第5話 神鼠の誘拐の真相と 幸福の計画
※本話の参考
⇒第Ⅰ章ep.2(https://syosetu.com/usernoveldatamanage/top/ncode/3045114/noveldataid/28062832/)
頬のひんやりした感覚と共に、私は薄目を開いた。
なぜかこの場所にいることに納得して、しばらくぼんやりしていたが、
部屋に大きな黒い穴が出現して引き込まれたことを、徐々に思い出してきた。
ハッと目を開くと、
「お目覚めですか?」
と声が聞こえる。
私は、声の主を見てホッとした。
私はふらつきながらも起き上がろうとした。
「あ、ありがとうございます。
部屋に大きな穴が出来て、引き込まれたんです。
一体何が…」
その人物は、上体を起こそうとする私の背中を支えてくれる。
頭がまだ霧の中を歩いているようで、思わずこめかみを押さえた。
前を見ると、ガランとした石の広間のように見える。
「あの…ここはどこですか?シリウスは…?」
何が何だか分からず、面食らってその人物を見上げると、
その人物…神牛ロベルト様はいつも通り穏やかに言った。
「シリウス様は…もう少しすればいらっしゃいます。」
「良かった…シリウスは無事なんですね!」
私は胸を撫でおろした。
と、同時に、ようやく頭の霧が晴れてきた。声にも力が入る。
「ロベルト様、一体何があったのですか?
ここはどこですか…?
他の人たちはどこに…?」
「ようやく、意識がはっきりしてきましたね。
こうしていると、貴女と初めてお会いした時を思い出しますね。」
「ええ、本当です。
ロベルト様には助けていただいてばかり…」
私は、あの大晦日を思い出し、
思わずロベルト様に笑いかけながら、
周りを見回して…
「アッ!!!!!!」
と叫んで、自分が横たわっていた石の台を飛び降りた。
「ロベルト様、大変です!!!テオ様が倒れています!!!
テオ様!テオ様!!」
ロベルト様が近付いてくる。
「ロベルト様、すぐに助けを…」
「お静かに…もちろん、気づいてますよ。テオが倒れていることには。
私が殺しましたから。」
私は谷底に叩き落されたようにロベルト様…ロベルトを見上げた。
「ハッ…?」
口がワナワナと戦慄いて言葉が続かない。
これは夢だ、
冗談だ、
私を驚かそうとしているのだ、
などと、頭が都合いい理由を探して駆け回っている。
「さあ、あちらもご覧ください。」
とロベルトが、扉を開けてホールに誘うように腕を伸ばす先を見ると…
「アア――――――――――ッッッ!!!!!!」
私はその場にしゃがみ込んだ。
「イヤアア――――――――――ッッッ!!!!!!」
私は顔を覆って、ただ喚く。
ロベルトが指し示した先には祭壇があり…
クロエ様、フレドリック様の首が祀られてあったのだ。
「なぜ!?なぜ!?!?」
私は、あの祭壇の下の台で横たわり、ロベルトとにこやかに話していたのだ!!!
クロエ様とフレドリック様の首の下で!!!!
私は大きく飛び下がり、その場から逃げ出そうとした。
しかし、
「神門開放 神通力【牛歩】」
詠唱と共に、私の身体はほとんど動かなくなった。
「さあ、お戻りください、リヒトさん。」
ロベルトは私の首を掴むと、祭壇に戻って私を台に座らせる。
私は身動きも、声を出すこともできず、
必死にロベルトを睨みつける。
「怖がらないでください。
貴女には、協力をお願いしたいのです。
ああ、喋らないでも大丈夫。
ちゃんと説明しますから。」
*******
「ご存じのとおり、隣国クラウンが起こした誘拐戦争で虐待にあい、
シリウス様は感情を失いました。
5歳のシリウス様を2年にわたって虐待したのは、相当数の人間です。
誰だと思いますか?」
私はただロベルトを睨んでいる。
「クラウンの人間だと思うでしょう?
実はクラウンの人間は少数です。
大多数は、ツヴェルフェトの人間でした。」
私は目を見開いた。
「私たちが救出に入った部屋では、シリウス様は、
ちょうど、複数のゴミ共に穢されている最中でした。
それも、考え得る限りの悍ましい方法で。」
私の心が八つ裂きにされる。
シリウス…
「その後、全員生かしたまま捕えて調査したら、
彼らがツヴェルフェトの人間だと分かったのです。」
なぜ、ツヴェルフェトの人間が、大王となる神鼠の少年に対してそのようなことを…?
「なぜか、とお聞きになりたいのですね。
シリウス様が神鼠を継承したのは、生まれた瞬間です。
我々は必死に支えましたが、何せ赤ん坊…
シリウス様が5歳になるまでの間、神通力は不安定で、
国も全体的に不安定になりました。
そのときに、各神獣が治める州を独立させる運動が、各地で起こったのです。」
私は、ロベルトをただ見つめる。
「この独立派の連中が、隣国のクラウンと手を組んで、あの誘拐戦争を起こしたんです。
シリウス様を殺してしまうと、全面戦争になり、
クラウンにとっても、まだ組織が確立していない独立派にとっても都合が悪い。
そこで、シリウス様は拘束され、
クラウン国内、独立派の根城を転々として、生かされていたわけです。」
クラウン、ツヴェルフェト各州の独立派の根城を転々…
当時、シリウスの居場所がなかなか掴めなかった理由はここに…
「虐待は、誘拐してすぐに始まったようです。
シリウス様は、幼いころから類まれなご容姿、
そして、狂った嗜好の者がいて、それが徐々に広がって習慣化し…
行った先々で…しかも悪質化していった。
幼いシリウス様は死ぬことも許されず、ただ苦痛と絶望の中を生きた。
感情をなくされたのも当然です。」
もう私は聞くに堪えなかった。
「そのゴミ共は、私が預かりました。
国中からおかしな嗜好の者を集めて、
2年かけて拷問させ、徐々に死に追いやりました。
当然です。」
ロベルトは、そのカラスの濡れ羽のような黒い瞳をジッと私に注いだ。
「その後のシリウス様は、貴女も分かるでしょう?
本当に、素晴らしい方です。
…それなのに、あの方は、その努力や真摯さに見合う幸せを得られない。
楽しさも喜びもなく、ただ、国のために生きる。
あの方は、その国の人間に拷問され、虐待され、穢されたのに。
しかも、この国では、王は生贄で、捨て駒。
あの方に近づく人間のほとんどは、今の、地位や素晴らしい容姿にすり寄っているだけ。
最終的には捨てられるんです。」
私はじっとロベルトを見つめ返した。
「それでも、シリウス様の感情が戻れば、あの方にも、
何かしら幸せが訪れると思ったのです。
それは、一部では正しかった。
…シリウス様は、貴女という女性に出会い、ひとときの喜びを得ましたから。」
神通力で抑えられていても、涙だけは溢れ出した。
こんなことを考えている人が、どうして、
クロエ様やフレドリック様の首を祀り、
テオ様を殺すのか?
(次話に続く)
十二支と神鼠は猫に「こい」
第Ⅰ章(人生の 最後のページで 見えるもの):https://ncode.syosetu.com/n5418ls/
第Ⅱ章(禁忌の竜):https://ncode.syosetu.com/n3802lt/




