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第6話 神の山ゴテスベルクの 猫族の天神


挿絵(By みてみん)


「でも、どうなったでしょうか…

シリウス様が恋に落ちた貴女は、猫族(フェリス)

近付こうとすればするほど、

感情が戻るほど、

距離を取らざるを得ず、あの方の苦しみは深まっていく。


三年前、貴女が大神殿を去ったときのシリウス様の絶望と悲しみ…

想像できますか?」


私は睨みつけた。


「もちろん、貴女のせいではない。

シリウス様を救うために、

貴女も、絶望と悲しみを背負っていた。」


ロベルトは少し遠くを見た。


「その後、いったん鎮まっていた独立運動が、各州で、また復活し始めたのです。

シリウス様の命を狙う事件も出て来ました。


貴女が去った後も、必死に国のために尽くしておられるシリウス様の命を…


独立だのなんだの、救いようのないゴミ共です。」


私の心は、ロベルトに賛同することを否めない。

ロベルトは私に目を戻した。


「貴女は、シリウス様に言ったんでしょう?


『シリウスが命を懸けなければ守れない国は滅べばいい』と。


…私はそれを、随分前から思っていたわけです。

十二支というシステムを破壊して、

シリウス様を中心とした新たな統一国家を創ろうと。」


私はロベルトを凝視する。


「十二支を神通力から解放すれば、

シリウス様は御自身の血族に王位継承を行うことで、生贄にも捨て駒にもならない。

シリウス様は、今は一緒に()()()()()()()が運命づけられている猫族(フェリス)の貴女と、

自由に過ごせる。


いいこと尽くめでしょう?」


私は、ようやく声を絞り出した。


「そのために…クロエ様…たちを…?」


「ご明察。

()()()()に教えてもらったのです。

十二支を神通力から解放する、王たちの血を集めた【怨霊(ゲシュペンスト)(フェスト)を。」


怨霊(ゲシュペンスト)…?」


私は声を絞り出した。

頭の中を色々な想念が駆け巡り、繋がっていく。

うなじの刻印が破れそうに痛い。


「ここは…もしかして…ゴテスベルクの…」


「本当に貴女は聡明で素晴らしい。」


ロベルトは…いつもそうだったように、穏やかに私に微笑んだ。


「そう…ここは、ゴテスベルクの、

猫族(フェリス)天神(テンペル)です。」


私の目の前が、真っ白になった。


**********


「そろそろ、貴女もお喋りできるようにしましょうか。」


ロベルトが私の口に指を当てると、私は喋ることだけできるようになった。


私は冷静さを取り戻した。

ここは、落ち着いて話して、ロベルトの計画の全容を知ろうと考えた。


「【怨霊(ゲシュペンスト)(フェスト)には、十二支の王の命が必要ということ…?」


「ええ、正確には9人の命です。忌数(いみかず)のね。」


「シリウスと、貴方と、誰かが生き残る…

その3人で、今の体制を利用しつつ、最終的にはシリウスを王とする統一国家を創る…

という計画ですね?」


「貴女、生き辛いくらいの鋭さですね…その通り。

十二支の王9人だけ死ねば…もう3人死んだので、後6人死ねば、

シリウス様が報いられる世界が構築できます。」


「なるほど…」


私はじっとロベルトを見た。


「私に何を協力しろと?」


「たった6人、されど6人です。

十二支の王は強い。私が手を回してその命を奪うには時間がかかり過ぎる。

でも、シリウス様がその気になれば、即座に6名の命を奪える。」


「私に、シリウスをこの計画に賛同するよう(そそのか)せということでしょう。」


「愛を持って説得してください、というお願いですよ。」


ロベルトも私を見つめている。


「私も、彼らが好きなのです。

独立運動も、地下組織がやっていることで、十二支の王が牽引しているわけではない。

実際、今期の十二支の多くは気のいい人間で、シリウス様に心酔していますから。」


ふいに、ロベルトは、200数十年と言われる年齢とは思えない整った表情を綻ばせた。

何かを思い出したように。


「でも、【怨霊(ゲシュペンスト)(フェスト)には、9人の命が必要。

まあ、シリウス様を愛してやまない十二支の王なら、命を落としても、あの世で祝杯をあげるでしょう。」


私は目を閉じた。

妙な納得感に押し流されそうになっている。


「神通力というシステムを解放しなければ、

独立派の運動が過激化して、シリウスが殺されるかもしれない。

多くの人が命を落とすかもしれない。

私がシリウスを殺す可能性も消えない…」


私は噛みしめるように言った。


何度思ったことだろう。

どうして、シリウスが鼠で、私が猫などという因果な属性に生まれてしまったのだろうと。

神通力などのない国に生まれて、属性に怯えることなく、

シリウスと向き合うことができたら、どんなによいだろうと。


「そうです、リヒトさん。

シリウス様もあなたも、まっすぐで、聡明で、懸命なお方だ。

シリウス様を虐待したり、貴女を嘲笑したりした人間たちよりも遥かに幸せになる資格がある。

私は、どうしても、幸せにして差し上げたいのです。

怨霊(ゲシュペンスト)(フェスト)の罪悪感などを、シリウス様と貴女が背負う必要はない。

9人には、私が死んだときに、あの世でしっかりと謝っておきましょう。」


ある意味、隙のない説得だ。

私は思わず微笑んだ。

ロベルトは少し安心したように続ける。


「大量の神通力が国中に発出されていました。

おそらく、シリウス様が貴女の居場所を突き止めて、それでテオもここに来たのでしょう。

もうすぐ、シリウス様もいらっしゃるはず。

ぜひ、貴女からもシリウス様を…」


「お断りします。」


(次話に続く)


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