はるの月物語_2
勢いよく立ち上がってはズンズンと兄達に近づき、蒼兄の手からiPhoneを抜き取ろうと手を伸ばす。
「は!?勝手にやるなよ! 」
蒼兄はタイミングを見て隣にいるしょー先輩(翔季)にiPhoneを手渡す。俺の手は虚しく空振りした。しょー先輩がiPhoneを操作してLINEのアプリを開いているのが見えると肩を落とした。
もうどうにでもなってください。
「その子の名前なんだっけ」
「三坂、沙乃」
「あ、じゃあこの"さの"って子だな」
隣で画面を見ていた蒼兄がしょー先輩が使っている横から奪い取り、何かを打ち始めた。
……なんか変なこと言っちゃわないかな。
打っている内容も少し気になったけど、一緒に見るのは変に緊張するから、蒼兄としょー先輩に任せておこう。二人ともさすがに高校2年生なんだから内容とかはちゃんと考えてくれるだろう。…そう信じてる。
あ、じゃあ泉とか蒼兄とかしょー先輩とか。誰かに好きな人が出来たら俺のときみたいに話してもらおうっと。で、そこでちょっとだけからかってみたい。
腰掛けていた蒼兄のベッドに仰向けにゆっくり沈むと、白いコンクリート肌の天井が目に入る。蒼兄達の話し声を聞きながら目を閉じてみると途端に瞼が重く感じた。そのまま腕を額に乗せてこのまま眠ろうかと意識を手放しかけた時。
「陽! "さの"から返事きたぞ」
蒼兄の言葉に文字通り飛び起きる。それを見たしょー先輩に笑われたけど気にしない。こっちの方が大事だ。
ベッドに近づき、床に体育座りしては聞く態勢に入る。
「その前に、蒼兄は何て送ったんだよ」
「え? 『今度の夏祭り、一緒に行きませんか?』って」
「はあ!? しょー先輩〜……。」
しょー先輩が打ってたならまだマシだったかもしれない。俺の為に自然な流れを考えて話しかけてくれたかもしれない。
なのに!
LINEに打ち込んだ内容を聞けば、「これ普通だろ」みたいな顔をして直球な内容を放り込んでいたらしい。体育座りしたまま膝頭に額をグリグリと押し付ける。
しょー先輩は仕方ないと言うように苦笑してiPhoneの画面を指差した。
「陽が奥手過ぎるんだよ。蒼汰は積極的過ぎるけど。」
「お誘いくらいしないと、"さの"に意識もしてもらえないぞお前」
額をグリグリ押し付けたまま、歳上二人の言葉にムッとして口を尖らせる。
分かってるよそれくらい。でも女子と話したことがない訳じゃない、寧ろ女友達はいる。
……三坂さんだけに話しかけられないんだよ。
「陽、どーするー?見ないの? 」
蒼兄からiPhoneを奪い取ったしょー先輩が起き上がり、ベッドから降りて俺の隣に胡座をかいて座った。
「……読んで。」
体育座りで顔を上げずにボソッと言えば、ポンポンと後頭部に手が乗せられた。