ゲームの悪役令嬢に転生した私
ぐりんぐりんに巻いた髪の毛、オッケー。今日も完璧なドリルロール。
お化粧もばっちり。まつ毛はグリングリンでマッチが何本乗るかしら。
胸元がはしたないレベルでオープン、立派な胸の谷間を見せつける真っ赤なドレスもオッケー。
流石は私の侍女。リクエストに対してパーフェクトに応える精鋭よ。
最後に装備するのはわさわさと鳥の羽根が付けられている扇子。これは女の社交においての武器。今の流行りなら繊細なレースだろうけれど、『悪役令嬢ローデリア・フォタウナ』ならこの羽根がバサバサの扇子一択。
「完璧ね!」
「はい、お嬢様」
「では行きますわよ」
向かうのはタルコイズ宮殿。王家所有の特に豪華な宮殿は他国からの来賓を招くレベルの晩餐会や舞踏会を開く際に使用されている。
私は第二王子の婚約者として参加しなければならない。実に憂鬱な気持ちを高慢に見える笑顔で覆い隠した。
私はこの世界の未来を知っている。何せ私はこの世界に転生してしまったから。
恐らくだけど、この世界はゲーム『ロクタウスの刻印』をベースにしてると思われる。その世界とは言わない。少しずつ違うところがあるから。
そしてシナリオがないし好きにしても良いな、と、思った最大の理由は、私が幼い頃にとある人の命を救った結果、ゲーム内にはない未来になったけど誰にも怒られなかったし、強制力なんてものも無かったから。
助けた人にはとてもとても感謝されたし、その結果何人か処刑されたけれど、まあ、仕方ない。心は痛まなかった。人を殺そうとしたならば殺される覚悟を持つべきだし。
ベースはベースとして、ゲームの中でのキャラもこの世界では普通に生きてるし、死ぬ人は死ぬ。現実なわけ。
そして私は『悪役令嬢ローデリア・フォタウナ』という役割を持ったキャラとして登場していた。第二王子ルートでの悪役令嬢である。
ぶっちゃけ、ゲームの中のローデリアは悪役令嬢と言うには物足りなかったと思う。他の攻略者ルートに出てくる悪役令嬢は、これぞ!と言わんばかりの悪役っぷりだったのに対し、ローデリアはおマヌケでお馬鹿な所があった。
まあ、それもあって第二王子ルートは一番簡単だった。
見た目はとても派手なのだけれど、それだけ。割と頭が良くない第二王子よりも更に頭が悪いローデリアを差し置いて攻略するのはとても簡単だった。
そんなローデリアのガワを持ったまま生まれた私はある日突然、とかではなくて生まれながらに私だった。
もちろん、産まれたての赤ん坊ではまずもってニューロンはあれどもシナプスは形成されてはない。
転生ものあるあるの生まれて直ぐに状況把握なんて出来やしないのだ。ついでに言えば視力だって生まれて6ヶ月くらい経過しなきゃ物ははっきり見えないと言われている。
まあ、そりゃそうだよね。産道通って産まれてくる赤ちゃんの頭蓋骨はとても柔らかいと聞くし、そんな母子共に苦痛の果てに生まれてきて早々に意識みたいなものがあれば地獄だと思うよ、赤ちゃん。
それは横に置いておいて、私が、あらまあ、この世界って~、となったのは三歳くらい。昼寝から起きたあたりでぼんやりとそんな事を考えていた。
その時に感じたのは、元の性格からガラッと変わってしまうわけじゃなくて、私が私として生きてきたままだわ~。お父様やお母様、お兄様を悲しませなくて済むわ~。だった。
とは言え、三歳の子供がいきなり大人ぶるのは怖いし、私も三歳の体に合うような言動しか出来なかった。
元気よく走り回っていたと思ったらぱたりと眠るとか。
あ~赤ちゃん猫がにゃーにゃー泣いてたのに突然こてんと眠る動画は最高だったわ~。もう一度見たいけど無理だわ、この世界にネットもなけりゃスマホも無い。
そんな感じで生きながら、徐々にゲームのローデリアのビジュアルに寄せるようにはしたけれど、中身は私なので勉強も頑張った。
だって!他の悪役令嬢はクールビューティとか妖艶とか言われてるのに!ローデリアはお馬鹿扱いなんて嫌よ。
ローデリアの見た目は悪くは無い。厚化粧だしドリルロールだけど、スタイルは良い。この胸なんて年齢の割に大きさもハリも素晴らしいのよ。
金髪碧眼でスタイルも良いけど馬鹿なだけで悪役令嬢としてはイマイチなローデリアを私は変えた。
親と兄の甘やかしは凄まじかったけれど、その誘惑にも負けずに勉強も礼儀作法もとことん追求した。
前世の私は好きな物には力を入れるタイプで、この世界のことを沢山知りたいという好奇心が勉強等に向いていた。
第二王子との婚約は避けられるものではなかったので文句は無い。ただ、私はここでやらかした。
毒殺されるはずの第二王子の母君を助けたのだ。
この世界にはスキルがあるのだけれど、私には『危険察知』と『鑑定』のスキルがある。ゲームのローデリアのスキルは分からないけれど、私にはその二つがあった。
そのお陰で、側室様のお菓子に毒が入っているのがわかったし、鍛えていたからかスキルレベルも高くて、誰が混入したとか手配したとかも分かってしまった。
結果、正妃様は有力な貴族を何人も失ったけれど、自業自得だと思う。廃妃にならなかっただけマシ。ただまあ、私は恨まれているとは思うけれど、手出しをできないように手は打った。
鑑定スキルって、極めれば極めるほどとんでもない代物なわけ。
正妃様の弱みを握っているわけです。
月の無い夜には気を付けろよ、では無いけれど、あまり調子に乗った場合には正妃様の秘密があらゆる所に発信されますよ。という感じの事を匂わせたところ、嫌がらせは起きなかったけれど、まあ警戒はされている。
私が不審死をした場合はすぐに正妃様の秘密は広まる手配も完了している。その位のことが出来なくて貴族はやってられない。ゲームのローデリアは出来なかっただろうけれどね。
ゲームをしている時はのめり込んでいたけれど、この立場になって感じる。
ヒロイン、クソだな?と。
そもそもゲームの設定からしてクソだな?と。
攻略対象者に婚約者作るなよ。と本気で思う。
婚約者のいる男に近付いて親しくなり恋愛関係になればそりゃあ婚約者だって排除に動くに決まっている。
貴族の中でも高位貴族ともなれば恋愛よりも政略が優先されるのは当たり前。それをぶち壊すヒロインをクソと言わずして何と言う。
まあそれに便乗した攻略対象もお排泄物様だろうけれど。
王族の婚約者の私は、側室様を助けたというのもあるけれど、家がそれに見合うだけの家格で、しかも危険察知と鑑定のスキル持ちは王家からすれば手に入れたいものだろう。
スキルは遺伝性では無いので子供に継承とはならなくとも、生きてる間は私が王家に有用だと言うのは間違いない。
ゲームでは多分家格だけしか無かったから第二王子には嫌われていた。
だけど、今の私と第二王子は割と良好な……いや、言葉を濁さず現実逃避を止めて言おう。
第二王子は私に対してヤンデレを発症している。
私、何かやっちゃいました?なんて事は言わない。原因はわかっている。
何せ側室様を助けた時は第二王子の目の前だった。それだけで私は彼の中でヒーローポジになったらしい。
そして王子だからと甘やかされながらも正妃から命を狙われているのを、私が脅して大人しくなるまで撃退してきたのが駄目押しで、第二王子は私にべったりになった。
馬鹿は嫌いだと言えば逃げていた勉強にも向き合い、自分のみを最低限守れない軟弱な男は嫌いだと言えば剣術に励み。
傍から見ればパーフェクトプリンスの完成。だけどそのパーフェクトプリンスは私以外の令嬢に対して高すぎる壁を築いていた。ゲームと違うのがこの点。
そんな感じで第二王子が果たしてヒロインが現れたところで気にするかって言うと……難しい気がする。
第二王子は私が他の令息は勿論のこと、令嬢とすら仲良くしようとするのを嫌がる。お父様やお兄様にも嫉妬が激しい。
早く結婚したい。既成事実を作れば良いのでは。なんて世迷言をほざく第二王子に貞操の危機を何度感じたことか。
まだ十六歳で結婚は十八歳になってからと言う話なので後二年我慢して欲しい。
なお、ゲームは学園物なので、この世界にも当たり前のように学園が存在していた。
一学年が終了して二学年目になる直前の夜会には学園生がちらほらと参加する。
そこに現れるのがヒロイン。彼女は私達の一学年下で他国からの留学生。
そう。他国からの留学生だからね、こちらの国の婚約を引っ掻き回すだけ引っ掻き回しても、ノーマルエンドなら国に戻ればいいだけだし、こちらで相手を見つけたら彼女の祖国がバックアップしてくれるわけ。
冗談ではない。
つまりそれは、他国からの干渉を許すということに他ならない。だけど、ゲームはご都合主義だからそんな馬鹿なことがまかり通っていた。
現実では許されてはならないことなのに。
ゲームの始まりは、この夜会でヒロインが大使に連れられてやって来て、留学生同士の交流をさせようとするも、御手洗の為に会場を出て戻ろうとしたのに迷ってしまう。
婚約者から逃げてきた第二王子がそれを見つけて会場まで連れていってくれる、と言うものだけど……。
巡回騎士は何をしていたの。それにトイレまで案内した使用人は戻りも案内しないと行けないじゃない。女性一人で行動するのは非常識だから使用人が付き従うのは当たり前。
この世界で生きていたらどうしてもゲームの非常識さに頭が痛くなってしまう。
馬車の中でお尻が痛いなぁ、と思いながらも宮殿に向かう私は他の貴族よりも早くに到着して第二王子の元へ向かわなければならない。
迎えに来るとか言っていたけれど、早くに合流することで許してもらった。
馬車の中で二人きりになる為に侍女を追い出そうとする殿下のこと、二人きりになったら、何をされるかわかったものでは無い。
万が一にもヒロインと恋に落ちてしまった時、私の純潔が失われていたら最悪の未来しか待っていない。そんな見える地獄にダイブするほど愚かにはなれない。
「ローデ!ああ、なんて今日も美しいんだ!しかし、露出が多くないか?」
「ごきげんよう、殿下。わたくしに似合うドレスだと思いましたが、いけませんか?」
「いや、よく似合っている。だからこそ僕の傍から離れてはいけないよ。男は単純でケダモノだからね」
その代表が何言ってんのか。
胸の谷間をガン見しながら言われても説得力はない。
一応ショールを羽織るようにはしているけれど、がっと胸元が開いているドレスは確かに中々に勇気がいると思う。
少なくとも、胸元が貧相だと似合わないだろう。ヒロインとかね。
現在いるのは控え室の一室。王族や高位貴族の中でも限られた家の人達はこうして夜会が始まる随分と前に宮殿に来ることが許されている。
私も王子の婚約者なのでドレス等の一式を持ち込んで着替える事は出来たけれど、私の侍女全員を連れて来なければ意味がなく、それは許されてないので家で準備したのだ。
それにしても、部屋の中は侍女、従僕、騎士でがっちり固めてるわね。第二王子が私に襲いかからないようにって事なのだろう。
「殿下」
「ダメだよ、ローデ。僕の事をなんて呼ぶって約束した?」
「……セディ」
「うん。いい子」
第二王子、もといセドリック殿下は私に愛称で呼ぶ事を強要している。これがただの貴族なら何の問題も無い。仲の良い関係なのね、と。
王族は違う。王族を呼ぶ時には称号で呼ばなければならない。そこから許しが出たら名前に敬称を付ける。大抵許されるのはここまでだ。
そこから踏み込んで、婚約者やかなり親しい友人なら名前の呼び捨てが出来る。
愛称ともなれば伴侶だけだろう。その位、王族の名を呼ぶ時には区別が有る。
セドリック殿下は国王陛下によく似たイケメンで、銀髪紫眼。これでゲームではお馬鹿寄りだったから愛嬌があったのだろうけれど、私が口を出したせいでパーフェクトプリンスになってしまったわけでね。
色気が凄いのよ。
どろどろに煮詰めまくった欲望を私にだけ向けて垂れ流すものだから、私はまずセドリック殿下の色気に耐える訓練をせざるを得なかった。
油断して隙を見せたら間違いなく寝室に連れ込まれていたはずだ。
年齢的には、デビュタントも済ませているし成人扱いで問題は無いのだけれど、学園に通っている以上ははしたない真似はしたくない。
「今日は他国からの客が多いから、僕の傍を離れてはダメだよ?」
「ええ。わかっておりますわ」
ゲームの中ではローデリアを嫌悪しているセドリック殿下が、現実だと重苦しい程に重たい感情をぶつけてくるので困る。
これでヒロインに出会って心変わりをされたら人間不信になりかねない。
と、まあ、そんなことを思っていた時もありました。
「無礼者が!王族の私に対して馴れ馴れしく名を呼ぶばかりか触れるなど、許されると思っているのか!」
「セ、セドリック……な、何で?」
「貴様は頭が悪いようだな。何度言えば名を呼ぶなと言うことを理解出来る。もうよい。大使を呼べ。ジェルド王国は何故こんな愚か者を留学生として推薦したのか、責を問う」
「セディ、落ち着いて下さいませ」
「ああ、ローデ。済まない。君にこんな汚物を見せる羽目になるとは」
ヒロインはどうやら転生者だったらしい。ゲーム通りに攻略対象に接触しては落とそうとしていたけれど。
ゲームには逆ハーレムルートなんてなかったのに、ヒロインは逆ハーレムを狙っていた。
彼女は一応ジェルド王国の貴族のはずなのだけれど、貴族の常識を知らないのだろうか、と私は不安になっていた。
ゲームの攻略対象は、それぞれ属する派閥が違っていた。ゲームではそんなに政治的なところは出ていなかったけれど、現実として派閥というのは重要な要素だ。
私の婚約者はセドリック第二王子殿下だから、第一王子殿下の生母たる正妃様の実家の派閥とは異なる。もちろん私の家とそちらの家は政敵関係だ。
正妃様に調子に乗んなよと脅せたのもこれが理由。正妃様のゴシップは実家の弱体化に繋がる。まあ、そのご実家の弱みも握っているので潰そうと思えば潰せるけれど、やり過ぎないようにしている。
他の攻略対象も、貴族派、王家派、中立派と分かれているし、その中でどの家の派閥かというのも大事になる。
逆ハーレムと言うのは、それを全く考慮していないわけだ。
そもそも、ヒロインには我が国において全く価値がない。これが恋愛による結婚ならば、まあ、ジェルド王国との繋がりの為に、かな、みたいなレベルだけど、政治的価値は無い。
そんな女に対して権力者の子息達が侍るだけ、なんて無茶にも程がある。
そもそもそんな状態で生まれた子供は誰の子か、となるわけだ。
男性がハーレムを作っても許されるのは、一箇所に閉じ込めた上で多くの女性を孕ませて子供が出来ても誰の子供かが明確にわかるからだ。
同時に五人を孕ませてもその子供はその男性の子供だと分かるから血を保証される。
だけど、女性の逆ハーレムは一人の子どもしか妊娠出来ないけれど親が分からないという、血の正統性が無くなっている状態なのだ。
だから、女性による逆ハーレムはありえない。
これが大前提の上で、ヒロインはゲーム通りにしながらゲームから逸脱した行動をした。一人に絞っていれば良かったものを。
この国は別に一夫多妻に拘りはない。正妻が子供を産めば夫婦ともに他の相手を愛人にして良い。男性も妻より先に愛人を孕ませるのは禁止だ。そこはルールに従うべきである。
婚約者時代に他に好きな人が出来たとしても、婚約者に知られないようにするのがマナー。それと一線を越えないのも。
つまり、ゲームで攻略対象が悪役令嬢たる婚約者に露呈していることの方がおかしい訳だ。
貴族の婚約は政略で、莫大なお金が関与している。利益の無い政略結婚などない。まあ、一方的な搾取的政略結婚はあるだろうけれど。
そんな状態で婚約者を蔑ろにして恋人と堂々と触れ合うのは自滅行為、なんだけど、ゲームはヒロインの為の世界だからご都合主義で何とかなっていた。
仮にも、ヒロインが狙い通りに逆ハーレムを完成した瞬間、戦争が始まるわけだけど、分かっていたのだろうか。
攻略対象はそりゃあ魅力的な人達が宛てがわれている。家の権力もある。そんな人の婚約者の家が平凡なわけがない。
婚約への横槍を入れてきたのがまだ国内貴族の令嬢ならば慰謝料請求山積みで没落させるくらいで済むけれど、他国の場合は干渉となり、戦争の理由に出来るのだ。
これが一人なら我慢せざるを得なくても、複数人ならばどうしようもないレベルであちらの有責となる。
この世界をゲームだと思っているからヒロインは好きなように振舞っているけれど、現実としてシナリオもないしシステムも無いし、私達は考えて行動しているわけで、AIとかプログラムでも何でもない。
「な、なんで、何で悪役令嬢ローデリアが、セドリックに大切にされてるのよ!あんた、転生者でしょ!ここはあたしの世界よ!あたしが愛される為の世界なのよ!何壊してくれてんのよ!!」
うわぁ……。
現在の状況を簡潔に言えば、ここは食堂で、殿下と私用のスペースに突撃してきたヒロインが殿下を怒らせ、私達の周りを騎士や殿下の学友、私の友人達が囲うことで守ってくれている。
ヒロインはそんな周囲など目にも入っていないのか、私への憎悪に満ちた目で睨み付けてきている。
「テンセー、シャ?何かのお仕事かしら。申し訳ないけれど分からないわ」
「気が狂っているのか。もうよい。何度も私の名を呼び、あまつさえ私のローデを虚仮にするなど許されるものではない。捕らえて閉じ込めておけ」
あらまあ、ヒロインが捕まって連れて行かれたわ。
「皆様、守ってくださりありがとう。どうぞ元の席へ戻って」
「そうだな。壁となってくれて助かった。感謝する」
まあ、ゲームとは違う方向になるのは分かっていたのよ。だって今のセドリック殿下は母君の側室様は生きているし、何か分からないレベルで私にヤンデレかますし。
今よりももっと幼い頃、私は殿下に監禁されたことがある。未遂ではなく実行されたのよ。
まだ子供だったから大人の男女のあれこれは無かったし、そんな知識もなかった殿下だけど、部屋から出して貰えずずっと抱きしめられていた。
私が他を見るのが許せないとか言って部屋から出して貰えず、取り敢えず三日は耐えた。その間、お父様は発狂しながら陛下に詰め寄っていたし、お母様は側室様に懇願したそう。
最終的に監禁が終了したのは「お外に出れなかったらセディのこと嫌いになります」の私の言葉だったんだけどね。
取り敢えず三日間私を独占したことで不満を減らしたセドリック殿下は、私に嫌われたくないからと監禁解除したけど、今でもその機会を狙っているのは知っている。
正直、怖いなぁとは思うけど嫌ではない。
だって、セドリック殿下はゲームのメインになるほどのイケメンなのよ。ゲームのローデリアが馬鹿すぎてちょろルートって言われるほどのイージーモードだったとは言え。
それがパーフェクトプリンスになった上で私に対してのみどろどろの溺愛を流し込んできたら、そりゃ絆されるよ。
殿下の私への過剰な溺愛は有名で、私を蹴落としてその座を狙おうとした令嬢や家はいつの間にか大人しくなっているのも、まあ、ね。そういう事なんでしょう。怖すぎでは?
なので、学園で殿下を狙うのはなーんにも知らない王都の情報から遠い野心家の令嬢か、あのヒロインくらいだった。
ちなみに、ヒロインの逆ハーレム狙いの攻略は元々失敗している。何せ、手当たり次第にイケメン判定した令息に媚び売ってたから。
ゲームはゲーム。現実の令息達はこの歳には閨の授業も済ませていてハニートラップ系の対策だってばっちり。
この国の常識として、恋人は婚約者にバレないように、ってのを理解しているからあんな堂々と浮気しましょ!的な誘いに乗るわけがない。
後、多分だけどヒロインの中の人は成人してなかったんだと思う。
色気、無さすぎ……。
恋の駆け引きには色気が必要なのよ、この国。
流し目、すれ違う時のそっとした触れ合い。令嬢なら扇子の扱い方一つで恋の駆け引きをするの。なお、婚約者同士でやる時は多少身体接触が増えてもオッケー。
それをガン無視してベタベタ引っ付くのは年齢一桁台の子供扱いになるわけ。
まあ、セドリック殿下はね、恋の駆け引きとかすっ飛ばして夜のお作法を実行したいみたいだけど。落ち着いて欲しい。
ヒロインは恐らく国に送り返されるけれど、多額の慰謝料請求をされると思うなぁ。あちらの国にも責任追及をするだろうし。
となれば、私が断罪されることもなければ他の方達の婚約も継続になる訳で。
憂いが無くなったわけですよ。
「セディ。本日登城致しますが、講義が終わりましたら迎えに来て下さる?」
「もちろん」
「貴方のお部屋で、セーディル産の紅茶が飲みたいわ」
「!もちろん、用意しておくよ」
多少は小出しに許して置かないと、どこかでケダモノが爆発した時がとても怖い。
セーディル産のお茶は名前がセドリック殿下と似ている。それを飲みたいというのは、多少ならば触っても宜しくてよ、という許しだ。
今日帰宅出来るようには制御するつもりではいる。気持ち的には。
まあ、無理でしたよね。
散々待てをさせられていたケダモノにつまみ食いなどそんな我慢が出来るわけないと、薄々は分かっていたよ。
つやつやきらきらぴっかぴか、なセドリック殿下の横で息も絶え絶えに全身疲労の私は、側室様やセドリック殿下を助けたことを後悔はしていないけれど、断罪されても良かったなぁ、と思っていた。
おバカなローデリアはヒロインの身体を損ねるような嫌がらせをする頭も無かったから、断罪されたと言っても婚約の破棄、それから領地に幽閉処分、王都への永久立ち入り禁止で済んでいた。
つまり、領地から出ないなら結婚は出来たわけ。
「ローデ、大丈夫?」
「だいじょうぶに、みえまして?」
「ううん。でも安心して。僕がちゃんと世話をするからね」
私はしばらくこの部屋から出られないんだろうなぁ、というのは感じている。その間にセドリック殿下はヒロインを処理するけれど、私には見せないようにするのだろう。
入浴したから化粧も落として髪の毛のセットも無くなった私をセドリック殿下が見つめる。
「素のローデはこんなにも可愛いけれど、この姿を知るのは僕だけだね」
家族は知っておりますが?
と言うのは口にしてはならない。嫉妬してお父様とお兄様が殿下に虐められるから。
素顔の私は童顔なのよね。化粧で大人っぽくしているけれど。髪の毛もストレートなので巻いてる時よりも遥かに長くなっているし。
それでいて肉感的な体はアンバランスすぎて危ないと判断した私はゲームのローデリアの格好をしていた。
つよつよな姿は周囲への牽制になるからね。
さらさらの髪の毛を手にキスをする姿が格好良すぎて見蕩れてしまう。リアルにやられたら気持ち悪いと思っていた行動も、殿下なら許せるのは惚れた欲目なのだろう。
「わたくしはまだ眠いので寝ますわ」
「うん。ゆっくり休んでね」
結婚式まであと二年なのだけれど、婚姻誓約書の提出は直ぐになりそうだなぁ。
そんなことを思いながら私はセドリック殿下に頭を撫でられる中、ゆっくりと夢の世界に落ちていった。
朝帰りどころか暫くおうちに帰れないけれど、それも覚悟していたので家には連絡していたから二度目の発狂は無かったけど、家族としては微妙な気持ち。




