ははっきり言って滅んでもいいと思っているのかかなりぞんざいに扱っている…恐らく会吾もそうだ」
「ひどいっ…!」
「…黄十郎殿、お前のいた国だけじゃねぇ、北の国がほとんどは」
義晴の言わんとしている事を理解したのか黄十郎は項垂れる。
膝に置き握られた拳は怒りによりきつく握られ、ぎりりと皮膚が擦れる音がしていた。
「あぁ、あの国は何を考えているのかわからない!!…しかし強すぎるのだ!まるで鬼を相手しているかのようにあの国の兵は強い!」
「そうだ、急に強くなった…それが何故なのかがわからない」
「強い武器を手に入れた…ですか?」
「それならその武器を壊せばいい、しかし武器ではなく兵自身がとてつもない強さと頑丈なんだ」
頭が痛い問題だと頭を抱える義晴に太郎はそんな国が宗助に目を付けてしまったら大変であるとすぐに理解した。
…それならばこの怪力も使い国を、村を守るべきなのかとふと考えるが自身の気の弱さでは難しいだろうとすぐに思い直した。自分は義晴達の、侍達の足手纏いになると。
この国は武士が多く、現当主である義虎が戦に手を貸してくれる民は大事であると足軽達の扱いが他所の国に比べれば優遇されているために若者や城下町近隣の村人が多く志願し、楚那村に来るまでに徴収される人数が足りる。
そのため太郎は今まで戦に出たことはなかったのだ。
そんな自分がいきなり戦場に出ても足が竦み動かないだろう。
しかし義晴は自分の力を買ってくれている。
その期待には応えたいし、何より宗助とおゆきを守りたい。
「俺にもっと、勇気があればなぁ…」
そこに足音が聞こえ三人は姿勢を正した。
宗助が帰ってきたと分かったからだ。
粥の入った小さな鍋を手に部屋に入った
「お待たせしました黄十郎さん、熱いので気をつけてくださいね」
「ありがとうございます宗助殿…」
「今は体を休ませないといけませんよ、それと元気になったらなんですが一つお願いがありまして…」
「恩人のあなたの願いです、叶えましょう」
合間も置かず了承する黄十郎にまだ言ってないんだけどなぁと苦笑する宗助は元気になってからでいいと言うが義晴が何をお願いする気なんだと聞いたため少し考えた後に宗助は答えた。
「あの大太刀を持ってほしいなと思って」
「…はい?」
「あーなるほどなー…」
何のことかさっぱり分からない黄十郎は首を傾げる。
それを見た太郎が宗助の作った刀に大太刀があること、そして宗助は大太刀を持てる人に渡したいと思っていることを教えた。
そこで漸く黄十郎は納得した。
力の強い自分ならば持てるのではと。
「持てるならば黄十郎さんの刀にしてください、うちに置いてても腐らせてしまうし」
「そんな助けて頂いた上に刀までも…!…大太刀を振るうのは初めてのことですから扱えるかはわかりませんが、貴方の頼みですその刀を持ってみましょう」
そう返す黄十郎に宗助が楽しみだなぁというのでならば早く元気にならねばなと温かい目で黄十郎は微笑んだ。
それを横目に見ながら太郎は大太刀の原材料を知るためにそう簡単に渡していいのか!?と一人戦慄し、義晴は確かに持てるならば資格はあるがそうほいほいと作品を渡すな馬鹿垂れと内心悪態をついていたとは宗助は知らなかった。
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あれから数日後、完全に回復した黄十郎さんは元気になって早々にあの刀を持つというので居間にある大太刀を見てもらう。
まず手に取るがぐらりともせず難なく持っていた。見た感じ大丈夫そうな気がする。
「この重量、今までの刀より手にしっくりとくる重さだ」
「ということは黄十郎さんは太刀より大太刀の方が体格的に合ってるってことなんだな」
「そのようですな、では庭で試しに振らせてもらいます」
庭に出た黄十郎さんに俺と太郎は離れた所で見学する。
鞘を抜き、その鞘を丁寧に縁側に置いた黄十郎さんはまた少し離れると大きく振りかぶり、刀を振り下ろした。
おぉっ!ぶんぶんといい音が鳴ってる!縦だけでなく横にも振る黄十郎さんに俺は問題ないかもと思っていれば黄十郎さんは興奮したように大太刀を持ったまま俺へ走ってきた。
「宗助殿!この刀は素晴らしいですな!!」
「気に入りましたか?」
「あぁ!大太刀は初めて振るうのにまるで己の手のように動く!…それにこの刀は不思議ですなぁ」
「不思議?」
黄十郎さんは日の光を当てて刃を見ている。
もしかして隕石が入ったことでキラキラしてるのが気に入ったのか?
「なんといえばいいのでしょうか、まるで師に教わっているかのように感じたのです…こう腕を動かせばいいと」
「きっと大太刀が黄十郎さんに合ってるんでしょうね、だから自然と動いたのかもしれませんよ」
「そうなの、でしょうか?」
なんか不思議そうな顔してるが…まぁ嫁ぎ先が決まったみたいでよかった。
それに黄十郎さんも刀が持てたし…後は就職先だがこれは黄十郎さんに頑張って貰わないとな。
その翌日にいつまでも世話になる訳にはいかないという黄十郎さんを見送るため村の外れまで出た俺達に黄十郎さんは深々と頭を下げた。
「本当にお世話になりました、しかもこんな素晴らしい刀まで…」
「気にしないでくださいよ、そいつも漸く振るえる人に会えたのだから」
「何からにまでかたじけない!…もし仕える地が決まりましたら必ずお礼に参ります」
気にしなくていいのになぁと返せば恩は返さねばといわれてしまった。
おゆきが旅の無事を祈り火打ちをカチカチと切ればまた深々と頭を下げる黄十郎さん。
「またお会いましょう」
「!、えぇ!必ず!…この恩は忘れませぬ!」
俺が握手を求めて手を出せば黄十郎さんはパチクリと目を瞬かせた。しまった握手の文化は南蛮から来たものだったな…。
俺はそれに気づいて手を下げようとすると黄十郎さんは両手で俺の手を包む。
「宗助殿、この大太刀のお礼も必ずや返しますぞ」
「…本当に気にしなくていいのに」
「そうはいきませぬ…ではまた必ず参ります」
黄十郎さんはそう言って歩いて行った。
いい所に職が決まればいいな。そう願いながら姿が小さくなるまでは見ようと立っていれば急に黄十郎さんがこちらへ走ってくる。一体どうしたと思ってたら近くから何やらガサガサと音がする。
「なんだこの音?誰かくるのか?」
「…何かくる?」
「…!、二人共すぐにここから離れるぞ!」
太郎がおゆきを担ぎ俺を抱えようと手を伸ばしているのを見た時に黒色の毛をした熊が太郎とは違う方向からきていることに気づいた。
すごく大きな熊だ。目も血走っていてヤバイ。
「おゆきを守れ!!」
「駄目だ宗助!!背を見せるな!!」
俺はすぐに太郎から距離をとり、逃げる。背を向けてはいけないのは知っている。
しかしおゆきを抱える太郎から気をこちらに向けるには追いかけさせないといけない。
ならば今身軽な俺がその役目をしないといけない。
「早く逃げろ太郎!」
「いやよ!宗助ちゃんも一緒じゃなきゃ駄目よ!!」
俺は近くの木に向かい走り駆け登るが熊が追うように木の幹に爪をかけた。
来る。登ろうとしている。熊の目は獲物を見る目だ。
それを頭で理解した時俺は初めこの時代で死の恐怖を感じた。しかし思い出した。
俺の前の死はどんなものであったのかを。
「あぁ、そういえば…」
俺の死は痛みはあまりなく穏やかなものだったな。
そんなことを考えていれば黄十郎さんが戻ってきた。
戻ってきたのは熊に気づいて来てくれたからなんだな。
「宗助殿ぉぉぉぉぉぉぉ!!!」
大太刀の鞘を後ろに投げ、振りかぶったと思ったら黄十郎さんの手から光が振り下ろされた。
刀に使った星の粒子なのだろうか昼間なのに流れ星が流れたように銀色の光が熊の体を二つに分けた。
まさに一刀両断だった。はっきり言おうすげぇもんみた。
「すっげぇ…」
「はぁ…はぁ…っ!宗助殿ぉ!ご無事か!!」
「黄十郎さんすげぇ!すっごくカッコイイ!!」
「か、格好いい…ですか、それより怪我はないか?」
ない!と元気に答えれば黄十郎さんはよかったぁと尻もちつくように地面に腰を下ろした。
俺が木から降りるおゆきと太郎が泣きながら俺を抱きしめてくる。太郎、少し苦しい。
「お前ぇ!!お前なぁ!!」
「馬鹿ぁ!!宗助ちゃんの馬鹿ぁ…!!」
「悪いお前達逃がさねぇとと思って…」
「無事でよかったぁ…!」
騒ぎに気付いた村の者達がやってきて俺達と近くに転がる二つに分かれた熊を見て驚きと恐怖で叫ぶ。
村長はすぐに事態を察したのか無事か!怪我は!?と俺を確認した。
大丈夫だ、怪我もない。
「黄十郎さんのおかげで怪我はないぞ」
「なんじゃと、黄十郎殿!村の子達を救って頂きなんと礼を言えばいいか…!」
「いえ、そんな!俺ではなくこの大太刀のおかげです…すごいな熊をあんなに綺麗に斬ったのに刃こぼれ一つもないどころか曇りもない…すごい刀を頂いたな」
「黄十郎さんの腕もいいんだ、あんなに綺麗な剣筋見たことねぇ」
「そ、そうか?」
あぁ、キラキラと星のような刀であったからかもしれないが熊を一太刀で両断できる技術は間違いなく黄十郎さんが強い証だ。
格好よかったなぁ…!そんな人の刀が俺が作ったなんて…すごいうれしいし興奮する。こう胸の中で熱いというか湧き出でてくるものがあるな!
「本当に凄かったんだ」
「珍しい、宗助がこんなに感動しておるなんて…」
「だって黄十郎さんの剣筋がまるで流れ星みたいに綺麗だったんだ!」
「流れ星…あの、宗助殿…この刀には名前があるのですか?」
名前?つけてないと告げれば黄十郎さんは大太刀を手に取り、静かに告げた。
「…決めた、お前の銘は流星宗助だ」
俺の刀に名前がついた。
誇らしげに刃を天に掲げて名を付けた黄十郎さんの姿にすごく壮観なものを見たと思っていたら名前を呼ばれた。
「宗助殿、すまないが…この刀に銘を彫ってくれないか…」
「あぁ、もちろんだ…恩人の頼みだからな」
「!、はははっ、これは一本取られたな!」
黄十郎さんはこの後また俺の家に戻り一夜を過ごした。
俺は夜に銘を≪天野作 流星宗助≫と刻み、銘を彫るために剝き出しにした大太刀を元に戻した後に黄十郎さんに渡そうと持ち上げようとしたら丁度いいタイミングで黄十郎さんが現れた。
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また宗助の家に戻った黄十郎は銘を掘っているのであろう宗助の作業の音を聞きながら今日あったことを思い出していた。
あの時見送りに来た三人が遠くからまだ見ていることにくすぐったい気持ちになった時だった。
≪早く戻れ!!父上が危ない!!≫
何かの声が聞こえた。
低い男の声だと思った時に遠くから熊の声が聞こえ黄十郎はすぐに体を翻して三人の元へ走る。
一体どうしたんだと目を見開く宗助の顔が見えた時には熊が茂みから現れていた。
太郎はすぐさま近くにいたおゆきを抱えて宗助も抱えて逃げようとするが宗助は太郎の手を振り払い近くにあった大きな木へ登る。
「まずいっ!!」
すぐに黄十郎は宗助が二人を逃がすために自身を囮にしたのだと分かった。
彼の性格からすぐに想像出来たことだったのだ。しかし彼は作戦通りに自身を追う熊に太郎の泣きそうな顔もおゆきの絶望に染まる顔も見えないだろう。
迷ってる暇等無かった。
ここで己は動かねばならぬと足が手が動いたのだ。
背負う大太刀の鞘を後ろに投げ捨て走りながら大きく振りかぶる。
彼が此方を見ていると目の端で見ながらその大きな刃を横に熊へと振り切った。
肉が切れる感覚は一瞬あった。でも重みや衝撃は無く、まるで豆腐を箸で割くように斬れた。
しかし黄十郎が強く感じたの高揚だった。
あぁ、この刀はこんなにも己にあった刀だったのかと。
この山に己が来たのは宗助に会うため、この刀と出会うためであったのかと黄十郎は強く思った。
気づけば音は消え、作業の手が終わっているようなので大きな刀故運ぶのは大変だろうと取りに行こうと作業場へ足を運んだ。
「黄十郎さん、丁度今終わりましたよ」
「すまない宗助殿、我儘を言ったな」
「言ったでしょう?恩人の頼みですから」
その言葉に黄十郎は優しく微笑みながら礼をまた言えば、宗助も頭を下げてしまう。
これでは駄目だなと黄十郎が頭を上げた時に黄十郎の目に彼が作りかけであろう物が入った。
「槍…?」
「ん?あぁ、これは太郎の槍ですよ…以前相撲大会がありましてあいつは大会の連覇を果たしたんです」
「その祝いの槍ということか!…宗助殿、もしやこの槍は」
黄十郎は槍の刃の光に見覚えあった、何故なら目の前にあるのだから。
確信を持って聞けば宗助は頷いた。
「えぇ、黄十郎さんの流星と同じ星から作ったものですよ…まぁ兄弟になるでしょうか」
「それはそれは…では今日は流星はここに置いておきますかな、兄弟の時間をあげましょう」
「…それ、いいなぁ」
くふくふと楽し気に笑う宗助に黄十郎はでは明日迎えに来ようと共に作業場から出る。
黄十郎は戸を閉める際にちらりと中を見れば短い銀髪で藍色の甲冑を着た大柄な男性と同じ銀髪でまだ鞘や装飾をされていない故にか白い無地の着物を着た長身な男が並んで座り、黄十郎達の方を向いて頭を下げていた。
居間で夕飯を共に食べていると宗助はそうだと声を上げた。
「黄十郎さんが斬ったあの熊の毛皮を少し貰っていいですか?」
「構わないが何か使うのか?」
「あの槍の鞘に使おうかと」
黄十郎は君の刀が斬ったものだ好きに使いなさいと言えばならば明日熊を処理している村のマタギの爺さんに貰おうと笑うので己の刀の兄弟なので立派にしておくれと伝えた。
後日槍を貰った太郎が立派なものすぎて情けない声を上げることになると彼は知らない。
宗助と別れ客間で眠る黄十郎が流星は弟と話でもしているのだろうかと考えていた時だった。
屋根裏から気配を察し体を起き上がらせ戦闘の構えをとる。といっても黄十郎の刀は今はないので体術になる。
それを見てか屋根裏から忍びが音もなく客間へ降りてきた。
「失礼、警戒しないでくれ」
「…屋根裏にきているものがいて警戒するなは無理だろう?」
「…まぁそうだな、今回は五反田殿へ我が主から書簡を預かっている」
黄十郎が警戒しながら出された書簡を手に取り開けばそこには見知った名前があった。
「月ヶ原家の印!?それにこれは義晴様の名じゃないか!」
「此度の一件を我が主が知り是非また会いたいと…宗助殿を守って頂いた礼をしたいとのこと」
「…以前から監視の目には気づいていたが随分と過保護なものだ」
忍びは肩を竦めるがその仕草をみてからか黄十郎は承知したと返事をすればではここを立った後城へ向かってほしいこと、書簡の中の物を門番に見せれば入れると伝え立ち去った。
「…まぁいい、行けば分かるか」
さっさと寝ると横になる黄十郎は枕元に置いた書簡をちらりと横目に見たが明日考えようと目をつむった。
横になったはずの黄十郎はなぜか星の中にいた。
なんだここはと驚く中で己の前に見覚えがある男が座っていることに気づいたがその男を見て黄十郎は肩の力を抜いた。
何故ならこの男は先ほど宗助の作業場から出る時にみた男故に誰かは分かったのだ。
「流星か?」
「はい、流星宗助にございます」
流星宗助であると答えた男の声に黄十郎は今日聞いた戻れと叫んだあの声は流星であったのかと分かりあぁやはりそうだったのかと零れた言葉に流星宗助は嬉しそうに微笑んだ。
「今一度挨拶と父上を救って頂いた礼をしたく」
「何をいうかお前が救ったのだ、流星が知らせて俺は斬った…それだけだよ」
「主殿がいなければそれは出来なかったことです…それに生まれたばかりの弟と話も出来ましたから」
頭を下げ続ける流星に話は出来たか?と聞けば流星は頷き、中々に癖がある子でしたと笑いながら語る。
そう語る顔に黄十郎はそうか!と豪快に笑うと流星に手を差し出した。
目をぱちぱちと瞬かせる流星に豪快に笑ったまま告げる。
「これからもよろしく頼むぞ流星!」
「…貴方の刀です、存分にお振るい下さいませ」
黄十郎が見送りの時に宗助の手を両手で包むんだように流星も両手で包んだ。
その仕草に黄十郎はやはり俺はここにこの刀と会うために来たのだなともう一度強く思ったのであった。
「時に主殿、先程義晴殿から書簡が届いておられましたな」
「そんなことも知ってるのか」
「いえ、兄上から言伝でして…あまり心配しないでいい、義晴殿は主殿をとって食うわけではないので是非来てほしいと…その義晴殿はともかく兄上は正直なお方なので信頼は出来るかと」
「…一応行くつもりだから不安そうにしなくても大丈夫だ、それにもし何かあればお前を振るい大暴れしてやる」
「勿論その時は我が力お見せしますとも、頑丈さも切れ味も自慢ですので」
「頼もしいな」
夢の中でそう語る一人と一振り。
まだ数日も経っていないが彼らの中では固く厚い信頼が生まれていた。
黄十郎はこの信頼を後に流星宗助とは運命の縁が己達を出会わせたのだからと書に残す。
数日後。
宗助の家に義晴と黄十郎が共にやってきた。
義晴はよく来るのだが宗助は黄十郎とまたこんなにも早く会えた事に喜んだが何故二人が共に来たのかとと聞けば。
なんと黄十郎は今は月ヶ原家に仕えているのだという。
「義晴殿が俺の主になったのですよ、あの後に義晴殿から誘いを受けたのです」
「熊を一刀両断した腕前を放っておけぬだろ?しかもこやつな、実力を訝しむ家臣達の前で庭にあった大岩を斬りおったんだ!それを見た武官達が絶対に欲しいと声を上げたのでな!俺のにした!」
「…あの者達が流星を馬鹿にするので見せてやりました」
むすぅっと顔をしかめた黄十郎に何があったのかと聞けば笑いながら義晴が答えた。
「大きい刀だけだとか大振りすぎるので野良侍にふさわしいとか言ってなぁ、まぁそれを言うたのは一部だから気にはするなよ」
「価値のわからない節穴共に流星のすごい所を見せたまでです」
「岩を斬った時あやつら口をあんぐり開けてたなぁ!いやぁあの間抜け面を思い出したらまだ笑えるぞ!くくく…っ」
面白かったと笑う義晴はその一連の騒動でさらに気に入ったのもあり是非うちに仕えてくれと頼んだそうだ。
黄十郎はそれに承諾し黄十郎は剣の腕を買われて月ヶ原家の武士として雇われたのだという。
「仕事見つかって良かったですね黄十郎さん」
「これも宗助殿と流星のおかげです、この御恩は忘れません」
「それを言うなら俺にとって黄十郎さんは命の恩人だ、忘れないよ」
その返答に黄十郎は優しく笑みを返す。
そんな黄十郎の背には堂々と背負われている流星宗助の姿があった。
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星刀剣シリーズ
大太刀 流星宗助
天野宗助が生み出した刀剣。
隕石を使った星刀剣シリーズの一つ。
清条の武将 五反田 黄十郎の愛刀で有名。
六尺(180㎝)は超える大きさの刀で星が詰め込まれているように刃がきらめているのが特徴。
持ち主や黄十郎の周囲の人物にはこの刀から低いが穏やかな声が聞こえたとされ、時に危険を知らせたり助言をすることもある導きの刀と呼ばれる。
敵や害するものに容赦なく巨大な熊や岩を一刀両断する強靭で切れ味鋭い刃だが黄十郎の幼い娘が戯れに流星宗助の刃に触れたが子供に一切の傷はなく、逆に刃を光らせ娘をあやしていたという逸話から優しい刀として有名である。※1
持ち主である五反田 黄十郎はこの刀との出会いを運命であると書に残す程に気に入って愛用しており、主君になる義晴との対談の際に義晴の家臣がこの刀の大きさを大きすぎると馬鹿にされそれに怒った五反田 黄十郎が城の庭にあった大岩を一刀両断したという伝説がある。
それを見て月ヶ原 義晴や武に長けた家臣達は彼を欲しくなり仕えないかと声をかけたという。
また五反田 黄十郎の残した書によると流星宗助は大きいが穏やかな性格らしく真面目な兄と豪快で癖が強い弟に挟まれて苦労していたらしいという記録がある。
※1 現在も五反田家が所有しているがある年の昼に子供だけが家いた時に強盗が入ったのだが強盗は買い物から帰ってきた大人達に縋り付き自首するという事件があった、取り調べに対しすごく大きな刀を持った甲冑の姿の男に家の中で追い掛け回されたと男は供述し特徴から五反田家は流星宗助が子供を守ったのだろうと言って話題になる。
そろそろ番外編を出したい。
現代での宗助の作品の評価とか大河ドラマ出たらこんな感じとかよくあるテレビの歴史番組で特集された話とか書きたい。