act2‐2 自ら学ぶことが近道です
連れてこられたのはまたもや生徒会室だった。
「来ったよー」
伊嶋先輩は陽気な声でそのドアを開けた。
まず目に飛び込んできたのは、目を細めた優男だった。その左の席には、メガネをかけたクールビューティー風の女子生徒がひたすら書類に目を傾けている。
俺は会釈をしつつ、伊嶋先輩に続いて生徒会室へと入った。
「やあ。初めまして。僕の名前は皆原宏平。よろしくね」
「あっ、周藤陽奈です。よろしくお願いします」
皆原宏平。
その名前は、言わずと知られている生徒会長だった。もちろん、予想はしていたし顔も名前も記憶にあるとおりだった。
「竜胆翔子よ」
クールビューティーの方も顔を上げると、俺と視線が合うなり名乗ってきた。そしてすぐに書類に目を戻す。
こちらの名前にも聞き覚えがあった。
2年D組、竜胆翔子。容姿は目を惹くし、学年主席として名を連ねている。そして何より、秀一を式神として召喚した張本人だ。確か、会計の席に座っていた気がする。
「ごめんね。彼女、愛想がなくて」
「い、いえ。大丈夫です」
いつもより、声が半音だけ高い気がする。絶対音感なんて持ってないけど、自分のことだから緊張していることぐらいわかる。
「とりあえず座りなよ」
「ほら、ここだよー」
生徒会長のすすめと伊嶋先輩の誘導で空いているイスに座った。
「粗茶ですがどうぞ」
「あ、どうも・・・!?」
メイドが現れた。
どこからともなくメイドさんが現れた。さっきまでこの部屋にはいなかったし、ドアが開いた音もなかったのに・・・。
「失礼します」
そして、音もなくどこかに消えてしまった。紅茶とクッキーを残して。
「えっと・・・」
「ああ、彼女は加賀美里香。生徒会のメイド兼副会長だよ」
「副会長ですか・・・?」
「メイドだよ~」
何を当然な、みたいな感じで伊嶋先輩が言ってきた。
「なるほど。メイドですか」
だから俺は順応することにした。
「じゃあ、そろそろ本題に入ろうか」
「これをどうぞ」
竜胆さんに、ペットボトルのキャップほどの大きさで六角形のルビーの様な宝石を手渡された。
「これは?」
「魔力が結晶化したもの。つまり、魔石だよ」
「はぁ・・・」
いきなり魔石と言われてもピンと来るはずもない。
「それがこの土地に魔が集まる理由なんだ」
「これが、ですか?」
とてもそうとは思えない。
アニメや漫画だと、もっと禍々しいオーラを放っていたり、自然と手を伸ばそうとするけど、これにはそんな感じのものは無い。
「いえ、これは1部に過ぎません。本命は桜鈴高校の地下にあります」
「そこで周藤君には、地下の調査をお願いしたいんだ」
***
生徒会長の言葉を纏めると単純な話だった。
地下と魔石の存在を知ったのは1ヶ月前、偶然の出来事だったらしい。
生徒会で調査をしてみたところ、『魅』の属性を帯びた魔力の結晶らしく、魔力が多い人はそれに惹きつけられるらしい。ただし、それは人間に限らず、動植物や魔力生命体も同様である。
そして、俺への依頼は学校の地下で魔石を可能な限り収集することらしい。
わざわざ俺に依頼を出した理由は、ついでに魔術の練習ができるから。しかも、授業は合法的にサボっても良いらしい。
***
「それで、ここが地下への入り口だよ」
生徒会長が生徒会室にある本棚の本を動かすと反対側にある食器棚が動き、下へと延びる隠し階段が出現した。まさに漫画の世界の様に。
「ここも久しぶりだねー」
「ついて来てください」
伊嶋先輩と竜胆さんはビクともせずに奥へと進んで行ってしまった。
「さあ、周藤君も」
生徒会長に急かされて、俺も薄暗い階段を下っていくことにした。
最初は建造物らしい階段が続いていたけど、徐々に土や岩肌がむき出しになってくる。
「あの、ここって室内シューズで大丈夫なんですか?」
「だいじょーぶ。だいじょーぶ。『清』の魔石があるからシューズの汚れはもちろんのこと、破れた制服だって直せるよ?」
「クリーニング屋が泣いて喜ぶよ」
生徒会長と風紀委員長は笑っていたけど、俺は苦笑いしかできなかった。ただ、魔術という存在に呆れていただけだけど、俺もまだ受け入れられていない自分もいないらしい。
「コラッ!」
「は、ハイ!?」
伊嶋先輩が階段の下から詰め寄ってきた。段下なので匂いを感じられるほど顔は近くないけど。
「あのさ、主人公の精神面が安定してたら作品的には駄作だと思わないのかな?」
「はぁ?」
「だーかーら、ここから先は1人で行ってね。魔石は持って帰ってこなくていいから、とりあえず自力で帰ってきてね」
「えっと・・・。うわっ!」
おもいっきり手を掴まれ、そして振り回すように階段の下へと放り出された。
ゴロゴロと転がり、雑に作られた階段の角で擦り傷を作りながら転がっていく。傷を即座に直しながら進んでいく。
今度から造血剤を常備しておくことを心に決めた。
***
地下の洞窟はうっすらとでも視覚に捉えることができた。
不思議なことに光源はなかった。正確に言うと、壁となる岩肌が瞬く星の様にほのめいている。
「しかも、階段消えたし」
俺が最後まで落ち切った瞬間、生きているかのように岩でふさがってしまったのだ。
「ま、死なないんだから気楽にいくか」
餓死の場合なんて考えない自分がそこにはいた。
さて、投稿ペースが着々と低下しているわけですが読者は微妙に増えている気がします。
まことにありがたいことです。
ずうずうしいことは自覚していますが、感想を下さい。
次の投稿は・・・。
なるべく早くします。