サンバースト
空虚……
今の私には一番相応しい言葉かもしれない。
この心は、窓ガラスの向こうから指す一筋の光とは対照的に、一向に晴れない。
心の暗い奥底で眠った晴れない空虚がわからない。
テレスは走る。
前も後ろも見えない空間で。
走る先で誰かが呼んでいる。
そう思いたいが為の幻聴……?
視界が掠れる。
「起きろ〜!」
机で寝ていたテレスの頭を、丸めた教科書で叩く教師の姿がそこにあった。
緑色の黒板に"七月二日"の漢字。
そう、テレスは、親の仕事の都合上で、日本の学校に通っていた。
新潟に存在する中高一貫の学校、桜吹雪中等学校である。
「テレ……いや、ファーベル。試験中に寝るのはよさんか」
「は、はい。すみません……」
テレスはよだれを袖で拭うと、シャーペンを持って試験に取り組む体制を見せた。
『シャー、トントントン、シャー』
毎回テスト中に、このような音がテレスの机から発せられる。
シャープペンシルの先で机を引っ掻いたり、叩いたりする音だ。
それを尻目に周りの生徒は、黙々と解答を行っていく。
テレスは不敵な笑みを浮かべた後、自らも解答を書き始める。
後日
出席番号が、11番、12番、16番、21番、22番の生徒のみが全教科満点を取った。
カンニングが疑われ、職員により捜査が行われたが、証拠や証言は一切見つからない。
「これ礼な〜!」
鼻に絆創膏を貼った女生徒が、テレスの肩に缶ジュースを押し当てる。
「ジュース貰う為に特定の生徒にモールス信号でテストの内容教えるとか、ほんと変わった奴だよな。しかも内容が全部合ってるときた……もう留年ギリギリだったから、必死で(信号の)勉強したよ!教え方も上手いし、これぞ鬼才」
テレスは、缶ジュースを飲みながらそれを聞き流す。
「またよろしくな!」
鼻に絆創膏を貼った生徒は、テレスの背中を叩くと、どこかに去っていった。
とてつもなくつまらない日常、テレスはそう思っていた。
空き缶をくずかごに投げ入れ教室に帰ろうとすると、
目の前の通路を目出し帽を被った男が通った。
弾倉が入った黒いベスト、膝と肘に付けたサポーター。
それに、黒くて金属製の弓矢を持った男が。
それは、洋画にでも出てきそうな黒ずくめの兵士だった。