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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。

英断です

作者: 赤川ココ
掲載日:2026/10/24

手慰み、第数弾であります。

お楽しみいただければ、幸いであります。

 王都学園の卒業式を終え、新たに成人に迎え入れられた貴族たちを正式に歓迎する意味合いの、盛大なパーティが開催された会場で、今年卒業を迎えた王太子が突如声を上げた。

「成人した貴族として、ここに宣言する。私は、王となった暁に並び立つ王妃は、自身で決める。よって、現婚約者とは、ここで婚約関係を白紙に戻すっ」

 それは、我慢に我慢を重ねた末の、覚悟を持った宣言だった。

 王太子の頭の中では。

 会場に集まった招待客たちは、一瞬で静まり返った。

 好奇、困惑、不快の混じる空気の中、静かに招待客たちの間から出てきたのは、当の王太子の婚約者の公爵令嬢だ。

 仕草も表情も静かで、黙ったまま高座に立つ王太子を見上げた。

 それを見下ろしたまま、王太子は顔をゆがめて声を張る。

「お前はっ。私を馬鹿にしすぎているっ。私が動くより先に手を出し、邪魔をする。文句を言うと、まるで私が悪いかのように言い訳するっ。ふざけるなっ。手を出す先からかっさらって、仕事を奪っていくくせに、いつまでも子供扱いするなっ。お前をいると私は、更にダメな男になってしまうんだっっ」

 魂の叫びだったが、招待された貴族たちは、呆れ顔で傍観を決め込んでいた。

 後ろの椅子に座り、決死の演説をする王太子を静かに見守っていた国王陛下が、すべてを終わらせてくれるはずだと、分かっていたのだ。

 鷹揚な仕草で溜息を吐いた国王は、慣れない暴言を吐きつくし、一息ついた王太子に向けて声を投げるべく、口を開いた。

 突如拍手が上がる。

 唯一人の手拍子だったが、国王の厳かな声をかき消す勢いの、強い拍手だ。

 その拍手に、ためらいがちな拍手が加わり、やがて会場中に拍手が響き始めた。

「っ? 何事だ?」

 気力を果たした王太子は、混乱して辺りを見回した。

 すると、ひときわ大きく拍手が近づいてきた。

 招待客の間から出てきたのは、岩のような偉丈夫の男だった。

 南を守る、辺境伯その人だ。

 ひときわ大きく手を打ちながら、王太子を見る目は優しかった。

「王太子殿下、いえ、第一王子殿下。あなたの一世一代のご英断。確かにこの耳に届きましてございます」

「? ?」

「自らの力量を鑑み、婚約者を不当に切り捨てることで、国王陛下にご自身の処分を託すご決断、感服いたしました」

 一礼しつつそう続けた辺境伯は、ぽかんとした第一王子から、その後ろで同じようにぽかんとする国王に視線を向けた。

 そして、低い声で続ける。

「国王陛下。第一王子殿下は、ご自身で自らの力量を判断するほど、成長なされた。周囲から容姿と権力だけが勝る王太子と噂され、幻滅されていた方は、成人を境に勇気のある凡人に開花されました。どうぞお褒めの言葉を差し上げてください」

 我に返った国王は、続く辺境伯の言葉で顔をひきつらせた。

「そして、王子殿下の願い通り、王位継承権をはく奪し、わが領地への預かりにして差し上げてください」

「はっ?」

 国王の悲鳴に似た声に、公爵令嬢の息をのむ音が重なった。


 いやいや、何で驚いてんだ、このくそ王。

 強面に笑顔を浮かべたまま、辺境伯は国の最高位に心の中で毒づく。

 国王陛下だって、前の人生の記憶はあるはずだ。

 でなければ、前回不在だったこの断罪の場に、入場しているはずはない。

 国が滅亡と言っても過言でない事態に陥った原因にも、心当たりはあるはずだ。

 辺境伯には、同じ人生を一度終えた記憶がある。

 不当な理由で婚約破棄された公爵令嬢を、王命で辺境に迎え入れ、それが原因で辺境が乱れた記憶だ。

 公爵令嬢は、王太子妃となるはずだっただけあって、優秀だった。

 だが、その優秀さは、辺境には不向きだったのだ。

 我が国は、小さな島国で、大きな資源もない土地柄だ。

 人口も少なく、他の大国からは、侵略して得る価値もない国と認識されていたため、これまで戦火に巻き込まれることもなかったが、国ぐるみでその認識を変えない努力をすることで、領地と領民を守っている国柄だった。

 故に、辺境にも領民はいない。

 領地を治めている辺境伯の部下や、その使用人たちが細々と暮らしているだけで、人口は王都の半分にも満たない。

 が、それも他国を欺くための国策だった。

 なのに、辺境にやってきた公爵家の令嬢は、その貧しい状況を憂い、経営に力を入れ始めてしまったのだ。

 貧しい資源でやりくりしていた領地の制度を改変し、山を切り開いて田畑を作って作物を育て、鉱山を見つけて王都への道も緩やかに開拓していく。

 そのたびに伺いを立てられ、事情を話して却下していたのに、彼女は数少ない領民を取り込んで、すべて実行してしまった。

 反対するたびに跡継ぎである辺境伯の息子に取り入り、領民たちからは聖女として崇められるようになった令嬢を、辺境伯は止めることができなくなっていた。

 王都より発展し始めた辺境の報告を聞いた国王が、今更になって令嬢を呼び戻そうとしたが、その頃にはもう、後の祭りだった。

 何と、何のとりえのない辺境伯の一人息子と、相思相愛になってしまっていたのだ。

 こうなってしまっては、爵位を譲り隠居するしかないと、辺境伯は早々にあきらめた。

 領地の山奥に夫婦で引っ込み、辺境が発展し、それがもとで大国に目を付けられ、突如攻撃された後に島国全部が植民地と化するさまを、諦観の思いで見守り、先に逝った夫人の後を追うように世を去った。

 と思ったら、息を吹き返した。

 丁度、辺境伯となったばかりの自分に、近くの領地の男爵令嬢が嫁いできた日だ。

 もう、ナイスなタイミングの巻き戻しだった。

 

 公爵令嬢と恋仲になった息子は、本来は次子だ。

 彼が生まれる二年前に妻は一度妊娠し、辺境伯の無関心が原因で、流していた。

 今回は、その子は無事に生まれ、娘ではあったが、先のことを考えて跡継ぎとしての教育を、息子と同じように受けさせていた。

 だから、息子は、婚約者をなくした令嬢にくれてやっても差し支えないし、その上で王都を発展させる手助けをさせるのも、やぶさかではない。

 だから、辺境を乱すのだけは、もうやめてくれ。

 第一王子は、こちらで叩き直してやるから。





優秀な人って、努力する凡人の手際に、やきもきするようですね。

それを怒っても、妬みにとらえられるのは、ちょっと面倒です。

それが嫌で、直接雇用の求人は、見向きもしない投稿者です。

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