表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/1

 ■■■


 ある昼下がりのこと。

 ちょうど昼の講義がなく暇なので、中庭にあるベンチに横たわって惰眠をむさぼっていた俺の前に、真っ黒の毛玉が落っこちてきた。


 それは俺に謝りもせず、こうのたまった。


『そこのお前、今からダンジョンマスターだ。光栄に思え』


 まず第一に、何かよくわからない毛玉が喋ることに驚いたし、何より次の瞬間に紫色の毒々しい光が当たりを包み込んだことに俺の意識は処理落ちしそうになった。これはきっと夢に違いない、そう呟くことで精神の均衡を保とうとする俺をよそに、その毛玉は滔々とダンジョン運営について語り出した。


 曰く

『ダンジョンは魔王が作りし生命力を集めるための機構であること』

『生命力(LP)は基本的に生物に宿るものであること』

『とどのつまりダンジョンマスターはダンジョンを運営し、魔王に一定量献上することが義務。それ以外は好きにしていい』


 だいたい、魔王って誰なんだと思うが、まだ初心者ダンジョンマスターである俺は知らなくていい情報らしい。まったくひどいもんだ。


 そして、何より大事なことがあった。


 魔王に魔力を献上するのは毎日0時。最初の間はLPが10でいいと言われたが、現在俺の持つLPは10。これだけ見ればなんとかなると思ったが、このLP10は俺の生命力。


 そして、肝心のダンジョンを生み出すにはLPを消費する。そのお値段はLP10。



 ……詰んだ。平均的な人間の持つLPは10だそうで、LPが0になれば俺は死ぬ。このまま本日0時を迎えただけで俺は死に、ダンジョンを生み出しただけで俺は死ぬ。

 ちょっと、これはひどすぎませんかね……俺に死ねと。遠回しな自殺要求ですか。というか、どうにもできない理不尽なことを俺に要求するなよ。



 うなだれる俺に、毛玉は言葉を投げかけた。

 LPの増やし方を。


 ダンジョンをただ単に運営するだけではLPは増えないらしい。そもそも生み出す段階で俺は詰んでいるのですが。

 いったいどうすればいいか簡単に言うと。


 『生命を殺せばいい』だそうだ。


 ダンジョンに誘い込んで生きる気力を削ったり、ダンジョン内の設備で生産活動に従事させるでもいい、と言葉を続ける毛玉。だから、そもそもダンジョンを作れないって言っているでしょうが。人の話を聞いているのかって。手っ取り早く生命力を、いや命を搾取すればいい、そういうことらしい。犬でも、猿でも、人間でも生命力は持っている。ダンジョンマスターである俺がそれらを殺せば、手っ取り早くLPを得られると。いろいろとLPを手に入れる方法を得々と語る毛玉の話の中に、ダンジョン外でLPを得られる方法はそれしかなかった。まったく使えねぇ奴だな、この毛玉。まさかビデオテープみたいなものなのか。


 一通りしゃべくった毛玉はにやりと単眼を瞬かせ、ぼふんと煙を出して消えた。後は、ヘルプを出して読めと。いやだから、このままダンジョン作ったら俺が死ぬって。




 今の出来事が夢だったのか現実だったのかわからない俺は、呆然とやらなければいけないことを整理した。正直、今までの俺は漫然と学校に通い、これからの人生は平々凡々であると考えていた。いざ、目の前に死というものが突き付けられて俺は戸惑った。


 『なぜ、俺がこんな選択を迫られなければいけないのか。』

 それと同時に

 『いつかは考えないといけないことだ。生きるために考えねば』

 と何かが訴える。

 『生きるためには何かを犠牲にしなければいけない』

 そう考えると

 『そのために生き物の命を奪うのか』

 と何かが訴える。

 『ならば俺は生きていることはできないのか』

 頭がぐちゃぐちゃになる。


 ……あァ。




 そして、俺はおもむろにベンチから立ち上がると、大学隣にある公園へ向かった。


 そして、どこかの人のペットであろう犬を殺した。


 LPが3手に入った。


 ……しょっぺぇ。




 ■■■


 現在LP:13


 とりあえずダンジョンを作ってみることにした。


 毛玉が消えた後にいつの間にか俺の手に握られていた何やら怪しげな宝石を手にして一言。


 『ダンジョン作成』


 俺の意識は暗転した。


 再び目の覚ましたらそこは殺風景な部屋。1畳しかなく、周囲はコンクリートのような灰色な壁と床で覆われている。俺の前には椅子と机と、机に上に一台のPCが乗っかっていた。


 PCの画面には『ようこそ、ダンジョンマスター様』と書かれていた。

 マウスをクリックすれば画面は切り替わり、『これからダンジョンの作成を始めます。よろしいですか』と描かれた画面が現れる。右端に『現在LP:3』と書いてあった。まだ作ってもいないのにこれだけでLPは消費されるらしい。LPを増やした後でよかった。

 次に進みたい俺は選択を誤った未来を想像して顔を顰めながら、マウスをかちかちとクリックした。


『ダンジョン作成画面

1.作成ポイント:未設定

2.フロア設定:未設定

3.設備設定:未設定』


 うむ、なるほど。まるで訳が分からんぞ。

 とりあえずヘルプを出して読むことにする。


 作成ポイントというのはどこにダンジョンを作るのかということ。例えば、大学の構内を勝手にダンジョンにしてしまうとか、家の近くの繁華街から少し離れたところにある廃ビルにしてしまうのか、つまりそういうことだ。

 フロアというはダンジョンをビルに見立てて言うところの部屋のこと。『魔物フロア』だとか『瘴気フロア』だとか、はたまた『作業部屋』だとか。ダンジョンコアと呼ばれるフロアは絶対で、そこから通路を通して各フロアを設置していく。特殊なフロアは設置するのにLPが必要になるが、何もない部屋や作業部屋はLPなしで設置できる。LPを集めるはずなのになぜLPを使わなければならないのかいささか疑問である。

 設備とは、フロアに設置する器具のこと。例えば『地力吸引装置』や『鍛冶道具』などといったものだ。こちらもLPを消費して設置するのだが、まぁフロアに比べると効果は小さいものの、その分LP消費は少なく入れ替えができると利点がある。


 ともかく、まず場所を決めてしまおう。

 今いる公園の地下にしてしまおう。入口は公園の中央にあるトイレの建物ということで。


 フロアは今のところLP消費できる状況ではないので『ノーマルフロア』をいくつか。


 設備は『生命力吸引装置』を。これがあれば勝手にLPが溜まっていく、はず……


『地力吸引装置:ダンジョンコアフロアにのみ設置できる。LPを消費することでレベルアップ可能。初期段階では5LP/1日』


 ……どうやらこの装置では本日の魔王徴収分には足りないようだ。加算されるのは0時すぎのようだし、何より数が足りない。


 仕方ないので、何かないか探してみれば『鍛冶道具』の初心者セットというものがLP0で設置できるので迷わず設置。作れるものを見てみればナイフだけが可能になっていた。


 LPを1だけ『鍛冶道具初心者セット』に投入すると、あら不思議。作れるもののメニューが現れてそこにあるナイフをぽちっと押すだけで、謎の機械音と共にぺっとナイフが吐き出される。


 なるほど。これは面白い。こういう状況じゃなかったら素直に喜べたはずなのになぁ……




 仕方なく、俺はナイフを手にダンジョンの外に出た。

 外はすっかり真っ暗になり、街灯が俺を照らす。

 俺はちょっぴり悲しくなって、ナイフを手にしたまま公園を彷徨った。

 そして、見つけた段ボールの塊にナイフを突き立てた。


 これでなんとか今日はしのげそうだ。




評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ