やっぱり白がいい!
恥ずかしい過去。
小学四年生の頃、あなたと同じクラスには、ガードが大変ゆるい女子がいた。
この女子の私服は基本、ズボン着用だったが、ミニスカートを穿く日も結構多かった。
「あの子、スカートの時だと、いっつもチラチラ見せてるよね」
「うん。男子を誘ってるのかな?」
本人に聞こえない距離で女子達がそう喋っているのを、あなたは耳にした。
実際、男子が周囲にいても、当人は下着が見えてしまうことをあまり気にしていない様子だった。
男子にパンツ見せてと頼まれて、うんいいよと応じているところまで、見たことがあったりする。あなたは彼女に、そのようなことは言わなかった。
それで彼女の下着は、白しか見たことがない。そこまで記憶が残るほど、ミニスカートの中を目にする機会は何度もあった。
ある日、別の女子が彼女へと、さりげなく助言する。
「ミニ穿いてる時は、下に何か穿いたほうがいいんじゃない?」
その女子は、ただの親切心で言ったのだろう。けれど、男子にとっては、単なるありがた迷惑だったと思う。
この日を境に、彼女は黒パンを穿くようになり、あなたもまた、残念に思った。
◇
「――ということを思い出したんだ」
あなたは喫茶店で、向かい合って座る女子に昔の話をしていた。
今のあなたは、高校生だ。
セーラー服を着たこの女子とは、偶然にも高校が一緒だったらしい。下校中に彼女の姿を見つけ、つい衝動的に、話をしたいと彼女をこの店に誘ったのだった。もちろん、テーブルにある彼女の飲み物の料金はあなた負担である。
容姿は地味な印象だったという点は、あの頃と変わらない。見てすぐに分かるぐらいに、当時の面影が色濃く残っていた。
あなたからの思い出話につき合ってくれていた彼女は、大変恥ずかしそうな顔になっている。
「あの……誤解がないように言っておくけどね。私、別に男子を誘惑していたとか、そんなつもり、なかったからね? あの頃はそんなこと、本当に気にしてなくて……っ」
弁解する彼女に対し、申し訳なさも感じてしまうが、彼女がかわいいとも思ってしまった。
きっと彼女の中では、あなたはすでに変態扱いになっているに違いない。それならもう、言い繕うよりも突き進んだほうがいいだろう。
あなたは欲望を解き放つ。
「あの時みたいに、今ここで見せてもらっていい?」
「お店の中で見せられるわけないでしょー」
近くに顔を寄せられ、囁き声で非難された。
彼女は幼い頃と違い、恥じらいを完璧に自覚している。
「じゃあ、いいや」
あなたが諦めて以降、会話は途切れた。
「……飲み物代、ありがとう」
喫茶店を出た後、彼女に感謝された。
「ちょっと来てもらっていい?」
いきなり彼女に誘われたものの、あなたは承諾した。
無言で進む彼女を前にして、しばらく道を歩いた。
「ここなら誰も来ないかな……」
彼女はそう呟いて、ひと気のない裏道で足を止めた。
あなたも後ろで立ち止まると、彼女はあなたのほうへ体ごと向いた。鞄を地面に置いて、足を肩幅ぐらいに開き、ミニスカートを大胆にたくし上げた。
「あっ、ごめんなさい。スパッツ穿いたままだった」
頬の赤い彼女は、下部を目視してから言った。
全然謝ることじゃないと感じたが、あなたは黙っておいた。
今になって思うと、当時の黒パンでも、見ることが出来ただけであなたは幸せだった。下着を見られるのを防ぐためのそれは、男子にとって、白い下着と大差なかった。
今の彼女が着用しているものは、一分丈の黒いスパッツだった。当時と同じかどうかは、はっきりとは思い出せない。
彼女はスカートから手を放し、足と足の間を狭め、スパッツを膝辺りまで下ろし、改めてたくし上げをした。
今度はレモンイエローの下着が現れた。白いリボンやレースもついた、魅力的でかわいいショーツだったが……やはり、物足りない。
「白じゃないんだ……」
「えーっ? 見せてもらっておいて、そんな反応するっ?」
彼女は抗議の声を出した後、すぐにスパッツとスカートを戻して、カバンも背負った。
「飲み物ご馳走してもらったから見せてあげたけど、もーいいよねっ! さよならっ!」
彼女を怒らせてしまった。
あなたは足早に去って行く彼女を目で追いながらも、ずっと立ち尽くしていた。
◇
翌日の放課後、廊下で彼女と出くわした。
あなたとは違うクラスの彼女は、思っていたよりも怒っていなさそうに見えた。
それに、昨日会った時よりも制服のスカート丈が長いように感じられた。
「来てくれる?」
昨日の再来のごとく彼女に誘われて、しばらく校舎内を歩いた。特別教室棟の誰も来ないであろう場所に着いて、彼女は足を止めた。
鞄を廊下に置いて、足を少し開いて、スカートを大胆にたくし上げると、そこには白い下着があった。
何も装飾のないような安っぽい下着だったが、あの頃を思い出させるような一品だった。
「白! これで文句ないでしょ?」
再現をしてくれた彼女は、今度はお尻側を向けて、スカートを持ち上げる。やはり、白一色だった。
「ここまでしてあげてるんだから、今日も飲み物、ご馳走してよね!」
彼女のご奉仕姿に比べれば、そんなの大したことのない交換条件だった。むしろ一週間、毎日だとしても、あなたは惜しくもなかった。
◆
あなたの知らない、本日の彼女の登校時のこと。
「今日、スカートの丈、ちょっと長くない? どうしたの?」
クラスの女子に彼女は聞かれた。
「ええと……昔の自分に負けないため……なのかな? 多分、私のくだらない意地だと思う」
スパッツ着用をしていない彼女は答えた。
彼女の良いところは、ずっと変わっていない。
昔も今も、頼まれたら応えてくれる。
これが、あなたの知っている彼女の姿だ。
(終わり)
ストーリーあるいはタイトル通り、思い出の白が勝利しましたが、レモンイエローもじゅうぶんに素敵です。
最後までお読み頂き、ありがとうございました。




