大佐
「アロー……?カーネル、とある用事があって電話をかけました」
スマートフォンの向こうから、割れた声が聞こえる。おそらくボイスチェンジャーで話す誰かだろう。
「ふん……その話し方、訛り、ピッチ……読んだぞ。おそらくソ連のСтановой(スタノヴォイ)を本拠地とし世界を股にかけるマフィア、規律ある狼、Волк в законе(ヴォルク)の団長……人種はテュルク系か?本名は……ア」
この初老、カーネルが割れた声の持ち主の名前を言おうと口にかけた瞬間、それをとざすように割れた声の持ち主が大声をあげる。
「やめてください!!盗聴されていたらどうするのですか。カーネル、なぜ声だけで組織の本拠地や俺の人種までわかったのですか……!?」
「ふん、君は私の諜報組織の力を甘く見ているようだな。聞くところそちらでは高級品か?だがな、諜報の世界ではそんな物ゴミも同然……。フフ。私もナメられたものだよ。規律は有れど所詮は狼、野蛮だ。この会話がもしも世に広まったらどうする?君は我が国の国民全員を敵に回すことになる。それがどういうことか……考えてくれたまえよ」
「す、すみませんカーネル」
「まあ良い、団長直々に電話をかけてきたんだ。相当な用事だろう?要件を言え」
「はい。この間の我が部隊へのチェストワプログラムの導入、ありがとうございました。その時は私の部下に依頼させたので、貴方とは初めて話ますが、声だけで私がわかるとはやはり恐ろしいお方だ……。」
「本題に入ります。最近例のCP、チェストワプログラムが遂に実用化、という所で非常に大きな欠陥が発見されました。その"計画第四段階目の欠陥"による事故で我が部隊の57名が感電により死亡、272人が巻き添えにあい、火傷で負傷を負いました。主導して計画を行った技術者は我がヴォルクの部隊でも1、2を争う実力の持ち主であり、説明書通りに計画を行ったと証言しております。本当に謎なのです。なぜ、うまく行かなかったのか……その原因解明に、そちらの技術者をソ連に派遣して貰いたく、お電話をおかけさせていただきました」
「そうか……チェストワプログラムはまだ陸軍でも計画段階、原因不明の事故も我が国の軍ではよくあることだ。わかった、技術者を2名送る。」
「ありがとうございます!」
その部屋の格子の外からはいつも、
雷鳴と共に雨音が聞こえていた。