人類の病気
テレスは、手錠で拘束され、
校庭まで兵士に歩かされた。
到着し目の前にいたのは、
クロスボウやコンパウンドボウなどを装備した5、6人の兵士と、スーツを着こなした男性だった。
「やあ、銀髪の少女、いや、テレス・ファーベル君。」
スーツの男がテレスにそう話しかける。
「貴方は?」
テレスは、疑問を浮かべた表情でそう尋ねる。
「私?私は単なる使者に過ぎない。正義の使者だ」
スーツの男がそう言うと、
テレスの後ろにいた兵士を手招きした。
後ろにいた兵士は、テレスの首根っこを掴むと、その顔を地面に押し付けた。
近づいてきたスーツの男は、こう言う。
「これを聞いてくれるかな?これは、我ら人類の息子の鼓動と息吹だ。」
男はテレスの耳へ無線と繋がるイヤホンを押し当てる。
そこから聞こえたのはピー、ピーと不規則に鳴る機械音。
「2進数……?」
テレスがそう呟く。
「はは、よく理解できたな。流石、銀髪の少女だ……そうだ、これは16進数のUnicodeを2進数にしたもの。」
「なんとも愛らしいとは思わんか?
なんとも美しいとはおもわんか?
これは人類の新しい進化の姿だ。」
男は演説口調でテレスに語りかける。
「なにを言っているの、全く理解できない」
そうテレスは言い返す。
「では"真実"を教えようか。銀髪の少女よ。」
「脳機能イメージング複製により、現代の人類の中で最も頭の良い博士や数々の専門家、賢者の脳、思考をこの無線の先にある"神体"へと転送した。」
「そう、巷に謂う技術的特異点だ。それが実現した。その2進数の羅列を音声信号にしたものがこの音声……」
「とうとう人類の記憶の持続性までがディジタル化された。この武器で我々は、この、虚構で塗り固められた世界を破壊する。偽の自由には責任という影が付きまとう。知性の解放という光こそ、影の存在しない真実の自由だ。」
「そんなことはどうでも良い!なぜ、なんの罪もない非武装の民間人を殺した!」
テレスは軽蔑したような口調でこういった。
「我々の聖戦に伴われたユースティティアの加護だよ。正義の下では、あらゆる罪が正当化される。我々の国、アメリカではよく言ったものだ。勝ったものが正義。」
「貴方は……狂っている」
テレスがそう、ボソッと呟く。
男は謂う。
「私からしたら世界が狂っているのだ」