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告白

モテキというのは人生において三回あるらしい。それが、いつ訪れるかはわからないが、少なくともチャンスは三回ある。そう、三回もあるのだ。一回目を逃がしたとしても、あと二回。


しかし、一回目に残りの二回をすべて潰されてしまったならアンタはどう思う。たった一回、それも右も左もわからないガキの頃にした約束のせいで潰れてしまったら。


「返事、聞かせてもらえるかな?」


理不尽だと思わないか。アイツとの約束のせいで、俺は一般的に言う「青春」という物をしたことがない。甘い恋愛すらしたことがない。


「ねぇ返事、聞いているのだけど?」


それどころか、女子とあまり会話する機会すらない。いや、与えられないという方が正しいのか。俺が女子と会話をしようとすると、どこからやって来て、いつの間にか会話の主導権を握り、気づいたときにはアイツを通してしか会話をしていない状況になるし。


しかも、そんな状況からかアイツとは一緒に居る機会が多く、学校では付き合っていると噂されているしな。


だったら、自分から話しかければいいと普通は思うよな。話し掛けたさ、たいした用もないのに、わざわざ。その結果こうなった。アイツからの無言の圧力だ。ずっと見つめてくる、授業中も昼休みも放課後も。何もいわず、ただただ無言でずっと俺の目を見てくる。


何もかも飲み込んでしまいそうな、真っ黒な闇よりも暗い瞳で。真冬の海のような、冷たい眼差しで。俺のことをずっとずっと無言で見つめてくる。


俺は恐かった。ただただ恐かった。別に間違ったことを俺はしていないし、責められる行為をしたわけでもない。それなのにアイツは、「アナタは何をしているの?私がわざわざ言わなくてもわかるよね?」そんな眼差しで見つめてくる。


だから俺は「すまない」と、何も自分が悪いわけでもないのに謝ってしまった。アイツはその言葉を聞くと、俺からの謝罪がさも当たり前のように、口を三日月のようにしながら「そう」とだけ呟いた。

それ以来、俺が自ら女子に話しかけることは必要最低限しかしなくなくなった。


「いい加減、返事して」


彼女からの強い呼びかけに、俺はアイツのことを考えるのを一端やめた。


「悪い、少し考え事をしていた」


「なにそれ。まぁいいけど返事、聞かせてくれるかな?」


さて、俺が今現在おかれている状況を整理してみよう。


今の時間は放課後。学校には、部活の連中以外はほとんどいない。教室には無論、俺と小川藍子の2人しかいない。小川がさっきから聞いてくる返事とは、まぁ一般的にいう告白の返事である。


「返事、聞かせるよ」


俺の返事は小川に告白された瞬間に決めてあった。いや、迷う事すらなく、この返事しか俺は持っていない。


「ごめん、小川とは付き合えないよ」


「どうして、他に好きな人でもいるの?」


好きな人…か。俺には好きな奴なんてのはいないんだがな。


「あぁ、他に好きな奴がいる」


これが、一番相手を傷つけないですむ方法だ。他に好きな奴が居るとなれば諦めるしかあるまい。


「ねえ、その相手って雪風さん?」


一瞬、その言葉を発した時の小川の目が、とても濁っていたような気がした。


「いや、冬子ではないよ」


仮に好きな奴がいるとしても、雪風冬子であるはずがない。アイツのことは好きになる可能性は皆無だ。


「そう、雪風さんじゃないんだ。」


そう呟くと、小川は笑いながらゆっくりと俺の手を握ってきた。


「冬木君、私はアナタのこと諦めないから。今は駄目かもしれないけど、アナタのことはずっと好きだから。大好きだから。だから、また告白するよ。冬木君が私のこと凄く好きになっちゃうぐらい努力する。私にメロメロになっちゃうぐらい可愛くなるから。だからだから、そのときは良い返事きかせて?」


俺は小川に対して、直ぐに返事が出来なかった。


無邪気に笑いながら俺に語りかける小川の目には光が無く、冬子のように暗い闇があるような気がしたから。


だから俺は「わかった」としか答えられなかった。


「うんうん、わかってくれたか。じゃあ、私の言いたいこともいえたし、時間も遅いから帰るね。また明日、学校でね」


小川の目は先ほどとは違い、光があった。やはり、アノ濁った暗い目は俺の勘違いだったのか。しかし気になる。アノ目はあの冬子にそっくりだったから。


「バイバイ」


小川は教室のドアを開けながらコチラを向いてそう言うと、俺に笑顔を向けた。


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