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第3話 穢されても、貴女は死なずに待っていて

挿絵(By みてみん)



「見つかったんか!?!?」


テオが飛び掛かってきて、僕たちは一緒に倒れ込んだ。


僕は、テオを押しのけながら、

何とか肘をついて上体を起こす。


今は、テオが探す、自分が探すと競い合っている場合ではない。


「ゴテスベルク…」


「ゴテスベルク?

なんでや、そんな遠くに、こんな短時間で行けるわけ…」


「ゴテスベルクだ!」


テオが、金色の目でじっと僕を見た。


「俺、行くわ。」


「待て。おそらく、リヒトさんはまだ生きている。十二支で協力して…」


「はあ?アホか!王様たちに付き合うてられへんわ!

俺は一人で行く。」


テオが、蔑むような金色の眼差しで僕を見る。


「女の子一人に十二支の王が駆けまわって、お国はどないなるん?

アンタらの大事なお国は!」


テオが僕の(あご)を掴む。


僕はテオを睨み返す。


「俺は、今日、閉会の儀もフケて、リティのとこに行っててん。

俺、おらんかったやろ?」


思わずギョッとする僕を、また蔑むような眼差しで凝視する。


「フレディの事件があったすぐ後になあ、

お仕事ごときで、リティを放っておけへんやん。

あの子、猫族(フェリス)やで?

なにで狙われるか分からんやろ?

閉会の儀も終わったし、さすがに大丈夫やろ思て帰ったら…

この体たらくや!!!」


テオは、僕を後ろに突き放して倒そうとしたが、

逆に僕が、テオの髪を掴み返す。


僕は何も言い返せない。

ギリギリと二人で睨み合う。


神鼠(しんそ)の大王様に、リティは守れへん。

俺は…」


テオは僕を突き放すと、スラリと細い剣を抜いた。


「俺は、十二支から降りる。

…なあ、自分、目ェ離すなよ。

その空色の、綺麗なお目目をな?」


サッと顎の横にある神蛇(しんじゃ)の刻印「٦」に刃を当てると、

自分の皮を()ぎ始めた。


僕は、テオを睨みつけたまま言った。


「そんなことをしても、お前は神蛇(しんじゃ)から降りられない。」


「知るか、そんなこと。誰かに刻印の墨でも入れとけばええやん。」


テオは、表情一つ動かさずに、

削ぎ落した刻印の皮を、僕の目の前に突き付けてからポトリと落とした。


「なんぼでも削ぎ落としたるわ。

俺は十二支を降りて、リティと生きる。

天罰受けても、生き抜いたるわ。」


テオの金色の目は僕を見据えている。


ああ、この目でリヒトさんは見つめられたのか。

リヒトさんと二人で生きることだけを見つめる、この揺らぎのない目で。


「おっと、十二支降りる言うたけど、

これだけは使わしてもろて、行けるとこまで行くわ。

神路開門 神通力【蛇の道】」


白金の道が窓から外に向かって伸びる。


「ほなな、大王様。

せや、付きまとわれたらイヤやから、

リティを助けたら、連絡だけはしたるわ。」


蛇の道に足を掛けるなり、テオの姿は消え去った。


*************

僕は、立ち上がろうとして両手をついた。

まだ、息が荒く、汗もしたたり落ちてくる。


でも、テオの発言を聞いた僕の頭は、かえって冷静になっていた。


テオの挑発に乗るつもりはない。

このテオの行動も使って、リヒトさんを、生きて救い出す。


僕に、暗くて、長くて、穢れた地獄の記憶が蘇る。


リヒトさん、ごめん。

穢されないところまでは保証できない。


でも、生きていれば、僕が一緒に背負える。

だから、絶対死なずに待っていて。


「神路…開…門…」


僕は吐きそうなのを堪えて、

十二支に事件を知らせ、対応を要請する術を立て続けに発動する。


「神通力 神鶏(しんけい)(はやぶさ)】」


「神通力 神馬(しんば)【|赤兎馬(せきとば)】」


僕の肘がガクリと落ちた。


が、なんとか近くのソファーによじ登り、「ダンテス!エデ!」と震える声を張り上げる。


瞬間に、二人は部屋に飛び入って来て膝をつく。


「リヒトさんはエクウスに帰ったことにしろ。

この騒ぎは、僕が、より大きな神通力を得た、めでたい出来事とする。」


僕は片手で目を覆い、上を向いて、背中をソファに預けた。


「これから、僕はいなくなるけど…」


グッという唸り声が二人から聞こえる。

僕は片手を目から外して、彼らを見た。


「僕が死んだら、という意味じゃない。

これから、僕自身が、リヒトさんを助けに行く、という意味だ。」


二人は目に見えて顔を輝かせる。


「大きな神通力を得た感謝の儀式を、

数日間、大王のみが知る場所で行う、という体にしろ。」


僕は上体を起こして、じっと二人を見つめた。


「僕は死なない。

リヒトさんを助けて、ここに、帰って来る。

行け!!!」


『は!!!!!!』


目の周りを真っ赤にしながら、二人は瞬時に退室した。


僕はフラフラと立ち上がると、

昨夜エデが準備していたブランデーを、瓶のままガブガブ飲んだ。

身体に熱い血が入ってきたようで、

目が覚め、全身が生き返っていく。


僕は袖で口を拭うと、部屋を飛び出した。


「神路開放 神通力【独楽鼠(こまねずみ)】!」


駆け集まる透明の独楽鼠たちの山のような報告を聞く。

やはり、全ての報告はゴテスベルクにリヒトさんがいることを示唆している。


後に続く護衛の隊士たちには

「ここで待て。ダンテスに従え。」、

目を回しているメイドには

「執務室に、片手で食べれるものを運べ。」、

従者には

「僕の部屋に狩りの服を。門に馬を。」

と命じる。


僕は執務室に駆け込むと、山のような書類の隣で、

委任状や指示書を猛然と書いた。


その間にやってきた(ひげ)の長官に指示を与え、彼が静かに頷くのを確認する。

彼が頷けば、官吏の業務は2、3日滞りないだろう。


それから僕は自室に飛び込み、

狩りの服に着替える。


ヤンが手際よく手伝うから早い。

ヤンはさらに、「旅のお品でございます。」と僕に布袋を渡す。

僕は「助かる。」と言ってそれを背負うと、

短めの黒いマントを羽織りながら廊下に出た。


裏門には、ダンテスとエデ、ヤンしかいない。

三人に目で頷き、愛馬にまたがると、

ゴテスベルクに向けて一散に走り始めた。



十二支と神鼠は猫に「こい」


第Ⅰ章(人生の 最後のページで 見えるもの):https://ncode.syosetu.com/n5418ls/

第Ⅱ章(禁忌の竜):https://ncode.syosetu.com/n3802lt/

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