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黒き魔術は死の証  作者: 蛍火凪乃
CHAPTER1 偶然だって運命です
2/10

act0‐2 他人が行使しても自分の魔術です

 冷たくて、固くて、ザラザラしている。


 これは・・・、地面だろうか?


 何故?


 倒れたから。


 何故?


 オオカミに、オオカミに殺されたから。


 その後は?


 死んだ?


 死んだのに意識がある?


 ここは?


 そこまで思考がまわると、周囲を確認したくなった。


 一気に目を開く。


 まず、視界に飛び込んできたのは、深い瑠璃色の空だった。


「ふぅ、間に合ったみたいね」


 聞き覚えのある声が聞こえてきた。


 聞き覚えはあるけど、誰の声かわからない。


 首を回して、発言者を探す。


 意外と近くにいた。


 金髪の美少女だった。


「えっと、どちら様?」


「フェリア=クレゼールよ。あなたの契約者」


「いや、なにも契約してませんけど?」


「・・・はい?」


 どうしてそこで不思議そうな顔をするのだろうか?


「・・・」


「・・・」


「「あの」」


「・・・」


「・・・」


 なにこの気まずさ。


「そちらからどうぞ」


「あ、はい。俺の名前は周藤(すどう)陽奈(ひな)。とりあえず、よろしく」


「・・・」


「・・・」


 何この沈黙?


「よ、よろしく。それより、さっき、契約してないって言わなかったかしら?」


 あー、そういうことか。


「その前に契約って何ですか?」


「え? 知らないで魔術書に血を与えたの?」


「魔術書?」


「これよ!」


 突き出されたのは、俺の部屋にあった黒い本。


「ああ、そういえば偶然だし、鼻血だけど?」


「偶然!? 偶然で私を呼んだの?」


「そうなるかな?」


「滅茶苦茶な人ね。まあいいわ。その様子だと魔術について知らないようだから、簡単に説明してあげるわ」


***


 そんなこんなで、俺はクレゼールさんの雰囲気が正座をしろと言っていたので、自主的に足を折りたたんで魔術と俺の状態についてレクチャーを受けた。


 まず、魔術についてまとめてみよう。


 魔術とは、属性と特性と代償で構成されるもののことである。


 属性は、火とか水とかエトセトラ。人によって相性があり、場合によっては使えなかったりもする。近代人はほとんど相性が悪く、才能か血統に依存する傾向がある。


 特性とは、硬化や浸食などの変化を示す現象のことである。属性ごとに付加できる特性が異なり、強弱も異なる。


 最後に代償だが、これはそこまで仰々しいものではない。魔石や魔力などのエネルギー媒体のことである。その他にも、血液や生命力の場合もある。


 また、魔術の発動方法にも詠唱と魔法陣と条件発動の3種類がある。


 詠唱はそのままの意味で、魔術文字(ルーン)の韻さえ間違えなければ発動する。


 魔法陣は代償で正しく描けば発動する。


 条件発動とは、魔術文字が描かれたパズルを完成させたり、設定された『きっかけ』を満たすと発動する。これは、発動自体は詠唱か魔法陣に頼っている。


 魔術文字とは音のことなので、可視化すると文字になるだけであり、存在としては音符に近い。


 因みに、脳内簡略化詠唱のことを無詠唱とも言う。


 さて、これからが本当の問題となる。


 まず、俺は魔界に来てしまったらしい。


 原因としては、俺が『所有者の血液を与える』という条件発動のきっかけを満たしたがために、無属性の召喚特性である魔術が発動し、その魔法陣の上に居たため、繋がった魔界に逆召喚されるという類い希な現象を体感したためと言うしかない。


 そして、俺のことを襲ってきたのは、悪魔憑きの銀狼。なんでも、弱らせたうえで知能力の高い人間に憑依し、下僕の1つにさせようとしたとか。


 ギリギリのところでクレゼールさんと契約に成功し、俺は生き残ることに成功したらしい。


 だが、ここに問題があった。


 まず契約とは、読んで字の如く破棄不可の取引である。


 つまり、お互いに利益のある対価を交換することだ。


 俺からの要求は、使い魔になること。ただし、これは俺自身が要求したことではなく、魔術書の設定によるもの。


 使い魔の行動制限は、主人の低級命令に従うことと主人に害を為さないこと。


 彼女からの要求は、娯楽を与えること。


 彼女は、魔女と呼ばれる存在であり、魔力がある限り生き続けるため、どうしても暇になるらしい。


 残念ながら、生物である限り魔力は回復するので、簡単に言ってしまえば不老不死の存在。絶対数は一桁で、能力に至っては魔界の王族――魔王にも劣らないとか。


 少なくとも、彼女に干渉できたということは、俺にもチート並みの潜在能力があるかもしれない。曖昧なのは、偶然という可能性が捨てきれないから。


 そしてなにより、回復魔法を扱えないクレゼールさんが瀕死だった俺を救った方法こそが、死霊魔術らしい。


 もともと、魔女とは怪我や病に陥っても、保有する魔力が解決してくれるらしく、回復魔法の類は覚える気がなかったらしい。


 偶然にも、俺を所有者として認めた黒い魔術書の属性が『霊』で、使い魔の副作用でもある生命力のリンクし、クレゼールさんにも魔術書の力を引き出せるようになったため、その力で俺を蘇生したらしい。


 いくらクレゼールさんが魔術を行使したからと言って、魔術の権限は俺に依存するらしく、半死だった俺には中途半端な死霊魔術が降りかかった。


 つまり、肉体のみのゾンビ化である。だって、俺が俺に仕えるなんて可笑しな話だろ。それに、俺の体は半分は生きているので日の光が苦手とかにもならなかった。


 もっと簡単に言ってしまえば、魔女でもないのに不老不死(笑)。


 しかし、成長がなくなった故に、新しく隷属ゾンビを増やすことも不可らしい。スロットが自分1人で止まったままと考えればいい。


 まあ、死霊魔術はそれだけじゃないし、魔術の習得自体に支障はない。


 クレゼールさんは空間移動魔術を覚えているから、向こうの世界にも帰ることはできる。


 寂しい思いをせずに済んだことは良かったけど、このままでは俺はクレゼールさんと一緒に暇つぶしの旅に出ることになるだろう。


 最後に、俺は魔界では人間であることを、地球では死霊魔術師(ネクロマンサー)兼ゾンビであることは伏せておいたほうが良いらしい。


***


 殴られて怪我をして、それが治って、ようやく実感が湧いてきた。


「そういうことよ」


 クレゼールさんはイラついて殴ったのではなく、自覚させるために殴ったらしい。


 差し出された手を握って立ち上がる。


「じゃあ行きましょうか。永い人生を謳歌する旅に」


 これから始まるのは、永遠の旅。


 死にたくなったら死ねるけど、それは世界を知り尽くしてからになるだろう。

主人公の許容範囲が広すぎました。

まあ、存在がボケなのでこれくらいでも問題ないと思う。

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