月光
狙撃とは一種の芸術である。
風向き、風速、コリオリの力、雲域、降水量、湿度、日の出、日の入り、月光の光量パーセント……
全てを五感と勘で統合する。
勘とは科学的に証明できない、
非常に形而上学的なそれである。
隣にいる観測手との掛け合いも非常に重要だ。
自然と一体化し、
吐息、汗、鼓動に至るまで自らの全てを制御する。
引き金を引く、
150デシベル以上の轟音が辺りに響き渡り、
地や空気を揺らす。
「ヒット」
双眼鏡を構えた観測手が無機質な声を上げる。
観測手の隣にいる伏せ状態で、
その身体に不釣り合いなほど大きい狙撃銃を構えた少女。
その少女の撃った弾丸が800メートル先の的へ当たった。
銀髪に長い髪、背丈は平均的な女子中学生程……
その少女はテレス。
いや、顔は瓜二つだがなんとなく風貌が違うように見える。
フローラ迷彩と呼ばれるソ連の迷彩を身にまとうその少女は、
テレスよりもずっと攻撃的な印象を与えさせる。
「優雅さ〜ん」
少女の後ろから貧弱な青年が走ってくる。
隣に居た観測手が、太腿のホルスターから拳銃を取り出し青年に対して構える。
「お嬢の後ろに立つな。撃ち殺すぞ」
「ヒ〜〜!」
優雅という少女に声をかけた青年はぴょんぴょん飛び跳ねどこかに行ってもうた。
「エリック、あれを見て」
拳銃を構えていた観測手、エリックは双眼鏡を構え優雅と同じ方向を見つめる。
「すみません、見えません」
「10m先の市街地に子供がいる。ゴミ箱を漁っているの」
ここはソ連軍の中東前線基地だ。
そこはそう、アメリカ軍により生物兵器が用いられた国。
ソ連兵士が来ては、その現状を関してするのだ。
優雅もまたその一人。
実際なら数々の勲章を得ていたであろう功績を残している狙撃手である。
優雅率いる部隊は3人、狙撃手である優雅、狙撃手兼観測手のエリック、新しく部隊に入隊した青年であるエゴール。
14歳であるにも関わらずその腕を買われ連邦保安庁、FSBのスペツナズに入隊した。
この部隊は公にされていないにも関わらず、その噂は世界中に広まった。
奴らが来れば大地は集土と化し、草花は枯れ、腐り、生物は一匹足りとも残らないと。